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2026年09月05日05:38

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映画「ロングウォーク」

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話題になっていた映画『ロングウォーク』(2025年、原題:The Long Walk)がAmazonプライムに入っていたので、仕事の合間に視聴した。スティーブン・キングが学生時代に書いた小説が原作だそうだが、未読。「競技に参加して生き残れるのは、勝者ただひとり」という究極のデス・ゲーム「ロングウォーク」を背景に、若者達のドラマを描くところがキングらしい独創的な発想だと感心した。 

 本作を観ると、同じくスティーブン・キング原作の映画『バトルランナー』(1987年、原題:The Running Man)を思い出す。『バトルランナー』では、重犯罪者がランナーとして強制的に「ランニング・マン」という死のゲームに参加させられる。ハンター達と戦って、その追跡から逃げ切ることができれば自由と莫大な賞金が手に入る「ランニング・マン」とロングウォークが決定的に違うのは「誰とも戦わない」ということだ。ロングウォークの参加者が戦うのは自分自身であって、他の参加者とは戦わないどころか、いつしかお互いに励まし合い、助け合って歩き続ける仲間となる。もし、彼らが他の場所で出逢っていたら親友になれたのか、それともロングウォークという極限の状況下だったからこそ強い絆で結ばれたのか、それはわからない。確実なのは、50人の参加者のうち、生き残れるのはたった1人ということだけ。誰もが「死」と向き合う苛酷なレースの中で、いかに生き、いつ、どんな最期を迎えるかは自分自身で決めなければならない。


【物語】 近未来のアメリカ合衆国。長く激しい内戦を経て、国家は完全に分断された。人々は貧困と圧政に苦しみ、将来への希望を失う中、政府は人々に夢を与える「ロングウォーク」というシンプルな競技を毎年開催していた。選抜された若者達50人が参加し、最後まで歩き続けたひとりには莫大な賞金と「なんでもひとつだけ夢をかなえる」という特典が与えられるのだった。ただし、ひとたび競技がスタートすれば最後、途中で棄権することはできない。しかも、競技者にはシンプルだが厳しいルールが課せられていた。

(1)時速4.8kmを維持すること(睡眠もトイレ休憩も認められない)
(2)速度を下回れば警告を受け、3回目までに回復しなければならない
(3)3回目の警告を受けても速度を回復できなければ射殺される
(4)警告を受けた後、次の警告を1時間受けなければリセットされる
(5)指定された道を外れたら射殺される
(6)最後のひとりになるまで歩き続けなければならない

 レイ・ギャラティー(クーパー・ホフマン)のもとに「ロングウォーク」への招待状が届いた。参加するかどうかは本人の自由意志だが、レイの意志は「参加」と決まっていた。彼は母がどんなに反対してもロングウォーク参加をあきらめない。最後まで歩き続ければ、莫大な賞金と「なんでもひとつだけ願いがかなえられる」からだった。母は競技の参加者の集合場所まで車で送る途中、なんとかレイに参加を思いとどまらせようと説得を続けたが、レイは聞く耳を持たない。「もう、権利を放棄する期限は過ぎている。今さら、引き返せないんだ」彼は母を諭すように静かに言う。

 集合場所まで母に送ってもらったレイは「必ず、生きて帰るよ」と約束し、彼はスタート位置に向かった。すでに大勢の若者の姿が見えたが、チェックポイントでレイは黒人の青年と出逢い、挨拶を交わした。「ぼくはレイ・ギャラティー、よろしく」 レイが手を差し出すと黒人青年(デヴィッド・ジョンソン)は握手しながら、「ピーター・マクヴリーズ。よろしく!」と笑顔を返した。彼は顔に大きな傷痕があった。スタート地点で、レイとマクヴリーズは他の参加者たちに挨拶するが、彼らの態度は大きくふたつに分かれていた。同じ競技に参加し、運命を共にする仲間と考えるタイプと、ひとりでも多くの参加者が死ねば「自分が助かる確率が上がる」と敵視するタイプだ。レイとマクヴリーズのふたりは、アジア系で陽気なハンク・オルソン(ベン・ウォン)、控えめだが剛健なアート・ベイカー(トゥット・ニュオット)と意気投合し、「まるで、三銃士のようだな」「四人いるじゃないか」と笑い合った。

 ロングウォークを冷徹に運営するのは「少佐」と呼ばれる男(マーク・ハミル)だった。彼は戦争によって分断され、貧困と混乱に苦しむ国民達に夢を与えることで不平不満を解消し、勤労意欲を取り戻す道であると信じていた。ロングウォークはその唯一の手段だ。少佐の訓示によって競技はスタートし、50人の参加者は「最後まで歩き続け、勝つのは自分だ」と信じて歩きはじめるのだったが・・・・。






 実に、興味深い物語だった。原作がスティーブン・キングが学生の頃に書いた初めての長編小説ということで、やはり、発想の若々しさと大胆な省略に思い切りの良さを感じる。「長く激しい内乱によって分断され、貧困と混乱に陥った未来国家」の実像を一切描かず、「死のレース、ロングウォーク」の参加者とそれを執行する少佐と兵士達の姿によって「それ」を伝える物語構造を潔いと見るか、浅いと見るかによって印象は真逆のものになるだろう。たったひとりの勝者以外、49人の参加者は死が避けられない。文字通り、「命をかけて莫大な賞金と、なんでも叶えてもらえる願い」を獲得するため、若者達はなぜ、ロングウォークに参加するのか? 考えられるのは、彼らが今のまま生きることに絶望しており、一か八か、大逆転を狙ったということだ。莫大な賞金と夢の実現が果たせなければ、死んでも構わない。生きる甲斐がない、そう彼らに思わせているのが分断された国家なのだとわかる。

 参加者の言動や彼らが交わす会話によって背景が垣間見える参加者と違い、少佐や兵士達がどんな人物かはほぼ描かない。兵士にいたっては顔すらはっきりとわからない。彼らはただ「参加者を監視し、射殺する」ためだけに存在する不気味な存在である。ルールを破った参加者を粛々と射殺する兵士の中に若い女性が混じっているのは男女平等で、とても現代的だ。ルールを破った若者の頭に銃口をつきつけ、躊躇いなくトリガーをひく。淡々と任務をこなす彼女らの姿が恐怖と不快感を増幅する。ひとり、またひとりと無慈悲に射殺され、亡骸は路上に放置されたまま、何事もなかったかのようにロングウォークは続く。死のレースに身を投じた参加者の願いにスポットを当てることで「人間の性(さが)」を鮮明に浮き上がらせているのは見事だ。

 ちなみに、映画のクライマックスは原作とは正反対に変更されているそうだ。それを知ったスティーブン・キングは「物語のテーマがより鮮明になった」と評価したと聞く。原作は未読だが、映画のラストには感動した。
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