伊藤彰信『新自由主義と対決する新しい労働運動』(旬報社)を読みました。
著者は、労働組合活動家であり、全日本港湾労働組合(全港湾)の中央本部書記局に入局し、書記次長、書記長、中央執行委員長を歴任しています。また、日中労働者交流協会副会長や会長もご経験だそうです。
本書は2部構成であり、第1部で港湾における規制緩和との戦いを考えた後、第2部で新しい労働運動に関する議論を展開しています。
まず、新自由主義=ネオリベについては、本書第1部では、主として規制緩和の観点から考えていますが、もっと幅広く経済や雇用、ひいては労働運動を大きく破壊してきたのは本書でも跡づけられています。
本書を離れても、1980年代の新自由主義が米国ではレーガン大統領、英国ではサッチャー首相、日本でも中曽根総理により押し進められてきたころに労働運動に破壊的な悪影響を及ぼしています。米国では1万人を超える航空管制官の大量解雇、英国では産業合理化・国有炭鉱の閉鎖方針に反対した炭鉱ストの弾圧、そして、日本でも国鉄の分割民営化に伴う国労の解体などなどが上げられます。
私が注目したのは、本書ではそういった1980年代の新自由主義的な労働運動への弾圧からさかのぼって、日本的な春闘への影響を論じている点です。すなわち、「春闘は3度死んだ」として、第1に、1975年春闘で当時の日経連の主張に沿った形で、賃上げが経済成長の範囲内に抑え込まれたこと、第2に、2002年春闘で当時の経団連の奥田会長の一喝のもとにベアゼロとなったこと、第3に、2014年の当時の安倍総理の主導による官製春闘です。
私が大学を卒業したのが1981年ですから、第1の点については実際の経験がありませんが、第2と第3の点については、すでに国家公務員として働いていましたので記憶に残っています。第2の点はいわゆる「奥田の一喝」とすら呼ばれ、賃金アップよりも雇用確保を重視するという形で、つい最近まで続く日本の賃金停滞を招いています。第3の点についても、その当時、私は役所を離れて国立の研究機関、それも、労働関係の研究機関で研究者をしており、外部との懇談会だか、何だかで、官製春闘を批判したところ、研究所の次長から注意、というか、叱責を受けた記憶があります。
もうひとつ、本書で注目すべきは最低賃金に関する考察です。ノーベル経済学賞を受賞したカード教授による最低賃金に関する学術論文も引きつつ、最低賃金の重要性が強調されています。
新自由主義は格差や貧困を拡大し、それに伴う差別も助長することから、労働運動に対するもっとも大きな障害のひとつです。本書で十分に分析がなされ、対応策が提示されたとは思いませんが、重要な論点が示された、と私は考えています。
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