郡司大志『金融政策の効果測定』(慶應義塾大学出版会)を読みました。
著者は、大東文化大学経済学部現代経済学科教授だそうです。本書は、タイトル通りに、金融政策の効果を測定していますが、当然ながら主眼は四半世紀に渡った非伝統的な金融緩和政策にあります。すなわち、1999年2月のゼロ金利から始まって、2024年3月の量的・質的金融緩和の解除と金融政策の「正常化」までの期間の金融政策の効果の測定にあります。そして、もともとの著者の姿勢がどうなのかは私は存じませんが、軽く想像されるように、否定的な側面が全面に押し出されている印象があります。
手法としてははやりの因果推論を用いています。というのは、しばしば金融政策分析に用いられるニュー・ケイジアン・モデルには明示的な銀行部門がないから、という理由です。ただ、冒頭第1章で、金融政策や金融政策の効果に関する定義では「はっきりしない」と結論していて、金融論は専門外の私なりにも、本書で金融政策の効果として測定している代理変数に疑問あるものもないわけではありません。例えば、第7章でETF買入れ政策で株価が押し上げられていたという結論ですが、第8章でROA/ROEを企業のパフォーマンス指標として用いると逆の結果が得られます。要するに、株価はROA/ROEを反映していない、という矛盾を不問にした分析がどこまで整合性ある結果を引き出せているかは疑問です。
また、第5章のインフレーションターゲティング政策も、効果を測定する指標として企業パフォーマンスを取るのが適当かどうかも疑問です。日銀法は冒頭で、日銀は物価安定を通じて国民経済の健全な発展に貢献するという役割を負うと規定していますが、ほとんどの分析で企業が金融政策効果測定の対象になっている印象があり、国民生活への影響は無視されている、ないし、いわゆるトリックルダウン効果が前提されていると考えられます。せいぜいが、第6章の個人の借入れ意欲に対する効果くらいで、消費への効果分析をもっと前面に打ち出してもいいように思うエコノミストは私くらいで、多くのエコノミストは企業への効果に目が行くのは悲しいことかもしれません。
最終第10章のテーマである金融政策に何を求めるのかの視点が、少し私とはズレている気がしました。最後に、私は黒田総裁当時の日銀の異次元緩和は失敗だったと考えています。大きな理由は物価目標を達成できなかったからです。
ログインしてコメントを確認・投稿する