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2017年01月10日17:00

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【バレエ】キエフ/シェフチェンコ「バヤデルカ」(6,7日)、「白鳥」(8,9日)

早めに現地入りして体を慣らすのはスポーツ選手の常識で、
バレエ・ダンサーもそうだと思うが、
100人からのバレエ団を招いた場合、事前の滞在費は、
バレエ団と招聘元、どちらが出すのだろう。

いずれにしても、
光藍社のバレエ公演では、経費節減のため、
バレエ団が来るのは開幕直前のような気がする。

というのも、ダンサーもオケも、
公演当初は調子がいまひとつで、
日が経つにつれて次第に良くなっていくからだ。
ちなみに終盤になると過酷なスケジュールがたたり、
力尽きていく、というのも、これまでのパターンである。

今回のシェフチェンコ公演も、
日を追うごとにダンサーたちの動きが良くなり、
オケも調子を上げてきたので、
最初はいつものパターンかと思ったが、
それにしては改善のペースが鈍い。

不審に思い、改めて新旧の配役表を見比べたり、
過去の感想日記を読み返してみると、
腕のたつプリンシパル/ソリストが、
3年前の公演に比べ少ないのが一因のようだ。

なぜそうなってしまったのか、不思議に思っていたら、
同じように感じていた知人がすでに調べていて、
日本だけでなく、カナダ、中国でもツアー中なのだという。
つまり戦力が3分割されているのだ。

その話を念頭に改めて舞台を眺めると、
若い踊り手の比率がたしかに高く、
中にはパを間違えたり、体捌きがぎこちない子もいる。
もしかしたら員数あわせのため、
学校の生徒も動員しているのかもしれない。
そう考えれば、今回のレベル・ダウンにも納得がいく。

ウクライナのローカル・バレエ団の中には、
紛争の影響か、国内では満足な公演を打てないので、
やむなくツアーを組んでいる、という話も以前耳にしたことがある。
もしかしたら同様の事態が、ここでも起きているのかもしれない。


過去を懐かしんでも面子が入れ替わるわけでもなし、
気持ちを切り替えて、目の前の舞台を楽しむことにした。

まず6日の「バヤデルカ」は、
フィリピエワ@ニキヤ、ニェダク@ソロル、
ペレン@ガムザッティという黄金トリオ。

昨年ペレンさんとサラ坊のゲスト登板が発表された時は、
ウクライナ出身のサラ坊はともかく、
よくペレンさんの参加を認めたものだと不思議に思いつつも、
一ファンとしては嬉しく思ったものだが、
なんのことはない、コマ不足を補う苦肉の策でもあったわけだ。

それはともかく、この3人の絵面は、「バヤ」にぴったりだ。
神秘的な雰囲気をまとうフィリピエワさんは、
ガムザよりニキヤのイメージだし、
肩幅のあるがっちり体型のニェダクさんは戦士が似合う。
前回観た時よりも驚くほど細くなっていたペレンさんは、
まさにラジャの愛娘。そして3人とも踊りのレベルは高い。

翌7日の配役は、ペレン@ニキヤ、サラファーノフ@ソロル、
シャイタノワ@ガムザ。

大僧正に告白されると、フィリピエワさんは驚愕に続き、
思いっきり見下し、睨み付けていたが、
ペレンさんはただただ困惑の表情。

私の気のせいでなければ、ニェダクさんの演技からは、
幼なじみで許嫁という、ガムザとソロルの本来の関係性が見えた。
一般には、ソロルはガムザの美貌と地位に心が揺らぐが、
6日は小さい頃に時を過ごした幼なじみが、
かくも美しく成長したことへの驚きと懐かしさが、
その後の演技にも現れているように思えた。

もしそうだとすると、ニキヤからガムザへの心変わりも、
損得勘定だけより深みが出てくる。
(だから許されるというわけではないが。(笑))

一方サラ坊は、権力に逆らえぬ苦悩の戦士像を描き、
ニキヤと奴隷のPDD中、いつの間にか逃走し、
婚約式でも終始気まずそうにしていた。

ペレンさんについては、嬉しいサプライズも用意されていた。
ロシア系の版には、ソロルとガムザの顔合わせの場に、
ニキヤと奴隷のPDDが挿入されるが、
2日目ペレンさんがニキヤの日の奴隷は、
なんとシェミウノフくんがゲスト出演!
盤石の2人のパートナーシップに見とれているうちに、
マールイの舞台が思い起こされて、ちょっとうるうるしてしまった。

2日目のガムザ、シャイタノワさんは、
「新春ガラ」のフロリナ王女を観て目が点になった。
公式写真とは別人のように、ふっくらしていたのだ。
ニーナさんの例もあるので、
一般人の間に入ってしまえば普通なのだろうが、
細身で手足の長いダンサーたちに囲まれてしまうと、
ぽっちゃり加減が目立ってしまう。

