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2017年02月15日12:49

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【WRC】運も実力のうち、とは言うけれど

ローザンヌをハイレベルな国際コンクールと勘違いしたり、
自然災害だからと大川小の遺族を金の亡者扱いするなど、
背景を知らずに脊髄反射で口を開く人をよく見かけるが、
スウェーデン・ラリーでのトヨタ優勝ニュースを見て、
ヴィッツ買うぞ! と言いだす人も同類である。

いや、録画したライブ映像は何度も見てしまったし、
ラトバラが無事ゴールした時は、
思わずガッツポーズしたけどさ。(笑)


WRC(世界ラリー選手権)は、
F1などと同じように世界各地を転戦し、
ドライバーとメーカー(マニュファクチャラー)が
ポイントを競うもので、今年は13戦が予定されている。

ちなみにル・マン24時間レースは、
WEC(世界耐久選手権)の一戦だが、
ダカール・ラリーはWRCとは関係なく、
かつてのサファリ・ラリーはWRCの一戦だったが、
諸般の事情により今は開催されていない。

整備されたサーキット・コースを舞台に、
よーいどん! で一斉にスタートするF1、WECに対し、
WRCのコースはそのへんの山の中、
スタートも時間をずらして1台ずつとなるから、
視覚的に抜きつ抜かれつのバトルが好きな人は、
WRCにはたぶん興味がないと思う。

にもかかわらず、メーカーがWRCを重視し、
ファンもそれなりにいるのは、
走っている車が身近に感じられるからだろう。

特に1987〜2001年のグルーブA規格の頃は、
トップ・カテゴリーの車でも、
ベースとなる車両は年間最低2500台売らなあかん、
というホモロゲーションがあったから、
実際にベース車両を購入して、
見た目を競技車両っぽくする人もいた。

レースに勝てば車が売れる。だから勝てる車を造ろう。
だがベース車両から競技車両への改造範囲は限定されている。
ならば最初からハイスペックの車を用意しておけばいいじゃん、
というわけで、1.5〜2リッター級のファミリーカーを、
メーカー自ら魔改造を施し、商品のラインナップに加える。

その代表例が三菱のランエボとスバルのインプレッサWRXで、
トヨタのセリカGT−FOURやランチアのデルタ・インテグラーレも、
同様の目的で開発された車だ。

しかし、いくらポルシェ並みの高性能車でも、
基本は安いファミリーカーだから、
セレブたちが手を出すような車ではなく、
値段は改造した分高くなるから、
車を家電製品の一種としか思わない人たちからも敬遠される。
結局、2500台というホモロゲが負担となり、
WRCから撤退するメーカーが相次いだ。

トヨタのWRC参戦は、1970年代にまで遡り、
1975年にはフィンランドの1000湖ラリーで初勝利を挙げ、
1980年代にはサファリ・ラリーで3連覇を成し遂げている。

昨今のWRCは、すっかりスプリント・レース化してしまったが、
当時は車の信頼性もいまほど高くなかったので、
サバイバル・レース的要素が強く、
サファリ・ラリーはまさに冒険レースでもあった。
その頃のアバウトな雰囲気は、
新谷かおるさんの名作漫画「ガッデム」が詳しい。(笑)

1993年と94年には、トヨタはドライバーとメーカーの、
ダブル・タイトル奪取を果たしたが、
95年はシーズン中のレギュレーション違反により失格、
そのペナルティとして、96年は出場停止となった。

さらにトヨタはもう1年、自主的に参加を見送ったが、
これはルール違反を反省してではなく、
レギュレーションの大変革を背景とした、
車両の開発期間、と見るのが正しい。(笑)

そして1998年、トヨタはWRCに復帰し、
翌99年には再びメーカーズ・タイトルを獲得したが、
モータースポーツの予算をF1に集中させるため、
これを最後にWRCへの参戦を中止した。

とまあ、今回のトヨタWRC参戦は、
日産のお笑い三輪車のような受け狙いではなく、
伝統行事へのリトライだから、
一ラリー・ファンとしては嬉しい限りだが、
なぜ今WRCなのか、という気もしなくはない。

