イリーナ・メジューエワの新譜で、今回は華麗なる円舞曲、ポロネーズ2番などを前座としたアルバムで、メインはPソナタOp.34(=2番「葬送」)だ。
http://www.hmv.co.jp/product/detail/3902004
ショパン:
華麗なる大円舞曲 変ホ長調 作品18
ポロネーズ 第2番 変ホ短調 作品26の2
即興曲 第1番 変イ長調 作品29
ポロネーズ 第1番 嬰ハ短調 作品26の1
即興曲 第2番 嬰ヘ長調 作品36
ピアノ・ソナタ 第2番 変ロ短調 作品35 《葬送》
イリーナ・メジューエワ(ピアノ)
素晴らしいの一言だ。前作は、平坦で平静を美徳とするイリーナの冷静かつ温度感の低いノクターン集だったわけだが、今回のこのアルバムはまるで別人の如く激しく熱く、そして情感も露わな激しい解釈と演奏なのだ。
前回の出来を聴いている身としてはちょっと面食らったが、これは素晴らしい出来映えであって、前回のノクターン集の冷涼とした、そしてちょっと肩透かしだった演奏をカバーして余りあるものがある。いやはや、一流ソリストはこうも変われるものなのか・・・?
冒頭のグランドワルツは凄い熱気で、まずやられてしまった。なんというアゴーギク、そして指先が見え透くような精細なアルペジオ、そして腕が折れるのではないかと思われるほどの強打の連続・・。それは普通はあり得ないほどの激情を吐露している。彼女にとってこの曲は特別の意味を持つものだったのかも知れない。そしてポロネーズ2番、インプロンプトゥ1番が荒々しく、ちょっと面食らう。イリーナはこういった曲想で弾くピアニストではなかったはずなのだが、これはどうしたことか・・。
メインディッシュのPソナタ2番だが、この重厚にして上下動の大きい曲をイリーナの従前の曲風ではなくて極めて激しく熱情的に弾き倒しているのだ。テンポは割と速め、そして、エモーショナルな弾き方を主として、これらに交えながらも緩いパートでの細密な描き方は格別の美しさだ。そして3楽章の例のあのパートであるが、これまた意表を突くクールでドライな解釈。決して鈍重にならずさりとて軽く流す感じでもなく、なかなかに良い演奏だ。これは新機軸かも知れない。
総合すれば、熱に浮かされたと言えば言い過ぎかも知れないが、これは金字塔と言って良い素晴らしいショパン・アルバムである。Pソナタの1〜2楽章はちょっと急ぎ過ぎな気がするし、事実、突っ込んでちょっと詰まるような場面もあるのであるが、イリーナのこのチャレンジは素晴らしい結果をもたらしてくれた。
(録音評)
若林工房、WAKA4148、通常録音。録音は2010年3月, 4月、場所は、お馴染みの 新川文化ホール(富山県魚津市)だ。音質は素晴らしくて漆黒のステージにソリストが浮かび上がる。そして美音でコンパクトなスタインウェイをこれでもか! と強打するイリーナの美しく均整の取れた姿が映っているのである。音像のフォーカスが正確であること、音場の奥行きが自然であること、そしてピアノの音が正確であること等々、どこをとっても国産録音としては最優秀と言って良い出来映えだ。こういった盤を生み出す土壌を秘めた我が国を誇りに思う。
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