2010年秋のDGのユーロ・リリース、ヒラリー・ハーンのジェニファー・ヒグドンとチャイのVnコン。ヒグドンのVnコンはハーンに献呈された世界初録音である。
http://www.hmv.co.jp/product/detail/3909301
Higdon & Tchaikovsky: Violin Concertos
ヒグドン:ヴァイオリン協奏曲 (2008)
Higdon: Violin Concerto
ヒグドン:ヴァイオリン協奏曲 (2008)
:Dedicated to Hilary Hahn(World Premiere Recording)
Tchaikovsky: Violin Concerto in D major, Op.35
チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲ニ長調 op.35
Hilary Hahn (violin) ヒラリー・ハーン(ヴァイオリン)
Royal Liverpool Philharmonic Orchestra ロイヤル・リヴァプール・フィルハーモニー管弦楽団
Vasily Petrenko(Cond) ワシリー・ペトレンコ(指揮)
まず針を降ろした直後、非常に印象的なのはヒグドンの作品の秀逸さだ。作曲年代や彼女の背景を考えれば純粋な現代音楽に分類するのが適切なのであろうが、これはそうではなくてとても親しみやすくて、でもドライ、そしてアヴァンギャルドな雰囲気が充満するセンスの良い曲だと言うこと。Wikiのよればヒグドンはブルックリンに生まれ、その後アトランタ、そしてテネシーと移り住んだようである。ブルックリンは大都会の中の大都会であるがその後の彼女は割と田舎でのんびりとした場所で過ごしたようだ。その後、東海岸、生まれ故郷に程近いペンシルベニアに戻りカーティス音楽院にて演奏/作曲を修めている。尚、カーティス音楽院はハーンの母校でもあって、ヒグドンはハーンにとっては名声を遂げた大先輩ということになる。
ヒグドンのこの曲の名称はヴァイオリン協奏曲であり、基本的にこういったコンチェルトは交響曲と同様にテーマ性を強調しない絶対音楽との分類が為される。そういった観点ではタイトルと曲想を相関させる表題音楽とは一線を画するはずだ。だが、この曲の場合には、例えばガーシュウィンのコンチェルト・イン・Fのように脳裏に対して明らかな情景描写、或いはイメージの映写を仕掛けてくる風情があって、なんとも不思議で新しい現代音楽である。そして、ハーンはこの曲の作曲背景を知ってか知らずか、クールで理知的な解釈と演奏を展開している。この曲にはなかなかに嵌った。
さて、このアルバムのもう一つの目玉がチャイVnコンで、今更のチャイなのか? という気分なのだ。だが色々調べてみたが正規に録音されたCDはこれが最初となる。ハーンほどのソリストならばとっくにリリース済みであろう、というのは先入観だったようだ。これは前出の神尾真由子の場合と非常に似ている。
結論的には、DGの看板娘が敢えてこの時期にぶつけてくるチャイVnコンだけのことはある、という内容で、さすがと言わざるを得ない。そして、特に神尾の同曲をずっと聴き続けた後にこれを聴いてしまうと頭を抱えてしまうほど聴覚および音楽的な解釈神経が混乱してしまう。
全編が細身で繊細、そして可憐で華奢なのであるが、相当に勁(つよ)い旋律運びなのだ。ふくよかさは余り感じられない。だが、細密な線を幾重にも重ねつつチャイVnコンの全貌を描き上げていく様は健気であり、言ってみれば女性的な演奏である。つまり、この演奏は神尾のチャイコンとは対極にあると断言して良い。もちろん、ハーンの演奏は神尾とは方向性が異なるので技巧の比較は単純にはできないが、これはほぼ互角であろうと思われ、しかし、神尾のチャイコンが「動」なのに対してハーンのチャイコンは「静」というだけのことで、どちらも「あり」の演奏だ。ハーンのこういった超優等生的な演奏には過去に何度か遭遇したし、また何枚かの録音も持っている。しかし、ハーンならではの出自の綺麗さ、ピュアさというものが滲み出ていて唸ってしまうのであった。
ちょっと残念なのが指揮者とオケの基本性能である。ハーンにここまで精緻で典雅なソロを弾かせるとするならば、もうちょっと考えてあげた方が良かったのではないだろうか。下手したら日本人指揮者/在京オケの方が巧かったりする・・。
(録音評)
DG、4778777、通常CD。録音はちょっと古くて2008年11月(チャイ)、2009年5月(ヒグドン)、場所はリヴァプール。録音担当はかつてソニーで辣腕を振るっていた鬼才 Andreas K. Mayer が率いるマスタリング専門会社である。音質は概して良いのだが、独特のブリリアンスと超絶的なHi-Fi感と空間感が漂うシャキシャキなサウンドで、ちょっと前に流行った超高解像度路線と言えようか。オーディオ愛好家にとっては堪らない一枚かも知れない。
しかし、ハーンの録音はDGの純正チームが担って来た従来の盤もそれほど良好とは言えずちょっと残念な感じだが、これもまた今世紀のものとして路線的には少々違うと思われる音質だ。ハーンのキュートな曲想に合わせてこういった細い録音も有りといえば有りなのであろうが。
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