トップカテゴリーの車両はもちろん、下位クラスの車両も、
見た目こそ市販車に似ているが中身は別物で、
買うことができるプライベーター向けのR5規格車両でも、
新車価格は2000万円を超えるという。
エンジンも1.6リッターと小排気量ではあるが、
ターボ付きのガソリン車で、ハイブリッドですらない。

WECのアウディが勝ち逃げしてフォーミュラEに移行したのは、
車の将来は電動にあり、と見なしたからで、
フォルクスワーゲンがWRCのトップカテゴリーから手を引いたのも、
予算の削減が一番の目的だろうが、
4連覇という箔が付いた今なら、
より市販車に近いR5車両の開発に傾注した方が、
PR効果は高い、と判断したからではないだろうか。


前置きが長くなってしまったが、表題に話を戻すと、
熱心なラリー・ファンに今回のトヨタ優勝について水を向けると、
おそらく皆、喜びつつも苦笑いすることだろう。

短期決戦のF1では、ある程度タイム差がついてしまうと、
挽回の機会はほとんどないため、
早々に諦めてしまうドライバーも少なくない。
(サーキット・レースであっても長丁場のWECでは、
相手の車が壊れることを願いつつ最後まで頑張る。(笑))

一方、雪が降ろうが霧になろうが路面がえぐれて轍が出来ようが、
よほどのことがない限り続行されるWRCでは、
天候や路面のコンディションが悪くなると、
すぐに中断/中止するサーキットでのレースに比べ、
イレギュラーな出来事が起こりやすい。

しかも4日間にわたる長丁場だから、
チームもドライバーも往生際が悪い。
気まぐれな女神様が微笑んでくれることを期待して、
最後の最後までアクセルを踏み続ける。

つまりラリーは、関係者もファンも、
他のモータースポーツの人々より、
予想外の出来事には慣れているはずなのに、
第1戦モンテカルロと第2戦スウェーデンで、
トヨタに舞い降りた「幸運」の数には驚くしかなかった。

モータースポーツの技術進化はすさまじく、
3日休んだら観客にばれるバレエではないが、
トップカテゴリーともなると、型落ちマシンではまず歯が立たない。
トヨタが欠席した歳月はあまりに長く、
2017年は「失った18年」を取り戻す年、
終盤ポディウムに乗れたら御の字、と自らも認めていた。

車両のレギュレーションが今年から大きく変わったから、
言われているほどトヨタは不利ではない、と言う人もいたが、
ワークスとしての参戦を1年見送り、
新規格車両の先取り熟成に努めたシトロエンが、
王者フォルクスワーゲンとどこまで張り合えるか、
登り調子のヒュンダイが両者の間にどこまで食い込めるか、
というのが、フォルクスワーゲン電撃撤退前の下馬評で、
トヨタは歯牙にもかけられていなかった。

実際、もう一台のトヨタ、ハンニネン車は、
クラッシュもあってモンテカルロはトップから32分遅れの16位。
間にはワークスではないフォードや型落ちシトロエン、
格下R5車両までもが入っている。
スウェーデンも同様で、コースアウトして立木に衝突、
トップから23分遅れの23位だった。

フォルクスワーゲン・チームの解散により、
やむなくトヨタに移籍したラトバラと、
2013年以降目立った実績のないハンニネンでは、
格が違うとはいえ、もし車に問題がないとしたら、
ドライバーのレベルが低すぎるということになるから、
それはそれで問題と言える。

そして元王者チームのナンバー2、ラトバラも、
モンテカルロ最終日前日(3日目)の成績は、
トップから2分20秒も遅れての3位だったが、
それすら幸運の女神からの賜物だった。

2位にぶっちぎりの50秒差を付けていたヒュンダイのヌービルが、
3日目の最終ステージでクラッシュ、デイ・リタイアしたからで、
それがなければトップから3分以上遅れての4位でしかなかった。

