mixiユーザー(id:68108846)

2026年10月04日08:37

38 view

朴勝俊・長谷川羽衣子・松尾匡『積極財政を理解するためのマクロ経済学』(せせらぎ出版)

朴勝俊・長谷川羽衣子・松尾匡『積極財政を理解するためのマクロ経済学』(せせらぎ出版)を読みました。
著者は、順に、関西学院大学総合政策学部教授、グリーン・ニューディール政策研究会事務局長、立命館大学経済学部教授、となっています。はい、立命館大学の同僚である松尾教授だけでなく、私は3人とも面識があります。ですので、かどうかはともかく、本書はご著者からご寄贈いただいております。
本書は、タイトル通りに、日ごろから話題に上る為替レートや金利、物価、賃金などの変動要因をよりよく理解し、きわめて怪しげな財政破綻論や通貨の信認に基づく議論などに戸惑わないよう、あるいは、騙されないよう、同時に、豊かな国民生活の実現に向けて必要な財政政策や金融政策のための基礎知識を身につける上で助けとなるマクロ経済学の教科書を志向しています。
5章構成であり、第1章で、現在の通貨制度におけるおカネと財政の関係を明らかにし、第2章で短期的な不況対策やインフレ抑制について考えるための理論を考え、第3章でより長期的な観点から、望ましい産業構造や総労働配分を実現するための課税のあり方などを考える思考枠組が提供され、第4章で実物経済と金融経済の関係を体系的に把握し、最後の第5章で為替レートや国際収支などについての理解を深める議論が展開されています。
従来のマクロ経済学の教科書に比べて、いろいろと工夫されている点はありますが、では、大学の授業で使うか、といわれれば、やや否定的な回答にならざるを得ない気もします。ただ、大きく間違っている点はありませんし、従来のマクロ経済学ではそうそう扱わない点もたくさん盛り込まれています。
しかし、ブランシャール教授の教科書にあるとはいえ、マクロ経済学のIS-LM曲線にフィリップス曲線を加えて、IS-LM-PC曲線による所得と利子率と物価の決定は、やっぱり、判りにくい気がします。通常のAD-AS曲線の方が学生には理解しやすいかもしれません。
家計貯蓄残高により国債発行高の天井が形成されるという議論をきちんと否定的に考えているのは当然です。すなわち、国債を発行して市中で消化すれば、それは保有者には資産になるわけですので、国債発行とともに民間部門の貯蓄は同額増えると考えて大筋間違いではありません。ただ、両建てで政府の国債と民間部門の資産が増加しますので、金利の変動に脆弱になる可能性は考えておく必要があります。日本が米国に次ぐ世界第2位の経済大国であった時代はとうに過ぎ去り、段々と開放的な小国経済(small open economy)になりつつありますので、マンデル・フレミング・モデルからして、海外の金利の影響を受けやすくなる可能性があります。
最後に、為替レートの考え方です。実質実効レートが通貨の実力であるとか、産業の競争力であるという世間一般の謬見を本書が正している点は高く評価します。その通りです。しかも、本書で取り上げている4種類の為替レートのどれで考えても、円安なら輸出をする企業が有利になる点は当然です。ただし、この点がもっとも重要と私は考えるのですが、企業の競争条件を有利にしても、まったくトリックルダウンは生じなかった、というのがアベノミクスの帰結です。それよりも、円高にして輸入品を割安にした方が国民生活を豊かにできる可能性が高い、というのが最近の論調で一定の支持を得るようになっている気がします。
ただ1点気がかりなのは、円高になれば化石燃料輸入が相対的に有利になって気候変動問題に決していい影響をもたらさない、という点です。気候変動対策としてのCO2排出を抑制するため、激変緩和は必要としても、今のようにエネルギー企業に補助金を出して化石燃料の価格を抑えるのではなく、一定は価格引上げを容認する必要があるような気もします。
加えて、ひねくれた考えですが、円高で海外旅行をしやすくなるのは富裕層に裨益する可能性が高い、とも考えています。ですが、総合的に考えて、現時点では円安よりも円高の方が国民生活には利益をもたらす、というのが私の見方です。

1 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する