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2026年09月17日04:43

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映画「ルックバック」

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全く期待していなかったといえば嘘になる。ただ、アニメ映画『ルックバック』(2024年、58分)を実写映画化すると知った時、アニメを越えることはできないだろうと思った。アニメ版は大傑作である。一時間に満たない短い尺の中に、無駄なカット、無駄なシーンが1秒もない。何もかも考え抜かれた完璧な作品だ。これを実写化するのは、そもそも無謀な挑戦だといわざるを得ない。実写版が対抗するには、アニメ版を完全になぞる以外にないと思う。

 是枝裕和監督が実写版を撮ることも不安要素だった。直前に観た映画『箱の中のひつじ』(2026年)があまり面白くなかったからだ。それでも実際に実写版を観て、思ったほど悪くないと感じた。とても、頑張っていた。もう一度いう。とてもとても、頑張っていた。これはこれで良い。アニメ版を観たことがない方ならきっと感動したに違いない。原作漫画が良いだけに、よほどのことがない限り大きく失敗するわけがない。ただし、私はアニメ版を観てしまっている。この差は埋められないほど大きい。実写版の何が気になるといって、尺を無駄に長くしてしまったことだ。本編99分で、40分も長い。長くなった尺を使って実写版は学校生活や家庭、出版社や制作スタジオの様子、それに豊かな自然を中心に映像を追加している。これらがいかに味わい深く、美しい描写だったとしても、アニメ版ファンからすれば「不純物」でしかない。尺を伸ばして使うべきは、藤野と京本の描写だけだ。ふたりの絆や創作の背景以外のものを入れれば入れるほど「藤野と京本の物語」は薄まってしまう。

 実写版で藤野と京本を演じた女優陣はとても良かった。小学生中学生の子ども時代を演じた七瀬ふうり(藤野)、岡田六花(京本)は見事だったと思う。子ども時代の彼らから、大人になった出口夏希(藤野)と蒔田彩珠(京本)へのスイッチがあまりにスムーズだったことも驚きだった。特に、子ども時代のふたりはアニメ版の藤野と京本の雰囲気に近く、とりわけ、岡田六花の京本は素晴らしくて、嬉しくなった。ただ、アニメ版の藤野(河合優美)と京本(吉田美月喜)はさらにそのはるか上を行く。河合優美の藤野には「精神的な強さと繊細さ」が、吉田美月喜の京本には「純朴さを感じさせる訥々とした秋田訛り」になんともいえない深い味わいがある。これに比べてしまうと出口夏希の藤野は優し過ぎ、蒔田彩珠の京本には朴訥さが足りない上に、出口と蒔田ふたりのキャラが似過ぎていてコントラストが弱く感じてしまう。出口が華奢で、蒔田が案外がっしりしていることも気になった。ふたりの配役を反対にした方が良かったのではないかと思った。

 是枝監督に原作漫画愛がないとは思わないが、アニメ版への理解と愛が足りなかったのは間違いないと思う。彼が志向したのが「アニメ版の実写映画化ではなく、原作漫画の実写映画化だった」としても、アニメ版の表現を参考にするか、勇気をもってトレースすべきだったろう。いくつかのシーンでは完全にアニメ版に負けている。完膚なきまでに叩きのめされていると言っても良い。

1.卒業証書を届けに京本の家に行き、彼女が自分のファンだったと知った帰り道
2.漫画賞準入選を果たしたあと、京本と初めて出かけた街で走る京本と藤野
3.京本の死を報らされ、ショックを受ける藤野
4.京本を襲撃する通り魔
5.亡くなった京本の部屋の前で思い出に浸る藤野


 いずれのシーンもアニメ版に比べると実写版は弱い。凡庸な映像とさえ見えてしまう。アニメのもつ「無限の表現力の凄さ」を痛感せざるを得ない。アニメ版では藤野の四コマ漫画をアニメで見せているが、これが実に効果的だった。四コマ漫画の物語世界をより深く鮮やかに伝えることに成功している。実写版こそ、この手法が劇的に生きただろうに、なぜ、同じ手法を使わないのか疑問だったが、クライマックスにアニメーションという隠し玉を用意しているからだった。劇中、藤野に「私、いつか自分の漫画をアニメにしたいんだよね」とわざわざ語らせ、布石としているのものの、これは唐突に過ぎる。原作の藤野と京本が打ち込んだのはあくまでも漫画であって、アニメではないからだ。アニメ版との違いを出すため考えに考えた展開だろうが、私には「勇み足」としか映らなかった。

 実写版で気になったのは、「京本の死の責任は彼女を部屋から出した自分にある」と、藤野が悔恨し、むせび泣くシーンがすっぽり抜け落ちている点だ。京本の家で卒業式の日に描いた四コマ漫画を見つけ、これを描かなければ京本は出てこなかった、あのまま部屋にいれば京本が美大で通り魔に襲われることがなかったと悔やみ、うなだれ、とめどなく流れる涙をぬぐうこともせず泣く藤野。京本の死の衝撃に打ちのめされた彼女の喪失感と深い哀しみが迫って来る。京本の死に責任を感じ、悔やむからこそ、「あの日、藤野と会わなかった未来を生きる京本の姿」に救いが感じられたのだ。是枝監督には是枝監督なりの思いがあり、実写版として結実していることは尊重する。尺がずっと長いにも関わらず実写版に物足りなさを感じるのは、ただ私がアニメ版『ルックバック』をたまらなく好きだというだけに過ぎない。

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◆関連日記 アニメ映画『ルックバック』
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