しかし最終日になると、
トヨタの女神様は、さらに機嫌が良くなっていた。
本来ならトップを追走するはずだった2位の車が、
エンジン・トラブルにより失速し、
これに乗じてラトバラは2位に浮上、そのまま逃げ切ったのだ。

トップを快走していたヒュンダイのエース脱落が、
あまりにも衝撃的なタイミングだったため、
ついそちらに目が行ってしまうが、本来ならヒュンダイの2、3番手と、
シトロエンの2台もトヨタの前に立ちはだかっていたはずで、
彼らがトラブルに見舞われなければ、
少なくともシトロエンのエースとヒュンダイの2人目は、
まちがいなくトヨタの前にいただろう。

このシトロエンとヒュンダイの悪夢は、
スウェーデンではさらにフォードをも巻き込む。
シトロエンの2台と、ヒュンダイ3台のうちの2台に加え、
フォード2台の調子も上がらなかったため、
2日目を終えた時点でラトバラは2位だったが、
トップのヒュンダイ・ヌービルとの差は28秒。
残りのステージ数を考えると、
諦めるには早いが、けして僅差とは言えなかった。

だが3日目の最終ステージで、なんと再びヌービルが、
彼らしくないつまらないミスで自滅、デイ・リタイアとなり、
ラトバラはまたもや棚ぼたで順位を上げ、首位となったのである。

この時点で3位と4位の間は2分近く開いており、
最終日は残りのステージも少ないから、
ラトバラの表彰台は期待できたが、
2位に付けるのは注目の若手高速ドライバー、
フォードのタナックで、タイム差はわずか3.8秒しかない。
さらに3位には、+16.6秒とはいえ、
ステアリングを握るのは昨年の王者オジェ(フォード)。
しかも3日目は、2人とも着実にラトバラとの間を詰めてきていた。

盛り上がる日本のラリー・ファンとは裏腹に、
2人の技量とチームの経験値、秒差を考えれば、
ラトバラは良くて2位、3位でもやむなし、
というのが客観的な状況。

ところが蓋を開けてみれば、
3位オジェが、なんと最終日最初のステージ、
最初のコーナーで、まさかまさかのスピンを喫し、
いきなり優勝争いから脱落してしまう。

タイム差はまだあったとはいえ、
そこは4年連続のWRC覇者、
醸し出すプレッシャーは半端なかったはず。
それが突然、なくなってしまったのだから、
ラトバラはどれほど気分的に楽になったことだろう。

これで2位タナックとの、3.8秒差タイマン勝負。
...のはずだったが、勝利の女神は再々度ラトバラに微笑む。
不調をきたしていたタナック車のデフが、
ついに音を上げてしまったのだ。

ドライバーたちは、ミスをすると案外素直に認めるが、
(挙動やデータリンクで嘘をついてもすぐばれるし。(笑))
その一方でタイムが伸びないと、車の調子のせいにしたがる。
しかし前日までの様子とタナックのキャラを考えると、
車は本当に具合が悪かったのだろう。

ラトバラとタナックのタイム差は、
これまでの接戦が嘘のように広がっていき、
20キロ弱の最終ステージを前に、ついに20秒近くにまでなった。
この数字なら、ヒュンダイのヌービルのようにクラッシュするか、
シリアスなメカニカル・トラブルでも発生しないかぎり、
逆転される可能性は低い。

こうなると、リスクを避けるため速度を落としたくなるが、
モータースポーツにおけるクルージングは、
かえってペースを乱して危ない、という人もいる。
そのあたりを考えてのことだろう、
ラトバラは最終ステージの走行直前、
監督に意向を打診したという。

18年振りに復帰したトヨタが、
今年は無理と思われた表彰台のトップに、
いま、まさに立とうとしている状況。
ここは慎重にいった方が良いのではなかろうか、
と思っていたと、彼はレース後語っていたが、
監督の答えは「どんどん行け!」(笑)

