ノルウェー2Lレーベルの新譜より、ミラー・カノン(鏡のカノン)と題するピアノ曲を集めたアルバム。
http://www.hmv.co.jp/product/detail/2723471
鏡のカノン (Mirror Canon)−ウィーン楽派と新ウィーン楽派のピアノ音楽
ベートーヴェン:ピアノソナタ第32番 ハ短調
シェーンベルク:6つの小さなピアノ曲
ヴェーベルン:ヴァイオリンとピアノのための4つの小品
アルバン・ベルク:ピアノソナタ
Tor Espen Aspaas トゥール・エスペン・アスポース (Pf)
Kolbjorn Holthe コールビョルン・ホルテ (Vn)
ウィーン楽派とは新ウィーン楽派と対照するために用いられる言葉で、、具体的にはハイドン、モーツァルト、ベートーヴェンなどを指す。新ウィーン楽派とはシェーンベルク、ウェーベルン、アルバン・ベルク、ツェムリンスキーなどを指すのだが、このアルバムではベートーヴェンの最後のピアノソナタ、傑作中の傑作である32番ソナタからインスパイアされたとされているシェーンベルクらの作品を対比させるように並べている。
「音楽とは何か、音楽に何ができるか」とは、ピアノを弾いているアスポース達のメッセージなのだが、なかなかに謎めいたアルバムだ。32番とその他の無調性の曲が似ているかというと、即座には類似点は見いだせない。しかしよくよく聴いてみると32番のリチェルカーレに酷似した対位法進行と、シェーンベルクの対位法的な輪唱と循環和声(と言えるかどうか・・?)・・・これが鏡状カノンらしいのだが・・・がもたらす深い襞と揺らぎが精神的な不安、葛藤、諦念を表現しているかに聞こえるのだ。
このアスポースと言うノルウェー人は驚くほどピアノが巧い。32番ソナタは名曲中の名曲で、かたや難曲中の難曲でもあるのだが、実に華麗に軽く、しかも瞑想的・求道的に弾き抜けて行く。シェーンベルクが12音技法へ舵を取る先駆けとなった6つの小さなピアノ曲の方も実に滑らかで違和感のない演奏で、無調性とは思われない構築美を見せる。
この二つの作品はこのアルバムの主要テーマなのであるが、かつては小山実稚恵やアンスネスがリサイタル・プログラムに好んで使っていた。小山実稚恵はともかくとしてアンスネスも同じような類似性、いや音楽の背景に横たわる精神における連続性を見いだしていたということか。この二人、たまたま同じノルウェー人でもあるが・・。
(録音評)
2Lレーベル、2L49SACD、SACDハイブリッド。録音は2007年9月、オスロのソフィエンベルグ教会、プロデュースはヴォルフガング・プラッゲ、録音担当はハンス・ペーテル・ロランジュとある。
ジャケットに記載があるが、このCDはDXD録音(DSDの8倍サンプリング)で、ミキシングからマスタリングまで全て1bitDSDの下で行われている。音質に関して、最初は乾燥した雰囲気に感じられたのだが、何度か聴いているうちに極めて自然でアナログ的な風合いを持った録音であることが分かってきた。このSACDにはスタインウェイの発音機構が丸々録られているのである。ピアノ録音としては相当に高い水準を達成していると言える。但し、音色に関しては一切の演出は含まれず「録りっ放し」の風情なので録音作品としての「完成度」や「音楽性」を求めるには不向きと言える。
CDレイヤーは少々硬質な音色傾向となるがそれ以外に決定的な差異はないといえる。
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