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2010年07月01日08:21

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【バレエ】ロイヤル「ロミオとジュリエット」(29日)〜歴史を刻んだ夜

サッカーと思って来られた方、ごめんなさいね。まったく別の話です。f(^^;)
でも例えるなら、長島茂雄、王貞治、あるいは皇帝ミハイル・シューマッハの
引退試合に相当する出来事が(3人目は復活してますけど。(^^;))、
おととい、上野の森で催されたのです。

日本にバレエが入ってきたのは明治時代と言われますから、
その歴史は世界4大バレエ団のひとつ、英ロイヤルに匹敵し、
世界級というにはまだ力不足ではあるものの、
Kバレエ、東京バレエ、新国立バレエという、
目の離せないバレエ団が育ちました。
そして多くの優れた日本人ダンサーが、
世界中のバレエ団で活躍しています。(^^)

しかし、超一流と呼べる人となると、100年に近い歴史の中で、
森下洋子さんと吉田都さんの2人しかいません。

そのうちのひとり、吉田都さんの、
所属するバレエ団(英ロイヤル・バレエ)における引退公演が、
6月29日夜、幕を開けました。

       *     *     *

演目は「ロミオとジュリエット」。原典はもちろんシェイクスピアですが、
現在上演されているバレエの原型は、1940年、ソ連(当時)で造られました。
その後さまざまな振付家が改訂を試み、おとといの舞台は、
英国を代表する振付家のひとり、マクミランの手によるものです。

上野に着くと、ホワイエはもう人でいっぱいでした。
人気公演ではよく見かける光景ですが、
いつもと違うのは、一角に「関係者」席が設けられ、
会場のあちこちに目つきの悪い連中が遊弋していること。(^m^)

体格がよく、耳にレシーバーを付け、さりげなく周囲の様子を
うかがっているところをみると、SPでしょう。
日英の著名人が大勢かけつけているのでしょうね。
なにしろ都さんは、大英帝国勲章と紫綬褒章を賜った方ですから。(^o^)

また客席にはカメラが何台も据えられていました。主催のNBSによると、
舞台の模様は、この秋にNHKの芸術劇場で放映されるとか。
おそらくドキュメンタリー番組も制作中なのでしょうね。(^^)

オケのチューニングが終わり、客電が落ちると、
指揮者のボリス・グルージンさんが入場。
日本のバレエ・ファンには客演の指揮者として有名な方です。

オケは東京フィルハーモニー交響楽団。
重厚で素晴らしい演奏でした。(^^)
本来なら「素敵な演奏をありがとう」と言うべきところですが、
ここの場合、最近は少し良くなってきたものの、
これまでは手抜き演奏ばかりしているので、
カメラが入ったり皇族が来たときだけ本気なんだねぇ、
と皮肉の3つも4つも言いたくなります。(^m^)

それはさておき、プロコフィエフの名曲が始まり、
幕があくと、そこは14世紀のイタリアの都市、ヴェローナの一角。
ジョージアディスの荘厳な舞台装置とクラシカルでシックな衣裳が美しい。
Kバレエの手の込んだ舞台装置は、やはりロイヤルがルーツなんだなぁ、
と改めて実感します。(^^)

舞台の具体的な様子はほかの方におまかせして、
印象に残ったことをいくつか記すことにします。

物語の展開は、英国人マクミランの版だけあって、
ノイマイヤー版や熊川版のような説明的な部分はほとんどありません。
英国人ならこのお話、みんな知ってるよね、ということなのでしょう。

観る者に脳内補填を要求する場面が多く、
下手なダンサーだと辻褄があわなくなりますが、そこはお膝下のバレエ団、
ダンサーたちの達者な演技が手をさしのべてくれます。(^^)

この行間を読むというか、解釈に想像の余地を残す演出が、
ノイマイヤー版や熊川版にはない質量感を醸し、作品に厚みを与えます。
もちろん、ノイマイヤー版と熊川版は、その軽やかさが好きですけどね。(^^)

前述のとおり、ダンサーたちの演技力は見応えがあり、
特にベテランや上級クラスの人たちからは、
声なき声が聞こえてくるかのようでした。

惜しむらくは、ダンス・テクニックに往年の冴えがなく、
中堅どころの女性陣と群舞の凋落ぶりは、
露仏の名門と並び称されたころを知る者にとっては
観るに忍びないものがあります。首脳部も頭が痛いことでしょう。
その中で希望の光は、男性陣が頑張っていること。

それにしてもマクミラン版のロミオ以下3名は、
絵に描いたようなお馬鹿3人衆で、つい笑ってしまいます。(^^;)

ロミオ役のスティーブン・マックレー君は、
2004年にロイヤル入団とありますから、まだ20代前半?
わずか5年でプリンシパルに昇格した期待の若手です。
以前観た時はロイヤルも人材難? と少々不安に思ったものですが、
今回はその成長ぶりに驚かされました。(^^)

身長が低く、プロポーションも頭が大きいので相方を選びますが、
都さんとはバランスが取れていました。彼にとって彼女と組んだ経験は、
学ぶところの多い、大いなる遺産となったことでしょう。

2幕の山場、マキューシオの死は、
マクミラン版ではロミオも加担したアクシデントとして描かれます。
従って、このあと敵討ちとばかりにティボルトに襲いかかる、
という解釈は不正解。