ラリーの最終ステージには、
去年までは最速3点、2位2点、3位1点の、
ボーナス・ポイントが付いたが、
今年からはそれが最速5点に増えた。

オジェやヌービルのように、年間チャンピオンを狙う者は、
たとえそのイベントでは下位に沈んでいても、10ヶ月先を見越して、
一か八かのボーナス・ポイント取りに挑んでくる。

しかし当面の優勝をほぼ手中に収めている者は、
累計ポイントがよほど接戦でないかぎり、
危険を冒してまで最速タイムを出そうとはしない。

ラトバラと監督の会話を知らない我々は、
ペースを崩さない程度にスピードを抑えて、
確実にゴールを目指すだろう、と思っていた。

だがラトバラは、2位オジェを2秒近く上回る最速タイムで、
ボーナス・ポイントまでゲットして優勝を決めた。(笑)


WRCのカレンダーは、1月下旬のモンテカルロに始まり、
11月中旬の最終イベント(今年はオーストラリア)で幕を閉じるが、
翌年のドライバー・ラインナップは、概ね10月には決まる。
早々に体制を固めて、翌年の準備とテストに着手したいからだ。

昨年も、フォルクスワーゲン、シトロエン、ヒュンダイの3ワークスは、
10月にメンバーを発表したが、それから1ヶ月も経たない11月早々、
王者フォルクスワーゲンはWRCからの撤退を表明した。

可哀想なのは、フォルクスワーゲンのワークス・ドライバー3名、
オジェ、ラトバラ、ミケルセンである。
走るからには勝てるチームに行きたいが、
対象となるシトロエンとヒュンダイの席はもうない。
残るはワークスとは言うものの海山のトヨタと、
セミワークスのフォードの1席ずつ。

結局、オジェはフォードを選び、
ラトバラは双方の合意もあってトヨタとなり、
ミケルセンは行き場を失った。

上述のように、ラトバラの優勝は、
トヨタ車の実力というよりは、
単に幸運が重なっただけの気もするが、
それを言うのなら、実力者ラトバラを、
棚ぼたで手に入れられたことこそが、
トヨタにとって最大の「幸運」と言えるだろう。

フォードとトヨタの体制固めが遅れていたのは、
有力チームからの引き抜きやおこぼれを
狙っていたからだろうが、
もしこれがフォルクスワーゲンも関与しての、
仕組まれたものだとしたら、まさにGJである。

参加メーカーが多く、
力量も拮抗していたグループA時代に比べると、
昨今のWRCは、1メーカーの一人勝ちばかりで、
あまり面白くない。

仮にオジェとラトバラがシトロエンとヒュンダイに入っても、
1メーカーの独走が、2メーカーの鎬合いになるだけで、
前よりはまし、という程度である。

しかしトヨタとフォードの力が、
モンテとスウェーデンの結果に近いものだとしたら、
今シーズンは4つ巴の戦いも期待でき、
見る側としてこれほど面白いことはない。

ただし雪と氷の戦いであるモンテとスウェーデンは、
ドライバーの腕と経験次第、
車の実力は二の次とも言われる。

次戦メキシコ(3月中旬)は、
本格的なグラベル(未舗装路)に加え、空気の薄い高地。
足回りに加え、エンジンと空力デザインの力量も問われる。

そして続くコルシカを舞台とするフランス(4月上旬)は、
ターマック(舗装路)戦。この2つのイベントを終えれば、
トヨタとフォードの真の実力が判明する。

もし、トヨタの力が本物だとしたら、
モンテのR5でこれまた格の違いを見せつけた、
フォルクスワーゲンのナンバー3ドライバー、
ミケルセンをトヨタの3台目に迎え、
マニュファクチャラーズ・タイトルにも挑戦してほしい。

ハリウッド・スターとしても通用するイケメンの彼なら、
PR要員としても重宝するに違いない。(笑)



■WRCスウェーデン:ラトバラが総合優勝。トヨタ、シリーズ復帰2戦目で快挙達成
(AUTOSPORT web - 02月12日 21:22)
http://news.mixi.jp/view_news.pl?media_id=186&from=diary&id=4429059
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