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2017年06月13日12:50

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【バレエ】 ボリショイ 「白鳥の湖」 (3公演)

ボリショイ公演もいよいよ終盤、東京は「パリの炎」のみとなった。

「パリの炎」と言えばオシポワ&ワシリーエフ・ペア、
超絶技巧全開の舞台は映像にもなっているから、
伝説(?)の舞台の再来を期待している人も多いと思う。

しかし、昨年年明けのマールイ公演「ローレンシア」を観た人は、
イワンくんの配役が発表されると、期待ではなく不安を覚えたに違いない。
1年半前の彼は、緩んだ体型から練習不足は明らかで、
技にキレはなく、終盤は体力も尽き、
ハンスかよ!? とツッコミを入れたくなるほど、
よれよれになっていたからだ。

果たして今回、彼は復活しているのだろうか...。


「『ジゼル』の興味深い感想を見つけたよ」 と、お師匠さま。

年期の入った筋金入りのボリショイ・ファンが、
今回も3日間すべてを観覧、その比較を記しているという。
初日と3日目の記述を我々の記憶と照合すると、
内容も信用して良さそうだ。

それによると、姫は気分が乗らなかったか、
でなければ体調がいまひとつだったらしい。

ネットでは、
「ザハロワさんすげー、最高ー!」のオンパレードだが、
実際はそうではなく、年齢を考えると少し早い気もするが、
もう古典は無理なのかも、と思わせる、
省エネ・モードの舞台だったそうだ。

たとえば1幕のジゼルのヴァリには、
片足を前に上げて膝から下をくるくる回しながら、
ポワントで前に進んでいく有名なパがあるが、
それをやらなかったそうだ。

この日特筆するとしたら、
VIPが観覧ということで気合いの入っていたオケで、
「バレエの全幕作品」として観た場合、
最もバランスの取れていたのはクリサノワさんの日、
3日目だったらしい。

主役が本調子ではない2日目の舞台を観て、
「ザハさん凄い!」と感激する観客も観客だが、
理由はどうあれ、中途半端なパフォーマンスを、
観客に見せてしまう彼女には、
話には聞いていたが、やはりがっかりした。

彼女に好意的な解釈をするなら、
本来なら降板して代役に任せるところを、
観客と興行側が許さない環境に問題がある、とも言えるが、
「観客」が熱狂し満足するのなら、多少出来が悪くてもいいか、
と思っていたとしても不思議ではない。

昨今、彼女の舞台に足が向かないのは、
そういうグレーな側面があるからだが、
とはいえそこはボリショイの看板ダンサー、
後述のように「白鳥」の出来は良かったらしい。

なお私が観たのは7日のみで、
我が師は7日と8日、11日を御覧になった。


〇6月7日
スミルノワ/チュージン/ツヴィルコ

スミルノワさんは、スタイルは良いし美人だし、
ワガノワ仕込みの踊りは端正で美しく、足音も静かだが、
踊りから言葉が聞こえてこない。
オディールも目力が足りないので、
淡々と「白鳥」の踊りを眺めていただけの気分。

相方のチュージンくんも、
なぜか最初から最後まで存在感が薄く、
最初は彼だと気付かなかったほど。
(「白鳥」の配役は誰でも良かったので、覚えていなかった)

*12日、彼は途中で降板し、ラントラートフさんが代役に。
やはりどこか不調だったようだ。

周囲の観客の反応は両極端で、
昔のボリショイを知る人と、最近ここを観だした人なのだろう。
腐ってもなんとかではないが、欧米のバレエ団と比べたら、
たしかに「古典を観た」という気はするからだ。

寡黙な主役2人とは逆に、
この日いちばん大きな拍手を貰っていたのは、
ロットバルトのツヴィルコさん。

「ジゼル」では主役に挑戦したが、我が師によれば、
踊り慣れていることもあり、この日の方が生き生きとしていたそうだ。
彼が舞台上にいると、主役が傍にいても、
目はいつのまにか彼のことばかり追っている。
それだけ踊りが雄弁で、魅力的なのだ。

