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2026年09月16日15:43

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映画「オデュッセイア」

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クリストファー・ノーランの話題の新作『オデュッセイア』をIMAXレーザーで観た。予想をはるかに超える見事な映像作品で打ちのめされた。まさか、これほどの完成度で紡がれた壮大な物語だったとは思わなかった。トロイア戦争について多少知識はあったものの、ホメロスの『オデュッセイア』未読のため、本作がオデュッセウス不在の間のイタケ王国とオデュッセウスの流浪と帰還を中心とした冒険談であることはとても新鮮に映った。時系列が過去と現在を行きつ戻りつしながら同時進行で展開することも、クリストファー・ノーランらしい。本編172分、全くだれることなく緊張感を維持するのはさすがだ。あまりに素晴らしい映像体験だったので、できることなら、次はグランドサンシャインシネマ池袋のIMAXレーザーGTの巨大スクリーンで観てみたい。本作は間違いなく今年度のアカデミー賞を総なめにするだろう。映画史に残る大傑作である。
 

【物語】 トロイア戦争にオデュッセウス(マット・ディモン)が出征して20年。共に出撃した他国の軍勢がすでに帰還して8年が経過していた。オデュッセウスが死んだと考えられていたイタケでは、オデュッセウスの妻、王妃ペネロペ(アン・ハサウェイ)を娶り、王位について遺産を相続しようとする大勢の求婚者が滞在して連日連夜、王宮の宴で時を過ごしていた。「ゼウスの掟」では旅人に飲食を提供し、もてなさなければならないと定められていたからだ。3年もの間、彼らに酒や食事を提供することで王家の経済は困窮していったが、掟を破って彼らを追い出すことはできない。求婚者達は王妃ペネロペに自分たちの中から夫を選ばせるため、酒や豪勢な食事を要求し、召使たちには嫌がらせをするなどあえて非道なふるまいを日々重ねていた。宴を終わらせるには、彼らの中から夫を選んで王にするしかなく、また、正規の王位継承者であるオデュッセウスの長子テレマコス(トム・ホランド)を挑発して剣をとらせることができれば彼を殺す「正当な口実」にもなる。事実、テレマコスは求婚者達をもてなすため王家が困窮し、召使たちが非道な扱いを受けることに我慢ならなかった。

 テレマコスは、オデュッセウスの忠実な僕(しもべ)で盲目の豚飼いであるエウマイオス(ジョン・レグイザモ)の指導で日々、剣技の師メントルと共に鍛錬に励んでいたが、若く身体が小さい上に実戦の経験がなかった。ある時、オデュッセウスの愛犬アルゴスが求婚者達に虐待されているのを制止したエウマイオスが嘲笑された挙句、暴行を受ける。テレマコスは剣をとって助けに入るが、荒くれた戦士ポリュボスに簡単に組み伏せられてしまう。ポリュボスは「これで王の息子を殺す権利を得たぞ」とテレマコスから奪った剣を高く突き上げて宣言するが、その時、奥から王妃ペネロペが現れ、「息子はまだ子どもです。どうか、助けてください」と懇願。ポリュボスが逡巡するのを求婚者達のリーダー的存在で知恵の働くアンティノオス(ロバート・パティンソン)は「まだ、その時ではない。策を考えよう」と剣を引かせる。

 助けられたテレマコスは母ペネロペに求婚者達の非道ぶりはこれ以上、見過ごすことはできない、彼らを追い出すためにも自分を王にしてほしいと談判するが、母は「今の自分が王に相応しいと思っているのですか」と認めない。テレマコスは憤慨し「あたなたはイタケの王妃の座を手放したくないだけだ!」と叫ぶが、ペネロペは「私が望んでいるのはオデュッセウスだけです。できることなら、私は求婚者達を広間に閉じ込め皆焼き殺したいくらいなのです」と本心を明かす。母が3年もの間、求婚者達の中から夫を選ぶことをせず、ひたすら耐えて来た真意を知ったテレマコスは父オデュッセウスを探す旅に出ることを決し、人生の死であるエウマイコスに信頼できる忠実な部下を極秘で集めるよう依頼する。テレマコスが目指すのは、トロイア戦争終結後、無事に故国に生還したメネラオス王(ジョーン・バーンサル)のスパルタ。メネラオスの妻はトロイア戦争の原因となったヘレネ(ルピタ・ニョンゴ)で、アガメヌオン王の妻クリュタイオネストラ(ルピタ・ニョンゴ、二役)とは双子の姉妹だった。メネラオス王ならば消息不明のオデュッセウスについて何か知っている可能性があったからだ。しかし、秘密裏に出発したテレマコス一行の動向は、すでに求婚者達の知るところとなり、アンティノオスは刺客を放つのだったが・・・。




