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2026年08月13日08:18

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首藤若菜『なぜ賃金は上がらないのか』(講談社現代新書)を読みました

首藤若菜『なぜ賃金は上がらないのか』(講談社現代新書)を読みました。
著者は、立教大学経済学部教授であり、労使関係を専門とする研究者だそうです。本書はタイトル通りのリサーチ・クエスチョンに対して回答を試みています。
一般的な3つの理由、第1に、企業が値上げで儲かった分を労働者に還元せず、「内部留保」として貯めこんでいるという企業悪玉論、第2に、日本人の働き方は効率が悪く、「労働生産性」が低いとする労働生産性説、第3に、各企業の労働組合の交渉力が弱く、企業に対抗できていないとする組合弱体化説、本書ではこの3点について否定的な見方を示しています。
まず、時間当たり賃金と月額賃金が乖離していて、短時間労働者の割合の増加、すなわち、非正規雇用の増加が実質賃金の停滞をもたらした要因として上げています。ただ、私の見方からすれば、これは内部留保の増大と軌を一にする企業悪玉説と考えるべきですが、本書では雇用者サイドからパートのシフトを減らすといった要望があることなどを理由として、私とは違う見方を示しています。やや疑問です。
次に、物流、特にトラック輸送の業界を引き合いに出し、人手不足でありながら過当競争により賃金を引き上げられない現状を示しています。加えて、私が途上国で見てきたのと同じ現象が日本でも起こっているようで、賃金すなわち労働コストが安いために労働集約的な生産を志向し、設備投資して労働装備率を上げないために労働生産性が停滞する、という悲しい現状も本書は指摘しています。ハッキリと悪循環を生じていると考えるべきです。
その上で、デフレ下で価格が動かないために賃金が雇用も含めた調整要因となってしまい、価格転嫁ができないことから賃上げが進まなかった現状、というか、過去形の2022年くらいまでの賃金動向を指摘しています。まさに、デフレの弊害そのものと考えるべきです。
本書ではまったく指摘していませんが、私なんかも授業で教えているように、ボーナス制度が広く実施されている日本では賃金の柔軟性が高い、という従来からの特徴を踏まえています。本書では明示していませんが、「奥田の一喝」として有名な2002年のベアゼロ、量的な雇用を守ると称して、質的な賃金引き上げを否定した経営サイドの動きも一因として指摘しています。ただ、日本的な春闘はいわば「みんなで賃上げすれば怖くない」という囚人のジレンマを回避するには悪くないシステムだという点も強調しています。
その上で、賃上げを起点とした経済の好循環をもたらす方向性を模索しています。これは、まさに、政府や日銀が目指している賃金が適正に価格に転嫁され、物価と賃金の好循環を目指す、ということです。政府・日銀の「好循環」は企業業績からトリクルダウンする、というのもひとつの視点でしたが、トリクルダウンは完全に破綻していますので、残るのは、デフレを脱却し、賃金と物価の好循環をもたらす、ということであり、この方向は、私も大いに賛成です。その意味で、賃金起点か物価起点か、という違いはあるとはいえ、本書は政府や日銀とほぼ同じ方向性を示していると考えるべきです。
最後に、たぶん、ケーススタディの結果だとは思いますが、トラック輸送業界の例が多くて、その代表性に少し疑問を持ちましたが、私の方の誤解かもしれません。

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