ECMの輸入新譜からシフのベートーヴェンPソナタの第6巻。シフはこのところベートーヴェンのチクルス録音を時系列的にやっていて、ソナタ集の1〜5巻はすこぶる評判がよろしい様なので6巻を摘み食いしてみた。
http://www.hmv.co.jp/product/detail/2703426
ベートーヴェン・ピアノ・ソナタ全集 Vol.6
ピアノ・ソナタ 第22番 ヘ長調 作品54
ピアノ・ソナタ 第23番 ヘ短調 作品57「熱情」
ピアノ・ソナタ 第24番 嬰ヘ長調 作品78「テレーゼ」
ピアノ・ソナタ 第25番 ト長調 作品79「郭公」
ピアノ・ソナタ 第26番 変ホ長調 作品81a「告別」
アンドラーシュ・シフ(Pf)
アンドラーシュ・シフはデビューして30年ちょっとになるだろうか。同じハンガリー出身のデジェー・ラーンキ、ゾルターン・コシチュと共にハンガリーの三皇子、または三羽烏などと持て囃された時期があった。ラーンキが甘いマスクでご婦人方に人気があったが超絶技巧のシフもなかなかの人気であったと思う。
私がまだ学生だった頃、このアルバムに入っている熱情、並びに月光、悲壮というプログラムを東京文化かNHKホールだったかで聴いた記憶がある。同じ様なプログラムをほぼ同時期にコシチュも東京でやっていてそれも聴きに行った。どちらも若きヴィルトゥオーゾという感じで精悍に弾き倒していた。
あれから数十年の歳月が過ぎ去ったわけだが、このアルバムに聴くシフのベートーヴェンはなるほど世間の評判を取るほど完成された解釈である。特に若い頃に超高速パッセージを鮮烈に刻んでいた熱情はその面影はなく、透徹されたマルカートを基本とした洞察性の高い譜読みと共に人肌を感じる熱情であって、狂気がなりを潜めたかなり抑制的な弾き方だ。しかし、情念の激しい表出は相変わらず強く出していてこれは若い頃と変わらない。
仄暗いセンチメンタリズムが全編を覆う告別がこのシフのアルバムの真骨頂とも言えようか。メンタリズムとコントロールを両立させた素晴らしい展開で、瞑想的かつ丹念な描き込みだ。
全体を通してノン・レガートで取り組んだ清潔なベートーヴェンだが所々でペダルの使い方が深すぎる気もする。しかし、使用されたピアノがアンジェロ・ファブリーニ(註:イタリアのピアノ調律師だが、スタインウェイとベーゼンドルファーの音質改造も手掛け、ポリーニが演奏会で用いる楽器で特に有名)のチューン(恐らくスタインウェイがベースと思うが・・)による極上の音色を出しているので寧ろサスティン音が美点とも言える。
ファブリーニのスタインウェイとベーゼンを使い分けているというチクルスの他の巻も気になってくる演奏であった。
余談: 幼少期から「郭公」の三楽章ヴィヴァーチェとショパン・エチュードop25#9「胡蝶」がそっくりだと思っているが今回もその意を新たにした。郭公の各フレーズの最後にある「DC↓AHD---」の5つの音を省いてくっつけると胡蝶と殆ど同じ旋律になる。ショパンが郭公から拝借したとしか思われない・・・w
(録音評)
ECMレーベル、4766187、通常CD。Live recording from Zurich’s Town Hall, produced by Manfred Eicherとある。チューリッヒ・トーンハレでのライブ収録とのことだが、スタジオ録りと区別が付かないくらいS/Nは高く克明な録り方。音質的には取り立てて高解像度というわけではないがAngelo Fabbriniの美音ピアノが遺憾なく楽しめる。この特製ピアノ、中高域の質感は独特のまろび出る雰囲気がファツィオリにそっくりだ。
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