試合が終わって甲子園に校歌が流れる。ワルツ調の作新学院の校歌は同じ作風の東海大系列校のそれよりさらにスローテンポで違った気品がある。
さ〜〜くしんのかぜ〜〜
ふきお〜こお〜る〜〜
われら〜〜があいの〜〜
がくい〜〜んに〜〜〜
作新学院が54年ぶりの2回目の優勝を決めた。
昨年秋は県4強、春は県8強、関東大会にすら出場できずに臨んだこの夏は6年連続となる出場を決めると優勝まで駆け上がった。
一方準優勝の北海は昨年夏の開幕試合で王さんが始球式をしたときに守備に就いていた。この名誉ある試合でボロ負けした北海。今年のエースで4番の主将大西君は途中登板したが1死も奪えず3点を失い、相手の勢いを止めることはできなかった。
そしてその秋は初戦敗退。春も全道大会に出場すらできなかった。大西君はその間ずっと故障していた。
共に明治18年の創立、野球部は北海が1年早い明治34年の創部という強豪伝統校は似たような境遇から決勝まで勝ち上がってきた。
だが、前日には明徳と秀岳館がいた。彼らには彼らの思いがあって勝ち残っていた。
その2日前にはさらにあと4校が残っていた・・・・
遡れば49代表が入場行進をしたのは8月7日、その頃はバックネットに止まった油蝉が一斉に鳴いていた。真夏の象徴である彼らの鳴き声はその時が今年の夏のピークであることを知らせていた。
そしてときは流れ決勝戦、あの時の蝉の姿はもうなく、外野のカメラからの望遠映像にはもやもやとした細かい影が邪魔をする。赤とんぼ・・・・・
たったの2週間。その2週間の間にも季節は移り行く。みんなが希望の燃える開会式から1試合ごとに1チームが去る。そのたびに蝉が少なくなる。
決勝戦には多くの赤とんぼが甲子園を舞った。
もう秋ですよ・・・・赤とんぼが言っている。
そうだ、もうほとんどが新チームでスタートを切っている。最後の夏を楽しむ彼らにも赤とんぼはそう告げるのだ。
今年はプロ注目の選手も多く、ファンを楽しませてくれた。力を発揮できずに敗れたチームもあった。以前の敗退の悔しさをばねに勝ち上がったチームもあった。
でも、ここでプレーしたことは結果に関係なくそれぞれにとって宝物であるはずだ。ほとんどの選手は高校で野球をやめてしまう。社会人になって中年太りになって外面からは誰もこの人が甲子園でプレーしたなどとはわからなくても、あの死ぬほど大変だった練習や、試合に勝った喜びや、仲間と助け合う大切さを心の底から知り尽くしている彼らは本当の強さを持っているはずだ。
もちろん甲子園に出た人でも犯罪を犯す人もいる。逆に言えば普通なら大きく取り上げられないような罪であっても、その人が甲子園に出たというだけでニュースになるときもある。
甲子園は大きな力と責任をその人に与える。自分のエラーで負けたという選手も、あのときなぜあんなボールを空振りしたんだろうと思っている選手も、甲子園は終わってしまったが君たちの人生はこれからなのだ。
これからは練習とはまた違った苦しみや悩みと直面するだろう。難しい人間関係や自分一人ではどうしようもない力と戦わなければならないときもある。だが、どんなにつらいことがあってもこの球場を、あの熱かった夏を、そして笑顔で一杯だった仲間を思い出せば必ず乗り越えられる。そんなとき栄冠は君に輝くだろう。
そんな野球はへたくそでも未来に希望を持って輝こうとする選手たちを見に、ボクは来年も甲子園に行く。
来年は第99回大会である。
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