高久玲音『医療崩壊の経済学』(慶應義塾大学出版会)を読みました。
著者は、一橋大学経済学部教授であり、ご専門は医療経済学だと思います。本書は完全に学術書であり、一般読者にはハードルが高い気もしますが、2020年のコロナのパンデミック前夜における段階から、コロナ禍の時期の医療提供体制ほかについて論じています。
まず、コロナのパンデミック前ですら日本の医療提供体制には綻びが見え始めており、コロナ禍に入っても医療提供体制が短期には変えられないので、国民の行動変化・変容で乗り切るしかない、という意見が医療関係者の間で支配的であった、と指摘されています。
要因のひとつには、自由開業制、フリーアクセス、出来高払いという医療提供体制が上げられています。ただ、本書でも指摘されているように、医療保険については国民皆保険で、診療費や医薬品の単価も政府の公定という医療体制は、それなりに機能し得る部分もあります。私も医療サービス市場の情報の非対称性から、ある意味で、当然と考えています。
ただ、コロナ禍の時期に県立病院へのガバナンスが不十分であったとか、中小規模病院での幽霊病床の存在などの本書の分析については、専門外の私には実感できないところでした。本書では、コロナ以外にも救急医療の再編、患者の自己負担のあり方などの問題を取り上げ、さまざまなデータを活用して、診療報酬、医療保険制度、医療提供体制の3方向から我が国医療制度の現状を分析しています。
繰返しになりますが、医療経済学の大雑把な基本的問題は、教育と同じで情報の非対称性ということになります。すなわち、医療や教育を提供する医師や教員の方が、提供される患者や学生よりも圧倒的に情報を持っているわけです。ですから、市場の失敗が生じて何らかの政府による規制が必要となります。まあ、マイクロ経済学の分野ですし、私の専門外ですが、いろいろと必要あって本書も読んでみました。十分に理解できた自信はありませんが、それなりに参考になったと受け止めています。
最後に、私はこういった学術書はそれなりの読み方をしますが、参考文献リストの抜けがいくつか散見されました。大沢(2025)とか、吉川(2022)がなかった気がします。
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