mixiユーザー(id:12569023)

2015年03月21日09:57

311 view

随筆「甦る楫取素彦」第186回

 この話を聞いて私は思わずうなづく。社会運動の渦の中には必ず熱心なおばさんがいるものである。私の選挙運動にも常に熱心なボランティアのおばさんがいた。女の情念はすごい。信じてのめり込むと男が及ばない活躍をする。男は人のつながりや社会的利害に気を使い縛られることが多いが女は思い込むと一筋である。神明町のおばさんの姿は廃娼運動が民衆の中に浸透し地に足がついたものであったことを物語る。
 森川の語るところによれば、明治22年の青年会の盛り上がりもその後平坦ではなかった。存娼派は毎年県会に妓楼存置の建議をした。青年会はその防御戦には大変な困難をなめた。初め大変盛り上がったため連合軍は気が緩んだということもあった。また国会開設(明治23年)による政治運動の激化の影響で地方青年会の間にも対立が起こることもあった。このような状況で青年会の勢力も昔日の如くではなくなった。敵の勢力はこの機を利用して盛んになり廃娼取消の県議案が県会を通過したこともあった。青年会有志の残党はわずか10数名になって奮闘した。森川は、この時のことを「今日からみれば、実際慄然たる思いがする」と振り返る。困難な状況下で全てを投げ打って戦った若者が群馬の廃娼を実現させた。その例として森川は、桂萱青年会リーダー木村卯六という人物を取り上げる。桂萱とは私が深く関わっている地域なので、この人の話に胸が高鳴る。木村卯六は、最愛の妻が病危篤の中を運動に東奔西走、遂に妻は死んだ。そして彼自身も疲れて倒れ命をおとしたという。他にも人力車を引いてわずかな金を稼ぎながら廃娼に尽力した者がいた。森川は言う。このような若者たちの苦闘に支えられて明治26年、全県下の娼妓を全廃することが出来たと。


☆土・日・祝日は、中村紀雄著「甦る楫取素彦」を連載しています。
0 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2015年03月>
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
293031