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2026年03月15日09:07

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斧田小夜『では人類、ごきげんよう』(東京創元社)を読みました。

斧田小夜『では人類、ごきげんよう』(東京創元社)を読みました。
著者は、東京大学大学院情報理工学系研究科修了で、エンジニアとして培った広い技術的背景をもとに創作を行い、本書に収録されている「飲鴆止渇」で2019年に第10回創元SF短編賞優秀賞を受賞しています。
本書は短編集であり、6話のSFファンタジーを収録しています。短編すべてではないのですが、大雑把に、麒麟や鴆といった神話や伝説に登場する架空の生物をモチーフに神代から現代、そして未来を横断する幻想的なSFないしファンタジー作品が本書には収録されています。
短編ごとのあらすじは、まず、「麒麟の一生」では、宇宙を漂っていた光のような存在が地球の重力に捕らえられ、やがて麒麟という姿を得て漢の武帝に瑞獣として迎えられます。しかし、酒の味を覚えたため、人間の世界の欲望や政治的野心と距離を置いて、歴史の傍らで飄々と生き続けます。
「飲鴆止渇」では、民主化運動が最高潮に達した揺碧国の首都に伝説の巨鳥である鴆が突如として現れ、広場に集まった人々や鎮圧に出動した軍隊はその毒によって壊滅的な被害を受け、国家の運命は大きく転換します。10年ほど後、揺碧国は体制が変わり急速な経済的発展を遂げます。明らかに天安門事件を下敷きにしています。
「ほいち」は「耳なし芳一」をモチーフに、平家伝説で知られる赤間神社の駐車場に放置された自動運転EV車であるほいちの視点から、周囲で起こる不可解な出来事をセンサーと記録装置を通じて観測しています。
「デュ先生なら右心房にいる」では、地球のロバを品種改良した宇宙ロバの驢䍺がデュ先生に診てもらうのですが、行方不明になります。驢䍺をはじめとして、かつて神話として語られてきた生物や何らかの存在が、未知の生命体や宇宙的現象として再解釈されており、宇宙の探査者たちはそれらの存在に遭遇しながら、人間の理解の枠組みを越える知性や生態と向き合うことになります。
「海闊天空」では、海底資源採掘のための海中都市である螺京に生まれた高水月は、摂食障害のためチベット高原の精密機械再生工場で働き始めますが、上司の不正に気づき入院させられそうになりますが、それをきっかけに遊牧民の青年であるカンツォと知り合います。冒頭に伝説の翼獣である貔貅が登場します。高水月とカンツォの息子である志海が土中から貔貅の像を掘り出します。
最後の表題作「では人類、ごきげんよう」では、月面が舞台となり、全天候型物流拠点であるビアンキー二・センターで貨物が爆発し、流出した液体により施設が損壊し浸水する事故が起こり、月面開発管理局から月面居住者に退避勧告が出されるところから始まり、太陽系に突如現れたアンノウンの正体を探るプロジェクトが始動し、その進捗をAIが報告する、というものです。
はい、本書には、私のような感覚も頭の回転も鈍い読者には判りにくい短編がいっぱいありました。コミカルなのは「ほいち」だと思うのですが、「飲鴆止渇」のスケールの大きさは評価されるべきです。ただ、「海闊天空」の世界観は壮大であり、私はこの短編がイチ推しです。でも、「麒麟の一生」の麒麟のような人生を送りたい気もします。まあ、もう人生も終盤に差しかかっているのですが、酒に酔って世間から距離を置く、という人生です。
いずれにせよ、本書はSFの好きな読者にはとってもオススメです。

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