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2026年08月23日03:18

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映画「神探大戦 Detective vs. Sleuths」

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香港映画にはまり、ラウ・チンワン(劉青雲)推しの末娘のお奨めで映画『神探大戦 Detective vs. Sleuths』(2022年)をAmazonプライムで視聴した。肝心のラウ・チンワンがどういう俳優かを知らないので、『神探大戦』の姉妹作品とも前日談とも言われる映画『MAD探偵 7人の容疑者』(2007年)も当然、観ていない。念のため、『MAD探偵7人の容疑者』のあらすじを調べてみたが、ラウ・チンワン演じる主人公の特殊能力以外は共通するものがなく、未見でもなんら問題ないようだ。

 タイトルにある「神探」とは、神がかった捜査能力を発揮して殺人事件を次々に解決する「神の捜査官」を意味する。そして、この「神探」こそ、ラウ・チンワン(劉青雲)演じる香港警察の刑事・李(レイ)だ。彼はかつて香港警察のエースだったが、様々なトラブルを起こして停職中の身。多重人格の疑いがあり、精神病院への入退院を繰り返していた。本作は香港映画の常として、登場人物と情報量が多いのに展開は異様に速い。事件番号と凶悪事件、その描写があふれるように出て来るので混乱する。李(レイ)がこういう人物であるということだけ視聴前に理解しておけば、とりあえず、物語に置いて行かれることはないだろう。真犯人と思しき容疑者が次々に浮上し、その誰もが怪しいという巧妙な推理ドラマだが、『神探大戦』というタイトルに恥じない戦争映画なみのド派手な銃撃戦も楽しめる「お勧めの一本」だ。ラウ・チンワンの鋭い眼光は千葉真一、ふてぶてしさはベニチオ・デル・トロを彷彿とさせ、私も気に入った。


【物語】 女性ばかりを拉致して暴行の上、殺害する連続猟奇殺人事件「殺戮魔事件YLRN99146095」。拉致監禁され三日間激しい暴行を加えられた女学生の陳(チャン)は殺されるのを待つ間、隙をついて犯人のアジトを脱出に成功。両手を後ろ手に縛られ、目隠しと猿ぐつわのまま下着姿で、アジトからの歩数、階段数、周辺の音などを記憶しながら、必死に逃走する。被害者が拉致されたと思われる地区を捜索中の巡査・方(フォン)に発見され、救助された。捜査の結果、アジト近くに住む容疑者を割り出し、元朗(ユンロン)署の欧陽(アウヨン)刑事が警官隊を引き連れ、容疑者逮捕に向かう。容疑者・強(キョン)は「僕じゃない! 何かの間違いだ!」と自分の娘を抱いたまま、鉈(なた)をふり回して警官隊に抵抗する。方(フォン)は「子どもを放せ。先に子どもを」と両手を広げ、容疑者を興奮させないように慎重に接近、娘を救い出すことに成功するが、その瞬間、刑事の欧陽(アウヨン)は躊躇うことなく容疑者を射殺してしまう。幼い娘は「パパ、パパ!」と地面に倒れた父親に呼びかけていた。

 それから4年後、「悪魔の警官事件KTRM03063172」。深夜の観塘地区をパトロール中の制服警察官二人が何者かに銃撃される。犯人は私服姿の男を盾に、その背後からリボルバーを射ち、ひとりを斃し、もうひとりの警察官は拳銃を抜いて果敢に反撃。しかし、犯人が盾にした男に命中するばかりで、こちらも犯人に射ち倒されてしまう。犯人は警察官二人と盾にした男にトドメを刺し、男の靴が脱げてしまったことに気づくと靴をはかせて靴紐を結び、男の手に凶器のリボルバーを握らせ、バイクで逃走する。緊急連絡を受け、現場に到着したのは4年前の事件の被害者で今は女性刑事の陳(チャン)と、彼女を助けた刑事の方(フォン)だった。陳は男のポケットに警察手帳があることに気づき、方に伝える。方は「なぜ、警官を襲った!?」と詰問するが、男は口を射たれていて、話すことができない。そこへ、4年前の事件で容疑者を射殺、今は警視となっている欧陽(アウヨン)が到着。方(フォン)は「男はチュンワン署の警官、秦(チョン)、使った銃は2年前、殺された警官のリボルバーが使われた証券会社殺人事件と同じです。防犯カメラに映った犯人は白い靴で、靴紐は赤でした」と欧陽(アウヨン)に報告。それを聞いた欧陽(アウヨン)は興奮し、路上に倒れている男に向かって怒鳴りはじめた。「なぜ、警官を殺す! 奪った拳銃で事件を起こし、また仲間の警官を殺すとは!!」     