バレエ・ファンの間に蔓延している誤解のひとつに、
「バレエ・ダンサーは細い」というのがあるが、
手足が長くスタイルも良いため、相対的に細く見えるだけ、
いわば錯覚なわけで、上級ダンサーほど、
太ももは鍛えられている分筋肉がしっかり付き、実は太い。
(言い換えると、脚が細い=筋肉が不足→上手くない)

しかしシャイタノワさんは背が低く、
手足も長い方ではないので、太ももの太さが目立ってしまうのだ。
加えて面立ちの変化からすると、脂肪も追加されているようなので、
残念ながらクラシック・チュチュが似合わない。

とはいえ主役やトロワに配役されるだけあって、
テクニックはしっかりしており、体も柔らかく、演技力もある。
踊り慣れているロシア系のダンサーだけあって、
この日はトラブルへの適応能力もみせてくれた。(笑)

ニキヤとガムザの女の諍い場面では、
たいてい舞台上手の手前にあるチェス台から、
追い詰められたニキヤはナイフを手にする。

なぜそのような場所にナイフが、
と思ったのは私だけではなかったようで、
ここのコフトゥン版や熊版では、
くだものを盛った籠の置いてある台からナイフをつかみ取る。

しかしここのくだもの籠は、
舞台中央やや上手のいちばん奥にあるので、
他の版のつもりで台に駆け寄るニキヤの姿を眺めていると、
そのまま逃げて行ってしまうのではないかと錯覚する。(笑)

この勘違いは、観客だけでなくダンサーも同じようで、
ペレンさんはナイフのあるくだもの籠ではなく、
上手手前のチェス台に向かってしまい、
「あれ? ナイフがない!?」

慌てた様子で台上を探すも当然見つからず、
戦士たちがチェスをさしながら飲んでいた酒のゴブレットを、
やむなく手にしたタイミングで、
状況を察したシャイタノワさんが自ら駆け寄り、
もみ合いの末、ゴブレットで殴りかかる、という状況に。
演出的にはちょっと違うものになってしまったが、
リアルで慌てたペレンさんの様子が、
結果として臨場感を増すこととなった。

この日の舞台では、もうひとつイレギュラーがあった。
3幕影の王国冒頭では、ニキヤの死を嘆き悲しむソロルが、
舞台上手に置かれた寝台に、下手から駆け寄り、
勢いよく倒れ込むシーンがあるのだが、
スタッフがタイヤ止めのロックを忘れたようで、
彼が倒れ込むや寝台が1メートル近く動いてしまった。

つい、そのまま寝台がソロルを乗せて、
舞台袖に消えていく場面を想像してしまい、
笑いをこらえるのに苦労した。

意外にも良かった初日3日に比べ、
4日「白鳥」、5日「眠り」と、とっちらかったりミスのあったオケは、
6日になりようやく安定し、7日はさらに改善されたが、
全般に妙にアップテンポで、ゆっくりで荘厳なKを観た後では、
今回の影の王国はポップ過ぎて軽薄ですらあった。

これは群舞も同様で、後半のフォーメーションこそ美しかったが、
スロープをひとりまたひとりと降りてくる前半は、
動きに「ため」が無いため、余韻が感じられない。

ダンサーの動きをつぶさに観察し、随時的確に調整してくる、
ジャジーラさんの指揮振りは変幻自在で、
奏者もよくついてくるものだと感心するほどだが、
その彼が、あそこまでテンポを速めたと言うことは、
そうする必要があったからなのだろう。
ゆっくりでは力量差が明瞭になってしまうから、
さくっと流してしまおう、とか。〈笑〉

先の日記で触れたように、
ここの演出はポワントの打音も活用するため、
本来足音は驚くほど静かなのだが、
今回はガツガツうるさく、効果音と雑音の聞き分けが難しい。
筋力不足の「ぷるぷるダンサー」も例年になく多い。

これらから想像されるのはダンサーの力量不足で、
それを誤魔化すためのやむを得ない措置なのだろう。
ただしこの方法は、力量不足と言っても、
アップテンポについて行かれる、
それなりに地力のあるダンサーを想定しての話で、
パリオペ・レベルのひ弱なダンサーではとっちらかるだけだ。

動きに奥行きのない群舞ではあったが、人数は8×4の32名。
おおむねスタイルの良いダンサーたちが、
そこそこ揃った動きをすると、迫力があって美しい。

東京文化会館の舞台幅は18メートルと、
国内会場の平均的な数字だから、
Kバレエも次はぜひ32名に挑戦してもらいたい。

それにしても、2幕冒頭、
ソロルの狩ったトラのもふもふ具合は、
抱き枕にちょうど良さそうだ。(笑)