ロミオが、そのような蛮行に走る気質持ちということなら、
3幕のパリス殺害もありかもしれませんが、
今回はマックレー君とティボルト役のホワイトヘッドさんとの息も抜群で、
ロミオが友人の死に自らも関わってしまったことを悔やんでいるところに、
ティボルトから「街のゴミがひとつ減ったぜ」とでも囁かれ、
おもわず激昂した、と思わせるやりとりでした。
つまり、お馬鹿ではあるけれど、
ロミオはまっとうな倫理観を持つ若者と表現されていたのです。

そうなると、3幕のパリス殺害は、
互いに相手を墓荒らしとでも思ったのでしょうが、
やはり蛇足としか言えません。
そこを思い切って割愛したノイマイヤー版はさすがですが、
英国系の振付家は、やはりシェイクスピア原典の縛りもあって、
なかなかそこまでの改訂はできないのかもしれませんね。

英国で都さんのジュリエットを観て、幼すぎて好みではない、
という感想を書かれている方がいるようですが、
当時の結婚年齢はいまよりずっと若いというのはもう常識と言ってよく、
アンチの当てつけも入っているのでは? と思ったものですが、
おとといの舞台を観て納得しました。f(^^;)

冒頭の人形を手に現れた時など、14歳どころか、
小学生のそれもミドルといってもおかしくありません。
これではマックレー君よりふけた人が相手を務めたら、
都の条例にひっかかり、収監されてしまいそうです。(^^;)

しかし、以前テューズリーさんと組んでのバルコニーのPDDでは、
ここまで幼くないどころか、可愛いけれど「お姉さん」でしたから、
おそらく都さん、相手にあわせてキャラクターを変えているのでしょう。
それにしても、いくら小柄で童顔とはいえ、
45歳が違和感なく小学生に見えるとは、なんという演技力!(^o^)

都さんの魅力のひとつに音感の良さもありますが、
彼女の音楽に対するこだわりは踊りだけではありませんでした。
1幕で彼女がリュートを引き、友人たちが踊る場面では、
弦を爪弾く腕の動きがオケの演奏とシンクロしているのです!

フェリさんも、そこまではやっていません。
そういえば、マールイのシェスタコワさんが、
「ライモンダ」で同じようなことをしていましたが、
彼女もまた都さんと甲乙付けがたい音楽性の持ち主です。(^^)

「ロミジュリ」を「眠り」のように少女の成長物語とする人もいますが、
今回の公演を観て、それは違うと思いました。
たしかに一夜を共にしたりもしていますが、1週間に満たない物語ですから、
冒頭のキャラクターから大きく逸脱してしまっては無理があります。

そのあたりを都さんはきちんと押さえていて、
さまざまな出来事に遭遇し、変わっていくジュリエットを描きつつも、
根底にある「少女」の顔を要所要所で出していました。
若い頃、役の解釈で苦労した彼女らしい表現であり、
そこまで求めるロイヤルに所属するダンサーだけのことはあります。

バルコニー・シーンはもちろん、寝室の悲しみのPDD、
仮死の薬を前にした葛藤場面など、
印象的なところを上げていたらきりがありません。f(^^;)
そうそう、ロレンスの元へ走る前の場面では、
失意から一転、いいことを閃いた! とばかりに、
輝くような笑顔を浮かべていたっけ。(^^)

多くのファンが切望しつつも、実現されずにいた彼女の舞台映像が、
ようやく現実のものとなります。それも記念すべき日のものが!(^^)v

       *     *     *

バルコニーのPDDでは、曲が流れ始めるや鼻をすする人が。
気持ちはわかるけれど、ここはシアワセな場面だよー。(^o^;)

そして自殺したロミオにすがりつく姿に、たまらずうるうる。
私もすぐにいくよ、こんどこそ、ずっと一緒だよ!
とでも言っているのかな? と思ったら、もう涙腺決壊です。(ToT)
(自分で自分を泣かしてどうする...。(^^;))

その時の都さんの表情は、たしかに微笑んでいたように見えましたが、
涙に焦点がぼやけてしまい、明瞭に確認できませんでした、ぴ〜さん。f(^^;)
(ぴ〜さんと同じ日をご覧になっていたお師匠さまにたずねたところ、
「うん、都さん、微笑んでたよ。それだけにせつない。」とのことでした。)

       *     *     *

最初のカテコでは、まだ役から抜け出せていない都さん、
2度目でようやくはればれとした笑顔に。
その後15分にわたり、何度カテコがくりかえされたことでしょう。

舞台上には他のダンサーやスタッフも勢揃いし、
万雷の拍手の中、次から次へと花束が届けられ、
彼女の周囲はお花畑状態に。そうこうするうちに、
これが最後の舞台という実感がわいてきたのか、都さんも涙目に。
もちろん、観客席は2度目のカテコからスタオベでした。(^^)

ありがとう、吉田都さん、
ここはご苦労様、と言うべきなのでしょうが、
我々は、まだまだあなたの舞台が観たいです。(^^)

       *     *     *

引退と言っても、ロイヤルの現役ダンサーとしての籍を抜き、
体力的なものもあって全幕の主役を踊る姿を観ることはもうないだろう、
とのことだと思いますが、怪我をして踊れなくなったわけではありませんし、
その実力は、そのヘンのダンサーなど足下にも及びません。(^o^)

実際、このあとも2つのガラ公演
http://www.koransha.com/ballet/shinzui2010/index.html
http://www.sdballet.com/
やワークショップへの参加が明らかになっており、
まだしばらくは、彼女のチャーミングな笑顔と、
正確無比で雄弁な踊りを楽しむことができることでしょう。(^^)
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