13kg

昨晩久しぶりにフィットネスに出かけ何人かの仲間とこの間のことを話していているとそこにインストラクターのペーターがやってきた。　プロヴァンスはどうだった、と訊くので膝に付けたサポーターを見せて経緯を話した。　出かける前には何も言わなかったけれど歩き通せるとは思っていなかった、とペーターは言った。　　歩き通せたのはエクス・アン・プロヴァンスで買った膝を覆うこの普通のサポーターのおかげだった。　腹がへこんだじゃないか、というのでこの４か月で１３ｋｇ落ちた、というと、それじゃ山道を担いで登ったリュックの重さは？　と訊くのでそこでハッと気づいた。　落とした１３ｋｇは毎日背中に担いでいたリュックの重さだったのだ。　１日の初めは衣服や様々なものに加え、２リットルの水、２個の大きなオレンジ、２本のバナナ、それにパンと１３ｋｇを越して始まり１日の終わりは１０ｋｇちょっとで終わっている。

正月に里帰りしてオランダに戻ってきたときには秤に乗ると９０ｋｇほどあった。　６５年前３キロ半ほどで生まれてこのかた今年の正月明けは今までで一番重い時期だった。　大学を卒業し実家から大阪の商社に通うようになり母の手料理で飼われて４年ほどでみるみる太り８３ｋｇになって３０の時オランダに来た。　　学生アパートの自炊で暮らし毎日サイクリング車で少なくとも１０ｋｍは走っていた生活では２年ほどで６８ｋｇまで落ちたけれどそのころが一番身軽で体調も良かったしそれにまだ若かった。

公務員として就職し家庭を持ち子供もできるころになると運動もしなく徐々に体重が増えてきて４０の半ばを越してからはオランダに来た頃の８３ｋｇまで戻ってきていた。　４０代の半ばまでは酒はあまり飲まなかった。　好きではあったけれどあまり飲めなかったことに加えて酒を飲む時間がもったいなかったように記憶している。　一度飲むと後がだらだら続き一日の活動がそれで終わりあとはどうでもよくなるのだ。　することが沢山あって酒どころではなかったのではないだろうか。　けれど５０代にはいってからは生活も少しは落ち着き、量はそれほどではないけれど殆ど毎日アルコールを口にするようになり、それに伴って食い物の量も増えている。　その後はずっと８５ｋｇ前後でそれ以下になることはなかったし還暦が過ぎてから徐々にタガが外れて体重も徐々に増えていた。

フィットネスにはもう４年以上通っているだろうか。　その前から家人はそこに通っていてそれを横目に見ていて自分は行かない、と思っていたのだが子供たちからも出っ張った腹のことをチクチク言われ食卓でやぶ蚊がぶんぶんいうような鬱陶しいような雰囲気に負けた。　それに、行っても効果があるとは思えなかったし実際あまり効果があるとは思えない。　日頃使わない筋肉を使うということでは効果はあるものの体重を減らすためには週１時間だけのフィットネスでは殆ど役には立たないだろう。　

筋力には自信があるしペーターは、おまいさんの筋力はなかなかのものだな、という。　けれどそれに加えて、体力がない、体重をおとさないとな、呼吸が苦しいだろ、そこに出てる、とも言い、まさにそのとおりだった。　だから今回の徒歩旅行の準備にほぼ２００ｋｍ歩いても右膝に負担を与えすぎて痛みが来たのだった。　重すぎたのだ。

野を越え山を越え１０日ほどで２００ｋｍ以上歩く計画には、行くと言ったものの初めての経験で筋力は問題ないものの体力が不安だったから食餌制限をした。　食餌制限というより今までの不摂生な時間をまともにし、夜食とアルコールを絶った。　それだけで５週間ぐらいで７ｋｇほどは落ちたのではなかったか。　

何とか徒歩旅行を終え自宅でシャワーを浴び秤に乗ると７７ｋｇと出て今年になってから１３ｋｇ落ちたと分かった。　プロヴァンスでは毎日朝９時ごろから１３ｋｇの荷物を担いで２時間ほど結構な坂を標高差で何百メートルも登りつづけ１日が始まるパターンの徒歩旅行だった。　全身汗びっしょりで額からは汗がぽたぽたと流れ続き足元を凝視する眼鏡にそれが溜まり流れ落ちた。　腹の贅肉が落ち、この４か月で太もももが痩せてズボンがぶかぶかになりベルトの穴が念のために穿ったところまでで９ｃｍ移動していた。　

ペーターに言われるまでこれまで毎日この徒歩旅行で背負っていたのと同じ荷重を体にまとわりつかせて生活していたことに気付かなかった。　小休止の際放り投げるようにして体から離したリュックサックと休憩が済んでまた歩き始めるときに担ぐあの重さの１３ｋｇだった。　ことしの初めは毎日あのリュックを分散させて体に纏いつかせ生活していたことになる。　なんとも奇妙な気分だ。