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2011年01月09日13:36

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【音楽】Chopin: Ballades & Nocturnes@Etsuko Hirosé

日本人演奏家の続きで、昨春にリリースされた広瀬悦子のMIRAREデビューアルバム。現在、パリに拠点を移して活動する広瀬悦子は国内での知名度は低いと思われるが、それでも以前はDENONからCDを数枚出していた。これはMIRAREレーベルの社長、およびLFJのファウンダーとしても著名なルネ・マルタンに見いだされ肝煎りで録音された初のアルバムということになる。

http://www.hmv.co.jp/product/detail/3760616

ショパン:
・バラード第1番/第2番/第3番/第4番
・ノクターン op.15-1/op.15-2/op.9-2/op.48-1
・幻想曲ヘ短調 op.49

広瀬悦子(ピアノ)

お嬢様ピアニストかとの先入観をいともあっさりと崩し去ってしまう、しっかりとした骨格のショパンアルバムだ。配列がちょっと変わっていて、バラードとノクターンの名作4曲を交互に並べ、最後はファンタジーOp.49で締めるという構成となっている。

バラードはいずれも7〜15分程度の中規模作品で、内容は比較的起伏が激しくて、色彩感に富み陰影・遅速の対比も明瞭な毅然とした男性的なもの。対するノクターンは3〜6分程度の小規模作品、どちらかというと優美で典雅、起伏は穏やかで女性的な曲となっている。

ショパンのバラードは、通常の解釈であればマルカート主体で切れ込み鋭い弾き方が中心となり、キータッチの硬軟使い分け、クレッシェンド、デクレッシェンドの出し入れやアチェレランド、リタルダンドの頻繁な交代が要求される。またノクターンはバラードとは対照的に全編レガートで弾かれるのが常であって、うまく弾くには音符と音符の繋がりを如何に連続的に確保するか、また休符と音符の隙間をどのように有機的に埋めていくのかが重要なファクターとなる。

ところが、このアルバムにおける広瀬の解釈は確信犯的に逆のアプローチをとっており、バラードはレガートに近い滑らかで流麗な弾き方、ノクターンはマルカートというかノンレガートの小気味よい弾き方を中心に据えていてちょっと変わった解釈と言える。しかも、バラードとノクターンが一曲ずつ交互に並んでいるので尚更その対比が目立つのである。

冒頭のバラード#1の華麗でありつつも荒くならず極めて滑らかなスケールは耳に心地良い響きだ。よくよく聴くと原曲譜面のディテールは決して崩しておらず、付点やシンコペーションも正確に弾いているのであるが短距離および中距離のスラーを幾重にも繋げることで離散的な音を出さないように細心の注意を払っていることに気がつく。

ところが、ノクターンOp.15-1やOp.9-2などでは譜面にあるフェルマータを割と短めに切っており、また休符を心なし長めにとることによってべたつきを抑えた潔癖な曲想にまとめ上げているのだ。通常のノクターン解釈では感傷的でやるせない雰囲気が連綿と押し出されるのに対し、広瀬のこのノクターンは深い情感や、なよとした女性的な風情をばっさりと切り落としたようなドライでハイスピードのスケール進行が特徴となる。これはちょっと変わったノクターンであるが、同様に異色と言えばルイス・フェルナンド・ペレスのノクターン http://musicarena.exblog.jp/15635262/ があげられる。ペレスの弾き方はマルカートよりは滑らかであったが、スケールの離散感という点においては広瀬のこれと似ているかも知れない。

最終トラックに選んだファンタジーOp.49は、中田喜直の名曲「雪の降る町を」の主旋律の手本とされたことで有名な曲。このチョイスには広瀬の日本人としての矜持、そしてノスタルジーが込められている気がしてならないのである。

ショパンでコンピレーションを作るならこんなこともできるぞ、という新境地を示すコンセプト・アルバムであり、実に良くできた内容だ。しかも演奏も面白く、広瀬悦子の技巧の多様性と深さもそこはかとなく垣間見られるのだ。今後も更に意欲的に活動していって欲しいものである。


(録音評)
MIRAREレーベル、MIR110、通常CD。録音は2009年11月9-11日、場所はMIRAREお馴染みのリモーザン県(リモージュ)のLa Ferme de Villefavardのルミエール。ピアノの音色が非常に変わっていて、かなりくすんだ音調は往時のフォルテピアノ、または年代物のプレイエルなどを思わされるのであるが、しかしこれはれっきとした現代ピアノだ。調律はRegié Piano社、調律師はAkiko Osatoとあるのでスタインウェイかヤマハをチューンしたものを使用していると思われる(=
中高域の歪感の少なさからは、恐らくスタインウェイの中型楽器か)。

上述の通り暗くて茫洋としたピアノの音色ゆえ、再生に失敗するとモゴモゴと訳の分からない演奏に聞こえるだろう。しかし、良く調整された装置であるなら、これは曲想に合わせた音的な演出効果であって、CDの録音品質自体が悪いわけではないことに気がつくはずだ。寧ろ重低音から控えめなブリリアンスを纏った高域までブロードでフラットな帯域バランスをもった優秀な録音なのである。

(このCDはMIRAREとしては珍しく日本語解説付き)


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