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2016年04月17日23:27

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エドワード・ゴーリー

翻訳家・柴田元幸さんが遺作を朗読。
描かれていない絵が目の前に浮かんでくるようでした。


エドワード・ゴーリーの優雅な秘密
@伊丹市立美術館
フォト



エドワード・ゴーリー(1925-2000)
世界中に熱狂的なファンをもつ絵本作家の原画展です。
絵本といっても、絵はモノトーン、
文章は詩的でありながらどこかねじれていたり残酷だったり、
ひとを不安や恐怖に陥れるような独特の世界観で大人向きです。




チケットを手にしただけでテンションが上がりました。だって、ゴーリー本人のダイカットなんですよ!
そう、ゴーリーといえば毛皮のロングコートにスニーカー姿。
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美術館の廊下にも「うろん君」(ペンギンみたいな謎の生き物です)。
展示室の案内は《具体例のある教訓》のウサギ。


【第1章 ゴーリーによるゴーリーの世界】

展示室に入ると、いきなり垂涎の洋書がずらりと並んでいました。
これは濱中利伸さんの個人コレクションですね!

続いて
初作品《弦のないハープ》、
《うろんな客》《不幸な子供》《ウィローデイルのトロッコ》《ギャシュリークラムのちびっ子たち》《ウエスト・ウイング》等
人気33作品の原画です。

ゴーリーの絵はそれはそれは細密に描かれていますので印刷を経ない原画は感動的です。
絵のなかの文字も繊細で美しい。

もちろん全ての絵が展示されているわけではありませんが、ストーリイの説明も1つずつ丁寧に添えられていますので読んでいない作品も余計興味をそそられます。

アイデアスケッチも沢山あって、でも本当にラフで。

そうそう、カバのような動物が「カルダモン」「ワックス」「バニラ」等と呟きながら行列している《子供部屋の壁模様》は愉快でした。


【第2章 イギリスのナンセンス詩や文学とゴーリーの挿絵】

このコーナーではエドワード・リアの《ジャンブリーズ》、
ウェルズ《宇宙戦争》の装丁《赤ずきん》の挿絵などコラボ作品。

彼が愛してやまなかった猫たちもここに。


【第3章 ゴーリーの多様な創作と舞台美術】

最後のコーナーは、ゴーリーとバレエ。
彼が手掛けたニューヨークシティバレエの広告や舞台装置、衣装デザインの紹介です。


それに加えて素敵だったのは、彼が大学時代に母に宛てて送った絵手紙ならぬ「絵封筒」7点。

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ミセス・ヘレン・ゴーリーという宛名が読めるでしょうか。


【エドワード・ゴーリーを見る/読む/訳す楽しみ】

翻訳者・柴田元幸さんの講演会がありました。
大盛況です。


ゴーリーは日本の竜安寺石庭に大変興味を持っていたそうで、
伊丹市立美術館の石庭を見渡すように「うろん君」が飾られていることが嬉しい、というお話から講演は始まりました。

◆名前
現代のアメリカ人にはエドワードという名前は殆どないそう。
有名人ではエドワード・ケネディが最後?で以後はテッドとかエディ。
ゴーリーも珍しいし、Goreyの「e」をとるとGory(血まみれの)になることからゴーリーに相応しい!?

◆作家になるまで
1925シカゴ生まれのゴーリーは美術の専門教育を殆ど受けていません。大学はハーバードで仏文学専攻。
よって学生時代の友人も後の編集者や詩人など文学畑が多い。
卒業後はすぐフルタイムのアーティストになったわけではなく、サラリーマンになりました。
勤めた会社はダブルデイ社、そこでペイパーバックの「アンカーブックス」のブックデザインを手掛けます。

第二次大戦後アメリカでは只で大学に行けたそうで、
安い良質な教科書を出版したのがアンカー。
スクリーンにゴーリーのデザインした本が次々映されます。
《レッド・バーン》《アメリカン・ピューリタンズ》《エージ・オブ・マッドネス》…
社員が描いたのに
「デザイン・タイポグラフィ エドワード・ゴーリー」
と記されているのには驚かされます。
確かに「錨マーク」まで手描きだし、フォントも美しいですが。
比較として当時の普通のペイパーバックスをみせてもらうと、確かに必要以上にセンセーショナルな挿絵に普通の活字のタイトルでつまらないのがわかります。


さてゴーリーは、10年ほどサラリーマンをしながら作品を描き続けました。

《弦のないハープ》(1953)が処女作。

◆うろんな客(1957)
弁明。日本版(もちろん柴田さん訳)の後書きで友人アリソン・ルーリーの解釈をうっかり載せてしまいました。
すなわち、わけのわからぬ侵入者がいきなりやって来てやりたい放題、いつのまにやら17年。この「うろん君」とは「子供」のことだという解釈。
しかし別の解釈もできます。
すなわち、扉の絵を見るに、うろん君のマフラーは風になびいていかにも寒そう。彼は背伸びしてガラスに鼻をつけ、家の中に入りたそうにしています。では、それからの物語は、マッチ売りの少女のように彼の願望・想像ではないでしょうか?
…そう考えると切ないお話になるでしょう?