現在のグリゴロ版は、オデットはロットにさらわれて、
ひとり王子が嘆き悲しむところで終わると言う、
後味の悪い演出なので、観るたびに元にもどせよ、
と心の中でヤジを飛ばしていたが、
この日ばかりは、この程度のニンゲン(主役)に、
物語の美味しいところを持っていかせるものか、
という悪魔の嘲笑が聞こえてくるかのようで、
なぜか腑に落ちてしまった。(笑)

道化のスモリャニノフさんも、
勢いはあるのだが、パの終盤で回転の軸がぶれるなど、
ダイナミックというよりは雑な印象が残る。
終演後、我が師と顔を見合わせると、
「岩田さんが懐かしい」と、ハモってしまった。

グリゴロ版の良いところは、
余興扱いだった各国の踊りの中心に、
それぞれの国の花嫁候補たちがいることだ。
ただのディベルティスマンのひとつではなく、
王子へのプレゼンの場となっている。

またロシアだけ無意味に特別扱いされていないところもいい。
久しぶりに正統派の美しいルースカヤを観た気がする

ドゥウィリで音楽的な踊りは健在であることを確認できた、
ハンガリーのトゥラザシヴィリさんは、元シェフチェンコのダンサー。
この日もバレエの基本、優雅な動きをベースに、
速いテンポに振り回されることなく、
ハンガリー独特の振付をきっちりこなしていた。

スペインの元気な姫もまあまあだったが、
背中の反りの弱い男性陣は物足りなさが先に立ち、
ついメルクリーエフさんやオマールさんの、
ぞくぞくするような踊りを懐かしんでしまった。

3羽と4羽の白鳥は対照的で、
4羽はさながら量産型アンドロイドのよう。
速めのテンポにもかかわらず、振付は平然とこなしているのだが、
なぜか面白味に欠ける。

逆に3羽は人数が少ないとはいえ、一応群舞なのだから、
もう少し合わせても罰は当たらないのでは、と思ってしまうほど、
踊りのスタイルもタイミングも自由奔放。(笑)

動きは大きいが雑な先頭、
丁寧というよりはなんとなく踊っているだけの真ん中と比べると、
上手のコワリョーワさんはもっとも大白鳥らしく優美で、
群舞からミルタへの抜擢にも納得。

白鳥群舞たちは、足音がやはり気になる。
欧米のバレエ団と比べれば十分静かなのだが、
どうしても一昨年のシェフチェンコや、
最近の国内バレエ団と比べてしまうと、耳についてしまう。

群舞は若手とベテランの混成で、
ベテランの妙味に若手が新鮮さを加えているというよりは、
若手がベテランの足を引っ張っている印象だった。


〇6月8日
ザハロワ/ロドキン/クリュチコフ

「やはり昨日とは違う。ザハロワさんの日だけ観ている人と、
他の日を観ている人が話をしたら、噛み合わないかも」

「ロドキンくんは、登場から華やかで存在感がある。
パフォーマンスも以前より良くなっていると思う。
ラインはまだ甘いところもあって、チュージンくんの方が美しいけど、
パッと目を引くところもある」

「トロワは同じ振付かと思うくらいに違う。
伸びやかで大きい踊りだけれど、あくまでも優雅。
特にトゥラザシヴィリさんが抜群に良い。
柔らかくしなやかで、余裕があるのに音楽にはぴったり。
長い手脚を振り回すところが一つもない」

「ザハロワさんは、とても調子が良いというわけではないけれど、
存在感が違う。舞台全体が高貴な雰囲気になる」

最近の彼女の写真を観た時、以前よりも絞った感じがして、
特に腕の細さが気になった。するとお師匠さまによれば、
全体的には優雅で大きく、美しい踊りではあったけれど、
彼女にしては「おつり」が気になったという。
懸念したとおり、筋肉が減ってしまったようだ。