 

 この先、ネタバレのためご注意願いたい。







 トロイアの浜で10年戦ったギリシャ軍だったが、トロイアの守りは鉄壁で勝負を決することはできない。オデュッセウスの知略による木馬作戦によって、浜にアテナ神への供物である巨大な木馬と兵士シノンを残し、ギリシャ軍の大船団は撤退していく。シノンは木馬の中にオデュッセウスらギリシャ軍の精鋭が潜んでいることを知らされておらず、トロイア兵に殺される直前に「木馬はアテナへの献上品です」と答えていた。トロイア兵達は城壁の内側に木馬を引き入れると、女神アテナ像の前に置く。その夜、木馬から脱出したオデュッセウスらの活躍によって城門を開け、ギリシャ軍は城内に突入、トロイアは一晩にして壊滅した。戦争終結によって帰国を目指したオデュッセウスの船団は、アガメムノン王、スパルタのメネラオス王らの大船団と別れ、イタケを目指すが、途中、水と食料を求め、上陸した異国の村は「ゼウスの掟」を拒否したことから戦闘になってしまう。武力によって水と食料を強奪したオデュッセウスらは村人が自分達を「海から上がって来る者」と勘違いして抵抗したことを知る。当時、「海から上がって来る者」がこの世界を終わらせると信じられていたからだった。生き残った村人はオデュッセウスらに「この先、あなたがたは良からぬものに遭遇するだろう」と教える。

 オデュッセウスらの船団はさらに先を目指すが、再び、水と食料を求め、見知らぬ土地に上陸。すでに水、食料と交換できる品々はなかったが、「ゼウスの掟」により無償で食料を提供してもらえると信じていた。上陸したオデュッセウスらは羊を見つけ、そのあとについて、巨大な洞窟に入っていく。そこは誰かが生活をしている痕跡があり、住人が戻るのを待つことにするが、羊の群れと共に帰って来たのは「一つ目の巨人」キュクロプス・ポリュペモスだった。不幸な行き違いによって、オデュッセウス達は何人か巨人に喰い殺され、生きて脱出するために巨人の目を潰すことを選択。巨人の正体は海神ポセイドンの息子で、彼は自分の目を潰した者達を生かして帰さないでほしいと、ポセイドンに祈ってしまう。オデュッセウス達はもはや「海は自分達の味方ではない」と悟った。

 次にオデュッセウス達が上陸したのは樹木が生えたなだらかな丘陵地帯だった。先ほどのようなミスを犯さず、今度は「ゼウスの掟」によって穏便に水と食料をわけてもらわなければならない。警戒しながら林を進んで行くと、白い装束を着た人物を発見。オデュッセウスは声をかけるが、彼は無表情。言葉が通じないが、顔は子どものようだ。ただし、オデュッセウスらギリシャ人と背格好は同じだった。「彼が子どもなら、大人はどこにいるんだ?」「水と食料を分けてもらえないだろうか?」 その時、白装束の子どもが大声で泣きはじめ、一目散に逃げて行った。オデュッセウス達は予想外の展開に驚くが、やがて、道の向こうから大きな足音を響かせながら、全身を白い甲冑でおおわれた巨人達が接近して来る。オデュッセウス達は一斉に剣を抜き、警戒態勢をとる。巨人達は問答無用で攻撃をしかけて来て、たちまち激しい攻防戦が繰り広げられた。樹木はギリシャ軍兵士の逃げ場を塞ぐように移動して、多くの兵士が巨人の剣に刺されて斃れる。兵士達は先を争って砂浜に逃げ戻り、船に飛び乗るが、2艘が巨人達につかまって転覆させられてしまう。逃げ遅れた兵士達が無惨に突き殺される中、オデュッセウス達の船だけが沖に出ることが出来た。
 