 現場に黄(ウォン)警視正が率いる精鋭・犯罪捜査課が到着。欧陽(アウヨン)刑事は「犯人はチョンワン署の警官、秦(チョン)。使った銃は警官殺しで奪われたものでした」と報告する。黄(ウォン)警視正は記者会見の場で詳細を発表するが、そこへ停職中の刑事・李(レイ)が大声で叫びながら乗り込んで来た。「でたらめだ! 警察長官は辞めろ! 降格だ。被害者が犯人だと、警察学校からやりなおせ!」と警察長官と黄(ウォン)警視正に靴を投げつけた。制服警官達が李(レイ)にとびかかり、取り押さえようとするが、反対に若い刑事を後ろから羽交い絞めにすると、彼の腰からリボルバーを抜き、天井に向け、発砲した。記者会見会場は騒然となり、警官達も李(レイ)と捕らわれた刑事を遠巻きに見守るしかない。李(レイ)は若い刑事の口にリボルバーの銃身を突っ込んで喋れないようにすると「泰(チョン)は犯人ではない! 現場には4人いたんだ。秦(チョン)は退勤後に拉致され、口を銃で塞がれていた。犯人は泰(チョン)を盾にパトロール警官ふたりの口を射った」と自分が推理した事件のあらましを解説しはじめた。「犯人は警官ふたりにトドメを刺すと、秦(チョン)の口を射って、銃を握らせた」と言うと、黄(ウォン)警視正が「秦(チョン)のロッカーには証券会社から奪ったものがあったのよ」と反論する。李(レイ)はさらに大声で叫ぶ。「罠だよ! 殺戮魔事件と同じ、犯人が仕組んだものだ。殺戮魔事件では物証だけで容疑者を射殺した! どちらも捜査したのは欧陽(アウヨン)だ、あいつは怪しい!! 捜査は間違っている!!!」 その時、隙を伺っていた刑事が李(レイ)の足元にタックルし、若い刑事を李(レイ)から奪うことに成功。その瞬間、欧陽(アウヨン)は李(レイ)に向けて、二発発砲。李(レイ)は重傷を負って倒れるが、「容疑者ふたりは無駄死にしただけだ。遺族に申し訳ないと思わないのか」と言いながら、病院に搬送されて行った。「いいか、俺を信じろ! 担当した事件は必ず解決する。天才的なひらめきでな。俺は神の捜査官、神探だ!!」 彼が拘束され、搬送されていく姿を彼の娘が悲しそうな表情で見守っていた。

 それから、17年後。解決したはずの事件が大きく動き出す。「神の捜査官事件SRN22063172」だ。深夜の雷雨の埠頭で、三人の男達が鎖で繋がれ、ガソリンをかけ生きたまま焼かれるという猟奇殺人事件が発生。所轄の陳(チャン)刑事達が現場検証していると、今や犯罪捜査課の捜査員となった欧陽(アウヨン)と方(フォン)が登場。陳(チャン)は方(フォン)に助けられたことが縁で交際し、今は彼の妻となっていた。妊娠中で大きなお腹を抱えたまま、相変わらず捜査の最前線にいた。陳(チャン)が二人に説明をはじめる。「20年前、この場所で同じような事件が発生しています。当時、市場の経営者が焼き殺されました。過激な事件でしたので暴力団と高利貸しがからむ抗争かと思われましたが、未だに解決に至らず。昨夜殺されたのは、殺害された経営者の3人の兄達で20年前に市場を継承したあと売却し、大きな利益を得ています」 欧陽(アウヨン)は傘をさしながら「何者かが彼らを犯人と断定し、同じ方法で私刑をしたと?」と陳(チャン)に応えた。その時、方(フォン)が現場の路面に大量の事件番号が書かれていることを指摘。若い刑事達がたちまちスマホを検索し、事件番号から事件の概要を欧陽(アウヨン)らに伝える。筆跡は8種類、犯人グループは最低でも10人。事件番号から19件の失踪、遺体発見はそのうち2件、被害者21名は全て女性であることがわかった。「次に狙われるのは、その事件の犯人かも」欧陽(アウヨン)がそう言うと、「現場で次の殺害予告か、自分の名前を明かして??」と方(フォン)。その言葉で欧陽(アウヨン)は地面に書かれた事件番号を見渡し、「全員、下がれ!」と命じると、警察の大型車両の屋根に上る。それぞれの事件番号は巧みにレイアウトされており、高い場所から全体を確認した欧陽(アウヨン)はぎくりとした。そこには巨大な「神探」という文字が読み取れた。