タイトルについて。
原題は Doubtful Guest。
でも「疑り深い客」では内容に合わない。
ところがそこに下絵が現れ、The Visit を鉛筆で消して Peculiar Visiter という元のタイトルが書かれていました。
そこで現代語を無視してよいと自信がもてたので、古い言い回しからとって「うろん」という言葉をあてたそう。


◆アンフィゴーリー
ゴーリーの本は最初からめちゃ売れた(柴田さん談)訳ではありません。
むしろ造りに凝りすぎて、豆本とか100部限定といった作り方で一向に広がらなかった。
そこで1970年頃から周囲が作ったのが廉価版《AMPHYGOREY》。
1ページに普通の4ページ分が入っていたり、コンパクトです。
またこの表紙がいいでしょう?ゴーリーのネコたち。
真ん中の団扇を持ってる猫とかいいですよねえ。

河出書房には怒られるかもしれませんが、これは四冊出ていて60冊分と大変お得です(笑)。

◆YouTube
ここでゴーリーが手掛けた《ミステリー》という番組のオープニング映像を鑑賞。
https://www.youtube.com/watch?v=tPlY_7RR1h0


◆朗読・The Curious Sofa
未訳作品。
映像を映しながら朗読されました。
本国では一番人気だそうですが「活字になることはないと思います」。
自分はつまらないと思うしゴーリー自身もあまり好きでない作品なので、とのこと。

◆朗読・ジャンブリーズ
では柴田さんが好きなゴーリーは、というのがこれ。
エドワード・リアの詩に挿絵を描いた作品。
「絵はフォスに捧げる」とかかれていて、このフォスとはリアの飼っていた猫だとか。
映像を映しながら朗読されました。
英文は韻を踏んでいてとても美しいそうです。

〜ここでいったん質問の時間〜

◆質問・Curious Sofa について。つまらないのに売れているのは何故?

答。アメリカ人はあまり趣味が良くない??(笑)。
セクシュアルなもので盛り上がるというのはあると思うし、キッチュという概念で楽しむのがアメリカ的。
でもゴーリーらしい繊細な書き込みでなく粗いし、男女も殆ど見分けがつかない。
セクシュアルなほのめかしならゴーリーでなくてもいいと私は思う。

◆質問・同じく Curious Sofa について。男性の形容詞が長いようですが。みな同じですか?

答。very とか extremely とか extraordinary とか微妙に違います。日本語が足りなくなってしまうこともあって、そんな時は角川の類語辞典のお世話になります。日本語シソーラスも見ますね。

◆質問・ゴーリーを訳すとき気をつけていることは。

答。絵本は絵と文章が合っているとは限らない。よって絵に合わせて文章を曲げることはしません。淡々と、何気なくさらりとしていてそれが面白いように。
オーソドックスなのに中身がヘン、を再現するように努めています。

◆質問・ゴーリーは唯一無二?

答。ゴーリーに影響を受けた人はティム・バートンとか何人か見られますが、同時代には多分いないと思います。

〜再び作品紹介に戻る〜

◆朗読・思い出した訪問

いまはなき書店ゴサム・ブックマートのアンドレアス・ブラウンさん推薦。

心の小さな痛みをテーマとした物語です。
恐怖や皮肉はなく、静かな余韻が残ります。
これは日本語版を出したいとおっしゃっていました。

◆朗読・僕たちが越してきたときからそいつはそこにいた

文章はローラ・レヴィン。
犬の出てくる物語です。
いや驚きました。ものすごく温かくていいお話です。
ゴーリーの絵もカラーで全然違う。
これも、絶対出版してほしい!
ちなみにレヴィンとはもう一冊《Three Ladies Beside The Sea》という本を出していますが全く違う感じだそう。

◆朗読・赤ずきん

映像を映しながら、英文を読み、リアルタイム翻訳!


◆質問・サキくらい古い時代のイラストレーターかと思っていた。古典的な感じがする。

答。タイプは違うが、ジョセフ・コーネルが近い。
コーネルはハイアートの美術家ですが19世紀のヨーロッパに生まれたかったような人。それはゴーリーも同じ。
ただし同時代のこともよく知っていました。サリンジャーの自己憐憫はどうも、とか手紙に書いている。
ゴーリーは社交的で、20世紀のアメリカに生きることをバレエなどを通じて楽しみながら古い時代に惹かれていた人でしょう。
サキの名前が出ましたが、白水社の短編集にゴーリーの挿絵があります。人の話のわかるネコの話。

◆朗読・The Admonitory Hippopotamus(警告するカバ)
or, Angelica and Sneezby

テクストだけが残されている作品。よって画像がありません。

柴田さんの朗読を聴きながら
頭のなかに描かれなかった絵を思い浮かべました。


ゴーリーの美しいフォントはインターネットで検索するとダウンロードできるそうです。
私的に使うには問題ないとのこと。
探してみようかな。




関西展は5月15日まで。
その後7月に福島、9月に下関に巡回します。
http://artmuseum-itami.jp/jp/category/current_exhibition/
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