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2009年11月23日12:30

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【音楽】Rachmaninov: Moments musicaux Etc.@Irina Mejoueva

若林工房の夏の新譜から久し振りのメジューエワのアルバム。今回はロシアの同時代を生き抜いたスクリャービンとラフマニノフの小品集。

http://www.hmv.co.jp/product/detail/3657520

スクリャービン:
・プレリュード ロ長調 作品16-1
・プレリュード 嬰ハ短調 作品22-2
・プレリュード ロ長調 作品22-3
・プレリュード 嬰ト短調 作品16-2
・プレリュード ト短調 作品17-7
・即興曲 ロ長調 作品14-1
・ピアノ・ソナタ第2番嬰ト短調 作品19『幻想ソナタ』

・ラフマニノフ:楽興の時 作品16(全6曲)

イリーナ・メジューエワ(ピアノ)

メジューエワのメトネルは独特の世界観を切り拓いたし、ベートーヴェンの録音もなかなか静謐で良かった。今回のこのアルバムでは好対照とも言える二人の代表的小品を対比的に並べていて興味深いものがある。スクリャービンとラフマニノフは音楽大学の同窓で互いに机を並べていた間柄だが、二人の作風は大きく違う。スクリャービンが比較的前衛的でチャレンジャブルな色彩感を全面に出しているのに対してラフマニノフはオーソドックスで旋律の音の数は少なく、和声も最小限度の組み合わせで光と影を描いた。特に影の部分の暗さにおいてはロシア系も含めてロマン派随一ではなかろうか。

夭折したスクリャービンが短い生涯を通してライフワークとしていた感のあるプレリュードであるが、メジューエワの変幻自在でふくよかなピアニズムがどんぴしゃでマッチしていて素晴らしいのひとこと。この演奏のように相当程度の感情移入をしながらも写実的であり嫌らしい粘性も感じられず一気にさらりと弾かれると、とかく難解さが忌避の原因ともされるスクリャービンの作品の根底に流れる印象を方向転換せざるを得ないだろう。とにかく楽しめるタッチなのだ。

対する楽興の時だが、同じピアニストが弾いているとは思われない重厚で襞の厚い解釈となる。この曲は、ちょっと病的で引き籠もり系の危うさと儚さが漂うラフマニノフの作品中でも更に全作品を凝縮したかの暗く、時に激烈な作品なのだが、メジューエワのアプローチは更に病的で根暗に、そして「強く」弾いている。深いペダリングと時折出現するデフォルメされたシンコペーションが暗澹たるラフマニノフの心象を表現する一方(=つまり影の部分)、長調に転調した辺りの伸びやかで明るい陽光を思わせるパート(=つまり光の部分)では安堵を得る場面もあって、なかなかに目まぐるしくて激しい解釈、いやドラマティックな弾き方だ。

現代を代表する標準ピアノであるスタインウェイがここまでの陰影と硬軟を聴かせるのは珍しいことかも知れない。弾き手で音が変わるとは言うけれど、メジューエワの魔法の指にかかるとここまで多彩な表情を見せつけるのである。ピアノ自体の音の美しさと解釈の深さが相俟って、相当ハイレベルなアルバムに仕上がっている。ロシア系ピアノ曲ファンは必携のアルバムではなかろうか。特にスクリャービンのフェザータッチの解釈は新鮮で、是非とも全曲録音にチャレンジして欲しいもの。

(録音評)
若林工房、WAKA4136、通常CD。録音は2009年1月、4月、場所は富山県魚津市の新川(にいかわ)文化ホール、24bit/96kHz録音とある。

音質は従来の若林工房の延長線にあるものの更なる高みを達成している優秀録音だ。新川文化ホールの残響の美しさ、そしてメジューエワの多彩なキータッチを余すところなく捉えており、尚かつ気品と芸術的センスに満ちた好録音。日本国内のマイナーレーベルが欧州のMIRAREやnaiveに比肩して高品質のピアノ録音が録れるということは誠に喜ばしいことだ。


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