バレエ・ダンサーは体重の増加に注意していると聞き、
体型は細い方が良い、と思っている人がいるが、それは違う。

一流のダンサーたちが厭うのは、
跳躍する時はデッドウェイトとなり、
手足を動かす時は余計な慣性モーメントを生み出す脂肪であって、
必要な筋肉を付けることには躊躇わない。

ちなみに都さんなども語っているように、
しっかりトレーニングをしている人たちは、
練習でカロリーを消費するから、特に食事制限はしていないという。

筋肉には、
手足を動かすのに必要なアクチュエーターで、
使う時も車で言うならアクセルを踏み込むイメージがあるが、
同時に動いている手足や回転する首や身体を、
望む時、望む位置でピタリと止める、ブレーキの役割もある。
だからブレーキ(筋肉)が弱いと、
正確に止めることができず、「おつり」が出てしまう。


〇6月11日
ステパノワ/オフチャレンコ/クリュチコフ

「(全幕作品としては)今日が一番バランスが良かった。
突出して誰が良いというわけではなく、それぞれが良いパフォーマンスだった。」

「道化は今日のグーセフさんが一番好み。キレがあって愛嬌もある。
やはり小柄なダンサーの道化が好きかも。
トロワの女性2人は、スミルノワ&チュージンペアの日と同じだけど、良くなっていた。

元気で溌剌としているのは同じだけど優雅さも少し加わり、
貴族の元気なお嬢様として成り立つ」

「オフチャレンコさんのジークは、
ちょっと少年ぽいやんちゃさもありながら、丁寧で伸びやかな踊り。
チュージンくんと比べると、時々膝は甘くなる。
明るい王子で感情表現もわかりやすい。
2幕3場の最初のヴァリエーションは、喜びを噛み締めている感じ。
コーダのヴァリエーションは浮かれ気味だけど、
ロドキンくんよりはおとなしめ」

「ステパノワさんの白鳥は、結果メリハリがある。
ジークと出会って逃げるところは激しく、
アダージョではしっとりとした女性らしいオデット。しなる脚が美しい」

「オディールになるとシャープな踊りになり、脚がしならなくなる。
キレがあり、カッコよさと華やかさに加え、時々色っぽさもみせる」

「ロットバルトはクリュチコフさんで、ザハロワさんの日と同じ。
今日は主役2人も細身で長身ではないので、バランスよく見えた。
ジークとロットのユニゾンもオフチャレンコさんとの方が息が合っていた」

「群舞の足音はあまり変わらないけど、揃ってきているので、
あの長い手脚を大きく使って揃えられると壮観。
オケは多少のミスはあったけど、
それよりもドラマを盛り上げる迫力と情感溢れる演奏を聴けることが幸せ」

「主役2人の間の愛情は、今日が一番あったかも。
ロドキンさんも濃かったけど、2人の間に情感があったかというと薄い感じ」


総じて日を追うごとに良くなってはいるようだが、
S席2万越えのチケット代を考えると、
やはり首を捻りたくなるそうだ。

「我々は良いものを観ていたのですね」
と呟くと、無言で首肯するお師匠さま。

さすがにマクシーモワさん、セメニャカさん、
ムハメドフさんには間に合わなかったが、
ニーナさん、グラチョーワさん、ステパネンコさん、
ウヴァーロフさん、フィーリンさん、ツィスカリーゼさんは堪能した。
生プリセツカヤさんもガラなら観たぞ。(笑)

少し前まではアレクサンドロワさん、アラシュさん、
ルンキナさん、岩田さんたちもいたから、
観られる日が限られた時は、どの日にするか迷いに迷った。

来日するエース級の人数が多く、
ソリスト以下の層も厚かったから、
たとえ贔屓が降板しても、
代役による舞台の満足度は保証されていたので、
チケットを手放そうとは考えもしなかった。

...前々回までの来日公演の話。
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