 水と食料の調達のために上陸したものの、白い甲冑装備の巨人達の襲撃によって目的を果たせなかったばかりか、多くの仲間達を喪ったオデュッセウス達は陸地沿いに航行することにする。どこかで水と食料を確保しなければ外洋に出ることは不可能だったし、そもそも航路を見失っていたからだ。陸地に沿って船を進めた彼らは高い崖の上に石造りの家を見つけ、煙突から煙が立ち上っているのを発見する。さっそく、オデュッセウス達は上陸班を編成し、浜に着けるが、兵士達はオデュッセウスに残るように懇願し、彼らだけで崖の上の家を目指した。途中、ライオンや虎、豹が飼われていることにいぶかしみながらも兵士達は家に到着すると、女主人に「乱暴はしない。食料がほしいだけだ」と告げ、彼女の名前を尋ねる。女主人は「キルケ」と名乗ると、食べ物はいくらでもたくさんあるので、武具と武器は家の外に置くよう指示し、テーブルに食事を用意。兵士達は久しぶりのご馳走を前に狂ったように食べはじめる。女主人は必死の形相で食べ続ける兵士達の背中に立ち、呪いの言葉をかけながら、頭やあごに手を回すと渾身の力を込めて、男達の身体を豚に作り変えてしまった。

 一方、オデュッセウスは獲物を仕留めるため弓矢を持って単独で行動していた。高原で鹿を見つけ、追跡。丘陵で鹿に射かけると矢が命中した鹿は窪地に転落する。仕留めた鹿を確認しようと窪地を覗いたオデュッセウスは目を疑った。矢が刺さった全裸の男が斃れていたからだ。「何かがおかしい」と気づいたオデュッセウスは浜に戻って、小舟の監視に残っていた兵士に誰か戻って来なかったかを確認。「いえ、ひとりも戻って来ません」と兵士。異変を悟ったオデュッセウスは兵士から短剣(ダガー)を借りて、忍ばせると崖の上の家を目指した。崖の上の家では、オデュッセウスがひとりで坂道を上がって来ることに気づく。キルケはオデュッセウスに独りで来たのかを尋ね、豚をご馳走しましょうと勧めるが、彼は「ここのシチューで充分です」と肉を食べることを拒んだ。何かが怪しいと読んだからだ。鋭い観察力と機転によって、キルケの魔女の正体を見破ったオデュッセウスは仲間達を元の姿に戻すことを要求。人間に戻った兵士達は「魔女を退治しましょう」と提案するが、オデュッセウスは魔女にも事情があることを察し、見逃した。キルケの魔女はそのお礼として、彼に冥府(ハデス)に行き、そこで預言者ティレシアスの言葉を聞くよう勧める。預言によれば「無事にイタケに生還できるのはオデュッセウスだけで、他の仲間達は全員死ぬことになるだろう」という・・・。


 トロイア戦争終結後、母国イタケを目指すオデュッセウス達の試練の旅の描写が素晴らしい。しかし、この物語の白眉は冥府で出遭ったアガメヌオン王の訓えに従って、オデュッセウスが華々しくイタケに凱旋せず、物乞いに身をやつして、ひっそりと帰郷したあとのシークエンスだ。神々に愛され、自らの運命を支配する英雄オデュッセウスの真価がそこで存分に発揮される。「私はまだだ」と強弓を引くチャレンジへの志願から、恥知らずな求婚者達にひとりで立ち向かう、短くも激しい室内戦闘シーンが実に見事だ。激闘のさなか、次々に膝まづいてオデュッセウスへ恭順の姿勢をとる者、オデュッセウスと知りながらなお戦いをやめず誅殺される者が歴然と分かれる「運命のドラマ」がとても効果的である。本作は、マット・ディモンの生涯ベストアクトとなるだろう。

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