喰い慣れた　rundervink　を喰う

鬱陶しい冬が始まる雨もよいの午後、何の当てもなくスーパーをぶらぶらしていた。 月曜から木曜まで毎日食事を作る。 定年年金生活者が何もすることのない日常、これが唯一の義務となり毎週毎週四日連続飯を作るのだけれどそれが何週間も続くとなかなか献立を考えるインスピレーションが湧かずルーティーンになりがちで主食を米、パスタ、ジャガイモを順に回すとして副食を何にするかがアクセントになる。 別段菜食主義者でもないので牛、豚、鶏、鹿、ウサギ、七面鳥、鶉に魚などがそれぞれ頻度の差はあれ食卓に上ることとなる。 偶には菜食主義者並みに様々なチーズをグリルしたり粉をまぶしたもの焼いて肉や魚なしで済ませている。 この日は米でもなくパスタでもなくジャガイモにしようと決めて、さて、それではジャガイモをどのように調理するかと考えながら蒸すか焼くか煮るかと考えた結果、面倒なことは止めて簡単に１５分ほど煮ることにした。 それなら粉っぽくなる種類は避けて形も崩れず甘味と粘りがあるような種類にするといい。 

菜食献立はちょっと軽いように思うので肉にする。 煮たジャガイモにしたのだからポークチョップにそのあとのグレービーをかけるのもいいけれど牛肉にすることにした。 塊を鋳物の厚鍋で長く煮る時間がないからバターとオリーブオイルでステーキと同じ方法で焼いて色を付けそれから１０分ほどクリーム・シェリーで蒸し煮にする手軽な rundervink にした。 これは牛肉のミンチに牛肉の薄切りを巻いたもので rund  が牛肉、 vink  が和名でズアオアトリというヒバリか鶯に似た小鳥である。

大体この喰い物としての vink には３種類ほどある。

１）blind vink（盲目のズアオアトリ）、２）sla vink （サラダのズアオアトリ）、３）runder vink（牛肉のズアオアトリ）である。  いずれにしてもミンチ肉を肉の薄切りで巻いたドラム型のものでその挽肉は１）では牛、２）は豚と牛の逢合い挽き、３）では牛 ということになっている。 外に巻く薄肉は １）では子牛か豚の赤味、２）脂身のあるベーコン、３）牛肉が標準だ。

オランダやベルギーではポピュラーなものでどこのスーパー、肉屋にもあるし自分でも作る。 ものの本によるとオランダでは１）２）３）の順番に広がってきたと言われている。 もともとはフランス・プロヴァンス地方の alouettes sans tête （頭のないヒバリ）が blind vink になったと言われている。 2)は１９５２年にヒルバーサムの肉屋がサラダに合わせるものとして始めたものらしい。 自分は１）、２）が全てだと思っていたけれど近年は3)が登場してきたような気がする。 これは今まで 外見から blind vink だと思っていたものと同じで、正確には全て中も外も牛肉の blind vink  ということになる。

下のサイトにある rundervink の画像はやたらと写真が出てくるけれど２段目ぐらいまでは rundervink だがその後には２）が混ざったり、それから下には鶏まで出てくるので徐々に怪しくカオスになるような、ネットの性格をしめすものだ。

https://www.google.nl/search?q=Rundervink&sa=X&espv=2&biw=1689&bih=912&tbm=isch&tbo=u&source=univ&ved=0CCYQsARqFQoTCK-orpr7k8kCFcYNLAodQAsKrg&dpr=1



以前に「盲目のズアオアトリ（blindvink)」と題して５年前に載せたものではパスタに合わせている。

http://blogs.yahoo.co.jp/vogelpoepjp/60531187.html

この日は普通にインゲン豆を熱湯で５分ほど茹で水を棄てバターをからませてそこにナツメグの粉を振りかけただけのこれもごく普通のオランダもの、それにこの４０年ほどで徐々に普及してきた普通のサラダを添えた。 今の冬になろうかという時期にサラダにするような菜など寒冷地にはできなかったのだ。 

厚鍋で焼いている時普通焦げ目をつけるのにドラムの四方を順番に２分ほどづつ焼いていき最後に両端を立ててそこにも焦げ目をつけるのだがそうしているときふとバカな思いがよぎった。 まだ少年の頃自分たちの男が剥けるかどうかで真剣に話し合ったことがあり、男三人それを見せ合っているイメージが湧いたのだ。 そんなことを思うとこれから何回 vink  を料理するのかしれないけれどその度にこれを思い出し大阪弁の「しょうもない」と呟きながら焦げ目をつけることになるのだろう。