ネットでぼこぼこに叩かれている6日の「白鳥」公演、観てきました。
気持ちはわからないでもないですが、
叩く人の中には、ちょっと勘違いしている人もいるようです。
そもそもこのバレエ団は、突出した世界級や、
将来が楽しみなダンサーがぽつぽついるものの、
総じて技術レベルの高いところではありませんから、
ロシア並みのテクニックを期待する方が間違っている。
日本で言えば牧やスタダンのように、
総合力はいまひとつだけど、演劇性に重点を置いた作品なら、
そこそこ楽しませてくれるバレエ団なのです。
実際「じゃじゃ馬ならし」をご覧になった我が師は、
それなりに良かったよ、と申しておりました。
・・・この演目、人を動物扱いするところが好きではないので、
私はパスしましたが。
おそらくここには、
群舞や下級ソリストを担当する先生に、
良い人がいないのでしょう。
ただ手足を上げたり下ろしたり、それこそ歩くだけでも、
バレエには独特の美しい所作がありますが、
基本であるはずのそういった動きの出来ない人が多い。
足音もうるさいし。
そんなことはない、と思われた方は、
4幕冒頭、腰を落とした白鳥たちの、
立ち上がる姿を思い出してみれば、
私の言いたいことはわかるはずです。
また「クランコ版」という『ブランド』に対する期待も、
評価を下げた原因のひとつでしょう。
もし、音楽や振付を再吟味し、
すべてが緻密に構築されている素晴らしい作品、
と語るプログラムの村山さんの解説が正しいとするなら、
それを精確に表現できなかったこのバレエ団は、
とんでもない下手くそ、ということになってしまいます。
ネットでは、道化のいないのが新鮮、と記して、
いらぬ恥をかいた人もいたようですが、それは置いといて、
王子の登場場面の工夫、トロワを省いて彼の踊りを増やす、
花嫁候補の肖像画を並べる、彼女たちの個性を際立たせるなど、
たしかに面白い演出はいろいろありましたが、
あくまでもマイナー・チェンジの範疇で、
ブルメイステル版やノイマイヤー版、バランシン版、
マーフィ版ほどのインパクトはありません。
それどころか、オディールの裏切り演出も明確ではないし、
ラストは自殺なのか湖に叩き込まれたのかも不明瞭など、
肝心なところで外しています。
(それにしても、なぜ3幕のロットは波平さんなんだ?)
しかし、それ以上になんとかしてほしかったのは、
面白味のないパでした。
すべての場面において、この程度の改変なら、
オリジナルのままでいいのに、と思うことがしばしばで、
特に残念だったのが、3幕のディベルティスマン。
あれを良いと言っている人は、タデ好きか、
普段ろくなものを食べていないのでしょう。
でなければ味覚障害にちがいありません。
とにかく、せっかくの衣装や舞台装置がもったいない。
オケの出来については聴かなかったことにして、
音楽の順番に文句をつけている人は、
耳に馴染んでいないだけですが、
音楽のイメージと場面がマッチしていないのは、
叩かれても仕方がありません。
村山さんは、良くないところは良くない、
とはっきり言う人だと思っていたのに。
いくら公演プログラムの解説だからとはいえ、
あれは持ち上げすぎです。
「ロミジュリ」の成功で気をよくしたクランコさん、
勢いで「白鳥」に手ぇ出してみたら、やっちまったぜ、
という作品でした。
3日後に観たKバレエの「海賊」、
トップから群舞に至るダンサーの力量、
演出、舞台装置、そしてオケの出来に至るまで、
バランスの取れた良い舞台でしたが、この熊川版「海賊」も、
初演は褒められたものではありませんでした。
その後回を重ねるたびに手が加えられ続け、
現在の楽しめる作品になったのです。
クランコさんのように、
斬新な新作を次々と出すのもいいけれど、
ひとつの作品を熟成させるということも、
振付家には大事なのではないだろうか、と考えさせられる、
対象的な2つの公演でした。
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