mixiユーザー(id:3696997)

2009年01月15日11:31

10 view

【音楽】Mahler: Sym#2 & #10-Adagio@Gergiev/LSO

昨日は昨年度の各賞をまとめたわけだがこれは年度末決算のようなものだから、自分の音楽鑑賞暦としては今日が2009年度の期初ということになる。その期初にふさわしい、ゲルLSOのマラ2復活だ。

http://www.hmv.co.jp/product/detail/2815969

マーラー:
1.交響曲 第2番 ハ短調「復活」
2.交響曲 第10番 嬰へ短調 より アダージョ

 エレーナ・モシュク(S)、ズラータ・ブルィチェワ(Ms)
 ロンドン交響合唱団
 ワレリー・ゲルギエフ(指揮)、ロンドン交響楽団

ゲルのマーラー・チクルスが昨年度各賞に入っていないという鋭いご指摘も一部から頂いているが、それはこのチクルスが劣っているという事ではなく、寧ろ非常に優れているのだが、自分的には他にもっともっと優れて印象的な作品があったというだけのことである。

一楽章の入りはとても静かで幽玄なVnのさざ波で始まり、周期が長めのアゴーギクが密やかに施されたもの。実測時間で見るとブーレーズよりも1分ほど遅いにも拘わらず逆に急ぎ足に聞こえる。ppとffの対比が著しくて強弱のめりはりは抜群、独特の緊張感が最初から最後まで持続する。描き方はいつものパワフルなゲルとは違ってとても細やかだ。

穏やかでのどかな二楽章、角笛の再現部を持つ三楽章と、割と淡々と進むが四楽章から俄然アクセルが掛かる。そうは言っても、不思議なことにここはそれほど急いでいる感じはしないのだ。ズラータ・ブルィチェワのコントラルトで歌われる角笛=原光は絶品であり、ロシアからわざわざ呼んできた甲斐があったというものか。

そして五楽章、マッシブで筋肉質な一面はゲルの荒っぽさから来るものだろうがやはりここでもタクト捌きは慎重で、非常に繊細なアーティキュレーションとアチェレランドが随所に仕掛けられていて飽きない。弦セクションのデュナーミクが効果的に働いていてこれほど生き生きとした終楽章は例がないほどだ。歓喜を歌い上げる終盤は他の誰の解釈とも違うもので、実はコーダに入る直前に情感のピークをゆったりと大掛かりに設定しているのだ。そしてコーダは意外にもサラリと静かに締めているのは例外中の例外である。普通の復活はコーダが終わるとその感動と疲労に打ちのめされて立つことすら億劫になるのであるが、この瞑想的かつ静かな祈りにも似た終わり方だと普通に前を向いて立ち上がって次の所作に移ることが出来る、いわば整理体操のような演出なのだ。

全編を通してのこの独特の感動はどこから来るのであろうか? その秘密は楽章ごとの時間配分と楽想の付け方、つまり遅めの一楽章のテンポを速く聴かせ、また速めの五楽章のテンポを遅く聴かせるように工夫している点にあるようだ。最初に聴くといつものゲル解釈のようにどの楽章もとても急ぎ足に聞こえてしまうのであるが、それはどうやら五楽章のテンポが全体の印象を帰納的に足早なものとして感じさせているようである。他の楽章に関しては速く聞こえはするが実際にはそれほどでもないのだ。因みに各楽章の演奏時間をブーレーズ盤、ノリントン盤、バーンスタイン盤と比較すると次の通り:

VG/LSO: 21:50 10:07 9:23 4:39 31:44
     
PB/VPO: 20:55  9:17 9:27 5:36 35:21
RN/SWR: 20:40  8:55 9:41 5:04 33:57
LB/NYPO: 24:53 12:04 11:24 6:18 38:38

確かに最終楽章は異例に短くて、ブーレーズVPOより4分近く、割と速めのノリントンより2分以上短い。スローで有名なバーンスタインからは実に7分も短いのだ。歴代の著名録音における五楽章の平均演奏時間は手元の計算では35分20秒ほどとなるのでやはりゲルは速い。その点、ブーレーズはキッチリと平均演奏時間を刻んでいることとなるしノリントンはちょっと速く、そしてバーンスタインは飛び切り遅いのだ。

個人的にはかなり気に入った新機軸の復活だ。しかし、例によって賛否は分かれるであろう。

(録音評)
LSO Live、LSO0666、SACDハイブリッド。復活は2008年4月20-21日、10番は2008年6月5日、ロンドン,バービカンホールでのライブ録音。録音担当は例によってClassic Sound Ltdだ。

この2番にしてまた新境地に到達している録音であり、前例がないほど大胆な音質だ。とにかく全編を通して録音レベルが極めて低い。太宗を占めるppはボリュームを相当上げないと聞き取りにくいしffではその轟音に身じろぎをしてしまうほど。このCDのディテールを綺麗に聴き込むためには是非ともSACDレイヤーで聴いて欲しい。

音の構図だが、サウンドステージは遙か彼方に形成され、二階席最前列から20ミリ超広角レンズで俯瞰したかのような画角とパースペクティブだ。そしてバンダホルンの響きが遠いこと遠いこと・・。部屋も家も突き抜けて隣の家から鳴っているようだ。

最終章のコーダに近付くとこの鳥瞰図的な仕掛けの意図する全貌が明らかとなる。爆音の劫火に包まれるステージは一切肥大も破綻もすることなしに、オケもコーラスも独唱者も100%の画角にいっぱいいっぱいで、しかも立体的に収まり切るのだ。

このSACDに収められているダイナミックレンジを最弱音から最強音まで淀みなく再生することは一般的な設備/環境ではなかなか困難であろう。いったいどういった顧客層をターゲットに企画された作品なのだろうか、首を傾げてしまう。期初に扱うにはタフでチャレンジングなSACDだったかも知れない。
0 2

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2009年01月>
    123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031