昨日、日記を書き終わったあとに性懲りもなくまた『文藝』を手にして、なかに収録されている樋口毅宏の短編「断罪」を読む。
『文藝』の目次にはリードが書かれている。「断罪」のリードはこうだ。
☞きみは思う。女は○○だと。
すべてを曝け出した懇親の傑作私小説、ついに登場。
樋口は人間の異様さや猥雑さを描かせたら容赦ない表現で右に出る者はいないほど、えげつない。狂ったような妄想、反吐が出そうなほどの下ネタ。そんな作風だから、○○に入れる文字をまず想像した。
女はアナだと。
女は馬鹿だと。
女は白痴だと。
女は下劣だと。
女は女神だと。
5番目の「女神」については、私が人品卑しからぬ印象になるのを怖れていま付け加えただけで、上からの4つがリードを書いた編集者に対する私の回答だ。
読み進んで行くと、樋口と交遊関係にあるタモリ、白石一文、春日太一、椰月美智子といった実在の人物が実名で登場していた。私小説ゆえなんら不思議はないのだが、たとえば白石一文が「樋口さん、椰月美智子とはヤッたんですか?」と訪ね、「ヤッてません!(中略)二年前にふたりで大久保の焼肉屋で食べたとき、ホテルに誘ったけど断られました」と答える場面がある。こんなどこにも出してはいけない内輪話を文芸誌に書いちゃっていいの? いや、文芸誌だからいいのか。ともかく樋口はタブーを怖れぬ無頼派で、これから何をするのか、楽しみだ。樋口も安倍が嫌いで仕方ないようなので、どうせだったら野坂昭如の『てろてろ』みたいな小説を書いてその直後、安倍をテロルして欲しいなあとマジで思う。もし本当に暗殺したあかつきには、私の全財産をあげるだよ。
で、○○に入る正解は意外とまともな言葉だった。
本文の最後に出て来た。「勝者」だった。
女はみんな勝者だ。一度負けても、決まって後で勝つ。
樋口、おまえなかなかいきなことを書くじゃないか。オレの読みを外したな。
私は新聞でも雑誌でも本でもテレビでも、いつでもこんなふうに対話している。
私は敗者だ。一度勝っても、決まってその後に負ける永遠の敗者だ…。
…なんて日記を毎日書いている私。
今日は昼イチ、ラズリの餌を買いに湘南モールまでクルマで行った。ドッグフードを買いにわざわざ10キロ超も離れた大型ショッピングモールへ行くこともないのだが、暖房が家よりも効くクルマに乗って、ドライブしたいだけ。
134号線を走っていると、江の島が見える。雨のせいで、空も空気も海も江の島も曇っている。磨りガラスのようなフィルターがかかって、江の島は水彩画のように見えた。輪郭が溶け出したように厚みを帯びて、その前に無数の荒い波が立っている。稲村ガ崎から腰越を過ぎるまで、江の島の姿がクレッシェンドする。橋まで来ると、汚い建物まで見えて、ちぇ、つまんねえの、と思う。女と同じで、遠目から見るのが一番だ。
ダメだ、このところ、口の悪い小説ばっか読んでいると、伝染してしまった。
ドッグフードを買って、靴下も買って、自転車のライトまでも買って帰宅したら、コンサートの招待状が届いていた。ああ、嬉しい。こんな俺に、ご丁寧なお心遣い、ありがとうございます。
明日、お礼状と鳩サブレーをお送りしようと思います。
ログインしてコメントを確認・投稿する