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2016年06月05日22:10

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鎌倉は海もあるが梅もある

 朝10時前、雨の降るなか、鎌倉風致保存会所有の十二所果樹園の梅即売会に行った。かれこれ25年、毎年果樹園の梅を買って梅干しと梅ジュースを作るのが我が家の決まり事だ。途切れたことはない。
 10時に着いたら既に20人くらいの行列が出来ていた。うちのような「固定客」はだいたい200人前後と私は推測している。年によって一人5キロ以内といった制限があるのだが、今回はなかった。行列の後ろから見ていると、少ないひとは1キロで、いちばん多く買ってるひとで6キロだった。私は5キロだ。
 これとは別に、気紛れでお寺の梅をもいで梅酒を漬けることもある。納屋には漬けっぱなしの梅酒の保存瓶がいくつかある。ラベルを見たわけではないが、10年物もあるはずだ。大学時代、果実酒を漬けるのが趣味という友人がいて、彼はいちごが旬の季節になるといちご酒を、梅の季節には梅酒を、さらに病弱な体質ゆえに高麗人参なども漬けていた。20歳の学生がいちご酒を漬けている、というのはかなりおかしかった。そもそもおかしなヤツなのだが。
 夕方、ラズリを連れて街まで散歩。いつもの店に行くと、店主に加えて週末必ずいる友人が店の前に置いている椅子に腰掛けてぼんやりとしていた。隣には彼の仕事仲間である女の子もいた。
 ラズリ用に彼はリュックの中にクッキーをしのばせている。ラズリはそれを知っていて、尻尾をふりふり彼の膝に鼻を押しあてる。そして、今日もラズリはクッキーにありつけた。
 女の子が突如、右手の親指と中指で宙に浮遊している何かを掴む仕草をしたので、咄嗟に私は「蚊をふたつの指で瞬殺するとはたいしたものだ! 忍者の血筋か?」と問うたら、みんなが笑った。どうやら違ったようなのだが、空中に浮遊するすべてのモノは訓練しだいで掴めるのであると私は主張した。
 たとえば? と店主が言うので、「私はあなたが吐いた息を両手を使って掴めるんだよ」と返し、次に「ほらっ、掴まえた。これがいまあなたが鼻から出た息だ」と彼に差し出したら、なぜかその場でみんなが大受けしている。
 そこに店主を少し知っている30歳代後半の女性が通りかかった。と、彼が彼女に挨拶をした次の瞬間、私と同じ動作をし、「わたくし、いまあなたの吐いた息を掴みました」と言った。彼女はすぐに理解出来なかった様子だったが、店主が私を指差しながら「このかたから空中にあるすべての物体を掴むワザを教わったところなのです」と説明した。次に出た言葉はなかなかに的を射ていた。
「私が吐いたその息に顔を埋めるようなことだけはしないでね」
 店主は「うーん、残念だ。じゃあ息はまた宙に放しておきます」
 現在の鎌倉の夕刻は、小林秀雄ほどに文学的ではないものの、伝統はカタチを変えてまだ残っている。
 
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