金曜土曜の「バヤ」連投に続き、連休後半は「白鳥」の連続。
主役は8日がカザチェンコさんとニェダクさん、
9日がフィリピエワさんとスホルコフさん。

ニェダクさんの王子は、
前述のように見た目が体育会系にもかかわらず、
動きは柔らかく優雅で気品に満ち、
コルスンツェフさんのような、わんこのような雰囲気も少しある。(笑)

翌日のスホルコフさんは、シャープで若々しい王子だ。
踊りにも勢いがあるが、
ヴァリエーションの最初から最後まで、
踊りが連続するニェダクさんと比べると、
彼はまだパとパの間で途切れてしまう。
サポートもぎこちなさがある。

相方のカザチェンコさんは、
マリインスキーのコンダウーロワさんに匹敵する、
バレエ・ダンサーの理想とも言える美しい肢体の持ち主。
数年前の初見の時から注目していた踊り手だ。

強さが売りのコンダウーロワさんに対し、
彼女のオデットは上品なお嬢様タイプで、
ちょっと儚い雰囲気も醸し出している。
オディールになっても嫌みがなく、
王子をからかうのを楽しむ風だが、
小悪魔という感じでもない。

感情表現はまだ乏しく、カーテンコール時の愛らしい笑顔を、
演技中もすれば良いのにと思う。
ただし長い手足を有効活用した踊りは、それを補って余り有り、
ただただ見とれてしまう。

4日のフィリピエワさんは、出会いの時は、
あの大きな瞳をこれでもかと見開いて驚きを表現し、
その後も思わず抱きしめたくなる可愛らしいオデットだったが、
8日は一転、ジークを不審者扱いで、
なかなか打ち解けようとはしない。

ニキヤの時も、大僧正に打ち明けられると、
最初は戸惑いつつも、聖職を汚すような真似はするな、
といわんばかりに鋭い視線を送り、
苦行僧に水をあげなさい、と指示されると、
彼の元を離れる際にちらりと振り返るが、
その視線があたかも汚物を見るかのようで、
思わず吹き出しそうになった。

話を「白鳥」に戻すと、9日は心配事が2つ。
ひとつは4羽の白鳥の1人が、
(一応小白鳥だが、4名ともあまり小さくない)
踊り出してすぐ、脚に不調を来たし、
途中で引っ込んでしまった。

倒れて動けなくなるような事態ではなかったから、
舞台は普通に進行したが、明らかに動きがおかしい。
そのまま4羽が上手奥へ移動するまで、
なんとかフォーメーションだけは維持し、
袖の近くにたどりつくと、片足を引きずるようにして袖へ。

彼女のポジションは端ではなく内側だったから、
すぐに手を解いて離れるわけにもいかず、
痛みに耐えながらタイミングを図っているのかと思うと、
見ていて涙が出た。歳を取ると涙もろくなっていけない。

もうひとつの心配事は、フィリピエワさん。
オディールの見せ場、グラン・フェッテの直前に、
突然ロットバルトが乱入して、32フェッテ前のパを、
彼が踊り出したのだ。

一応彼女は32回転回ったが、動きがどことなく雑で、
その後の振付も短縮してしまった。
突然のことらしく、ジークも慌てて袖から飛び出し、
続くヴァリに入ったほど。

怪我でもしたかと気が気でなかったが、
その後の嘲笑場面には普通に姿を見せ、
続く3幕のオデットも踊っていたから、
大事ではなかったようだ。
衣装関係のトラブルだったのだろうか。

1幕と3幕の演奏はいい塩梅なのに、
2幕のキャラダンになると突如速くなり、
4日は調和も乱れて暴走しかけた。
8日は少し改善されたが、9日は再び快速特急となる。

奏者もダンサーも、なんとかついて行ってるのは凄いが、
ここまで速いと、ダンサーのテクを補って云々では、
説明がつかなくなる。

オデットやニキヤの心の声が聞こえてくるフルートとバイオリン、
ソロル、ジークの心情を綴るビオラ、耳に心地良い管楽器だが、
今回はちまちまとミスタッチがあったり、音程が若干ぶれるなど、
いつもは素晴らしい演奏を聴かせてくれる、ここのオケらしくない。
オケの面子も2分、3分されてしまったのだろうか。

そして今日10日と12日には貸切公演が入っているから、
休みは明日11日しかないことになる。
13日の「眠り」と、14日の「白鳥」まで、
彼ら彼女らの体力は保つのだろうか。
疲労が原因の怪我が心配だ。
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