 ガード下の李(レイ)が家庭用のビデオカメラで娘が小さかった頃の映像を再生し、感慨深く眺めている。それは李(レイ)が「怪物と戦う者は自らが怪物にならないよう注意すべきだ」と娘を膝に乗せ、熱心に教えているところを撮影したものだ。その娘は記者会見場で騒動を起こして射たれ、病院送りになった父親を忌避して、今はどこでどうしているのかもわからない。再生しているとビデオテープがからまって、映像が停まった。テープを取り出して、修理をしていると、フード付きの合羽をかぶり、全身びしょぬれの男が助けを求め、李(レイ)の元へ駈け込んで来た。「誰かがあんたの名前を騙って、犯人を殺している! 次は俺の番だ、守ってほしい!」男は必死で懇願する。「誰だ?」李(レイ)は静かに尋ねる。「調べておいて、忘れたのか? 俺は夜のタクシー運転手だよ。雨が降ると急に殺意がわいて、連続21人、女を拉致して殺した」 男は李(レイ)が橋脚に書いた事件の記録の中から自分の名前を指し、「ほら、楼(ラウ)だよ」と自分が犯人であることを告白。「助けてくれ!!」と懇願するが、李(レイ)は「クズは助けない」と返され、「クズにも母親はいるんだよ!!」 それを聞き、李(レイ)は仕方なく愛用の自転車を出すと、楼(ラウ)を後ろに乗せ、走り出す。

 李(レイ)が二人乗りで、後ろの楼(ラウ)と会話しながら自転車を漕ぐ。次のシーンでは、李(レイ)が独りで喋っている。後ろには誰もいない。その次はまた二人乗りだ。彼には「そこに存在しない相手」が見えており、相手の人格と李本人が交互に入れ替わって、会話しているらしい。彼は「神の捜査官」なのか、それとも、精神に異常を来した元刑事なのか・・・。




 この先、少しだけネタバレ。未見の方、先入観なしに本作を視聴されたい方はご注意ください。








 本作が面白いのは、「真犯人は誰か?」新情報がどんどん出て来るのに、なかなか核心をつかませないことだ。怪しい人物が次々に登場し、新たな人物に疑惑の焦点が移ったかと思うと、また、先ほどの人物が怪しく思える展開に戻って来る。これが実に巧妙だ。

(1)李(レイ)が最初から「怪しい」と指摘した刑事・欧陽(アウヨン)か?
(2)精神に異常を来した李が自分の推理の正しさを証明するため犯行に及んだのか?
(3)「神探」の信奉者グループが過去の事件の犯人を同じ手口で殺害しているのか?


 傑作なのは、神探=李(レイ)の独り芝居があまりに見事なため、「李(レイ)は本当に精神疾患のため、妄想にとりつかれている」ように見えるし、実際、怪しい。彼は「悪魔の警察官事件」で欧陽(アウヨン)に射たれ、その後、警察を免職。精神病院に5年間入院する。妻は鬱病を発症して自殺し、娘は父親を嫌って失踪。李(レイ)自身はホームレスとなって、ガード下で暮らしていた。真摯に正義を追及した結果、何もかも失った李(レイ)が自分の捜査が正しかったことを証明するため、自ら容疑者を殺して歩いているのではないか。もしくは、彼の別人格が無意識のうちにそれを実行しているのかも知れない。元刑事の彼なら「事件番号」も事件の詳細にも通じており、何より動機もある。犯行現場に到着するのが、常に警察より速いのも自分が犯人なら当然だろう。

 こうして、観客(視聴者)をさんざんにふり回しておいて、真相は意外なところに着地する。もし、本作を一度観ただけで事件の全貌を理解できたとすれば、それはよほど映像読解力と推理力が高いのだろう。私など二度目でやっと全てに合点が行った。真犯人がわかったあとで観ると、本編中のタネ明かしが神速すぎて理解が追いつかなかったことを痛感する。描写速度には少々問題があるにしても「物語の緻密さ」がわかり、それがまた面白い。特に、李を演じるラウ・チンワンの独り芝居シーン。彼にしか見えない人物との会話や、指鉄砲での銃撃戦など「イカれぶり」があまりに愉快で癖になる。と同時に、事件解決にかける熱く真摯な思い、「一度警察官になった者は、生涯、警警官だ。担当した事件は必ず解決する!」との台詞には感動した。

 ちなみに、法執行機関に所属する黒幕が「犯罪被害者の遺族を組織して、戦闘訓練を施し、犯人への報復計画を実行させる」という流れはドラマ『大病院占拠』(2023年)と同じだ。『大病院占拠』の脚本は『神探大戦』(2022年)の影響を受けているような気がする。

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 「神探=神の捜査官」を自認する香港警察の元刑事・李(演:ラウ・チンワン)と、ひょんなことから彼とバディを組むことになった妊娠中の女性刑事・陳(演:シャーリーン・チョイ)。原題にある「Detective 」は刑事、「 Sleuths」は探偵を指している。陳をバディに選んだのは偶然だが、李はもともと「捜査の切り口が自分と似ている」と刑事としての陳の有能さを認めていた。


#しんたんたいせん ラウチンワン
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