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2010年10月03日21:16

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【音楽】Chopin: Nocturns@Irina Mejoueva

これもショパンで、メジューエワのノクターン全集二枚組。しかし珍しくも一転して国内盤、レーベルは私の故郷である富山で精力的活動を続ける若林工房、春〜夏の新譜である。今年はショパン・イヤーなだけにショパンの新譜は復刻も含めて結構出回っている。しかしこれは直近の録音だ。

http://www.hmv.co.jp/product/detail/3829607

ショパン:ノクターン全集(全21曲)
CD1
・ノクターン 嬰ハ短調 (遺作)
・3つのノクターン 作品9
・3つのノクターン 作品15
・2つのノクターン 作品27
・2つのノクターン 作品32
CD2
・2つのノクターン 作品37
・2つのノクターン 作品48
・2つのノクターン 作品55
・2つのノクターン 作品62
・ノクターン ホ短調 作品72の1
・ノクターン ハ短調 (遺作)

 イリーナ・メジューエワ(ピアノ)

このアルバムは終始静謐で、とても国内盤とは思われない澄み渡った透明度、かつ独特の余韻感、一切の猥雑さを拒絶したかの純粋な解釈なのである。

冒頭の遺作・嬰ハ短調のやるせなくも凛としたこの解釈はどうだろう。ここまで静謐かつ沈鬱なショパンの弾き出しは例がないほど変わっている。黄金スタンダードであるOp.9は、呆気なく世の中的な固定観念を崩し去る潔さだ。

夜想曲として代名詞的なOp.15-2だが、このアルバムにおけるメジューエワの立脚点を象徴する解釈である。ゆったりとたゆたいながらゴージャスで安定的な旋律がこれまでかと重層的に繰り返され、ピアニズムの極致を描きまくる先達の名演をバッサリと斬ってしまうようなシンプル・モダンな澄明さは一体何なのであろうか。

二枚目になると、流麗さと言うよりも律儀で更なる静かな深みが待っている演奏となっており、温度感は一層低い。これは無論、冷たく分析的という意味ではない。ショパン夜想曲はメジューエワの解釈によれば一種独特な世界であったことが、そして世間的に定着している風なメランコリック基調ではなく、かなり簡潔で毅然たる音楽であったという可能性を色濃く示しているのである。

神髄を伝えるべく苦心惨憺工夫した活字、というのもどうかと思われるほど、なかなかに表現する術が難しいアルバムで、これは是非とも一度耳にして欲しい演奏である。ショパンの演奏、そして数あるノクターン全集の中でも異彩を放つ特異なプレゼンスを持った録音だ。

蛇足ながら、世のショパン名演奏と聴き比べて優劣を付けようと思ってはならない。それは、牛テールスープの旨味と鰹の一番出汁の香味を比較しようとする愚に近いものがあるからだ。不純物が全く含まれていないショパン解釈が世にあるとするならば、まさにメジューエワのこの解釈がそれに当たるであろう。

(録音評)
若林工房、WAKA4143、通常CD。録音は2009年7月、9月、10月、場所は若林工房の御用達である新川(にいかわ)文化ホール(富山県魚津市)である。演奏内容に比肩して、いやそれを凌駕するほどの透過度と静謐感が堪らない超優秀録音である。まだ製造されてから若いスタインウェイがちょっと青臭い残響を振りまきながらもメジューエワのビロードタッチの技巧と落ち着いたメンタリティによってまろび出る美しい音色が引き出されている。地味でエッジが効いた24bit/96kHz録音であるが、ハイバランスで心地良い調音と音場展開である。お勧めの一枚。


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