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2016年06月27日13:32

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【バレエ】英ロイヤル・バレエ「ジゼル」(24日)


オケ(東京シティ・フィル)の惨状は聞いていたので、
覚悟していたら、予想よりはましだった。

他の日がどれほど酷いかと言うと、
生オケ至上主義者が跋扈するネットに、
「録音でいいから5000円安くしろ」
という声が上がるくらいだから、相当なものだ。

私の観た(聴いた)日も、
音圧は貧相で、奏者の質も高いとは言えなかったが、
聴く者の神経を逆なでするようなミスタッチもなく、
(ホルンは素人が角笛を吹いている場面、と脳内変換した。(笑))
2幕に至っては普通に聴け、拍子抜けした。

もっとも、「普通に聴けた」と言っても、
普段が酷い国内オケ基準の話であって、
改めてKのハコ付きオケ、シアターオケの、
最近の伸長を嬉しく思った。

ジゼルはオシポワさん。ゲストだと思っていたら、
正式に入団していたんだな、彼女。
驚異的な身体能力はそのままに、
順調に成長しているようで、これまた嬉しかった。

いまだ彼女をキワモノ扱いする、
色眼鏡バレエ・ファンもいるようだが、
本場ロシア式の手足の使い方は、
舞台上のどのダンサーよりも滑らかで美しく、
音楽性もあり、表情も豊かで役作りもしっかりやっている。
今後の課題は、解釈に深みを持たせることと、
技術と表現のバランスを考えることだろう。

ライト版の死因は自殺で、こと切れるまでの過程は、
マキューシオ風にするのが正解。
彼女もちゃんと剣を胸に突き立てており、
しかも抜く時は肉へのひっかかりまで表現していたが、
にもかかわらず、その後は元気よく踊りまくる心臓麻痺パターン。
彼女の出自を考えると、ついそうしてしまうのだろうが、
やはり版の特徴は理解して演じないと。

アルブレヒトとのいちゃつき具合も雰囲気がでていたし、
花占い場面でも振り向いた瞬間から笑顔にはなっておらず、
首飾りも投げ捨てるのではなく力なく落とすなど、
何も考えていないわけではなさそうなだけに惜しい。

2幕登場場面では、
つむじ風が起きて墓標が吹き飛ぶんじゃなかろうか、
というような超高速回転。(笑)
息も絶え絶えなミルタとは対照的に、
高く弾けるような跳躍も平然とこなす。
しかし彼女が演じているのは精霊であって、
生身の新体操選手ではない。

その一方で、超絶技巧のパート以外は重力を感じさせず、
森の中を抜ける風に舞う、木の葉のように軽やかな踊り。
この日、彼女は唯一の精霊だった。
ムハメドフさんの再来を期して、今後も彼女に注目しよう。

日本にゆかりのあるゴールディングさんは、
隙のない美男子とも違う親しみやすい風貌で、
長身に加え肩幅もあり、踊りは力強さと優雅さが同居する。
ツィガンコーワさん仕込みの演技力も申し分なく、
ムンタギロフくんやマクレーさんとともに、
ロイヤルの貴重かつ重要な戦力と言えるだろう。

彼(アルブレヒト)にとってジゼルは本命ではないけれど、
ただの遊びではなく、相応に彼女を想う気持ちもある。
1幕冒頭〜前半の態度はやや軽薄だが、
公爵たちに身ばれしたあとは、バチルドへのキスを躊躇い、
ジゼルとの付き合いの終焉を予感し、終始悲しげだった。

続く狂乱の場では、
最初はジゼルの挙動に当惑気味だったが、
次第に心配そうな表情となり、
彼女が倒れると半狂乱になってすがりつく。

続く演出はこれまで観たことのないパターンで、
彼はいったん、ジゼルの友人たちに押しのけられ、
(この時の体勢は、ヒラリオンに背中を向けて尻餅をついている)
手近の剣を掴みあげるや、背後のヒラリオンにではなく、
正面のジゼルの友人たちにむけて振り上げるのだ。

違った! とばかりに、すぐに向きを180度変えるが、
切っ先を向けつつも斬りかかると言うよりは、
ヒラリオンを怒鳴りつけているかのようで、
村人たちに制止されると再度向きを変え、
ジゼルの傍らで泣き崩れる友人たちを乱暴に押しのけ、
再びジゼルにすがりつく。この右往左往振りが、
取り乱す彼の心情を効果的に表現していた。

ベルタに押しのけられた後の流れは同じだが、
滂沱の涙が見えるかのような慟哭に、ついうるっとした。

2幕ラスト、オシポワさんは健気というよりは果敢に、
強引にアルブレヒトを守り抜いた感がなきにしもあらずだが、
ミルタたちが去った後、想いを交わす2人の姿にも、
思わず涙を誘われた。

パドシスのメインには注目の高田さんが入っており、
相方のヘイさんともども、溌剌とした踊りを披露してくれた。
ただ、あくまでも個人的な印象としては、
現時点では小林ひかるさんの方が上手いような気もする。
昇格には年齢を加味した伸び代が考慮されたのかもしれない。

薄味なウィルフリードを除くと、
ヒラリオン、ベルタ、公爵、バチルドの主要人物の演技は、
さすがロイヤルで、モブに年配者が混ざっているのも、
物語に厚みを持たせている。

1幕の群舞は村人たちの踊りだから、
多少ばらけても許される、というのはあるが、
思いのほか揃っており、
演奏のテンポが決して遅くはないのに、
力尽きて脱落する者もおらず、最後までまとまりを維持していた。
足音も、静かではないが、耳障りというほどでもない。

さすがについていくのがやっとの人ばかりだったが、
高田さんをはじめとする何人かは、
まだ余裕のありそうな動きだった。

懸念された2幕も、望んでいたものではなかったが、
予想よりは良かった、というよりは面白かった。

「R&J」後、お師匠さまにプログラムを見せてもらったのだが、
表紙の上方に配された写真を見て、つい笑ってしまった。
ウィリたちの手足の位置が、ものの見事にバラバラなのだ。
10年前に収録されたコジョカルさんのお皿では、
もっと揃っていたというのに。他に写真はなかったのか。(笑)

登場して早々に息があがり、動きも素人然としたミルタには、
残念を通り越して応援モードになってしまった。
ただしそれは彼女個人に対してであって、
2幕の要とも言えるこの役に、
このレベルのダンサーを配してしまうバレエ団には、
不審の念を抱かざるを得ない。

意外にも、1幕同様、群舞の揃い具合は及第点だった。
前後に延ばした手足も、ちゃんと水平になっている。(笑)
パリオペのように踊っているうちにばらけることもなく、
最後までフォーメーションを維持していたが、
赤外線カメラで撮影したら、
頭のてっぺんから指先爪先まで、
全身オレンジ色に染まっていそうな踊りだった。

ウィリたちに期待するのは幽玄の趣、透明感で、
深い森、晩秋の夜、青白い人魂などに連なる言葉は「冷たさ」。
しかし、ここのウィリたちは「暑苦しい」。

演奏のテンポがここでも速いため、
隊形を整えるのに必死というか、余裕がない。
手足の動きも体育会系のノリというか、勇ましい。
当然のことながら、浮遊感は皆無だ。
どこかで観た景色と思ったら、「昔のKバレエ」だった。

無表情の女性たちが集団で迫る様はたしかに怖いが、
得体の知れない気配に背筋が凍るというよりも、
ウィリとは違う生き物、獣の集団に追い回される恐怖。

本来なら、不条理な扱いに哀れを誘うはずのヒラリオンだが、
「日頃の行いが悪く、村娘たちの怒りを買ってしまったかのよう」
と我が師。ヒラリオン、何をしたんだ。(笑)

Kがその後進化したように、
鍛えているように見受けられる彼女たちなら、
優雅に漂う精霊の踊りをマスターするのに、
さほど苦労はないと思うが、
10年前も同じような踊りだったから、
問題は指導層にあるようだ。


円安や、外国人旅行者の増加による、
ホテル代の高騰などを理由に、
NBSはチケット代の値上げを示唆していたが、
あのクオリティでS席2.5万と言われると、
やはりイラっとする。(笑)
ゲスト級の主役を勘案して、
熊さん価格の1.8万がいいとこだろう。

ファーストキャストで臨めば、
シアターオケの演奏もあるから、
得られる満足感は今のKの方が上だ。
しかも熊さん抜きなら1.4万か。
まさかKの舞台がリーズナブルに思える日が来ようとは。
英本国の観客たちに、Kの舞台を観せてあげたい。
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