キーシンのショパン5枚ボックスの最後は2004年のヴェルビエ音楽祭のライブ収録から。6年前の演奏で、先鋭かつ重厚でただならぬ才能が迸っている演奏だ。これは既発のライブ単盤(ソニーBMG RCA Red Seal 82876686692)と同一内容となっている。
http://www.hmv.co.jp/product/detail/3726006
CD5
・ポロネーズ第1番嬰ハ短調 作品26-1
・ポロネーズ第2番変ホ短調 作品26-2
・即興曲第1番変イ長調 作品29
・即興曲第2番嬰へ長調 作品36
・即興曲第3番変ト長調 作品51
・即興曲第4番嬰ハ短調 作品66『幻想即興曲』
・ポロネーズ第4番ハ短調 作品40-2
・ポロネーズ第6番変イ長調 作品53『英雄』
エフゲニー・キーシン(ピアノ)
この音楽会に掛けるキーシンの執念の様なものが感じられる冒頭のポロネーズ二つは、割と穏健で静謐な入りだ。しかし、途中のトゥッティから後半まではテンポ・ルバートを小刻みにはさみながら一気に突っ走り怒濤のコーダを迎えるというキーシンお得意のパターンだ。
インプロンプトゥに入ると雰囲気は一変、時に静かに瞑想的、時にポップで華やいだ雰囲気、そして突如炸裂するエモーションと、非常にスリリングな展開であり、まさにキーシン・ワールドが眼前に現れる。意外性の連続と言った高速パッセージ、と思えばずんずんとリタルダンドを掛けて最低速ゾーンへ落ちてみたり・・・、と息をも継がさぬ音の明滅に無意識のうちに引き込まれてしまう。
幻想即興曲はキーシンとしては情感を抑制した丁寧な弾きぶりで、右手のクロマティックのトレモロが精密極まりない。対する左手の重厚なオクターブ奏法は弦の芯を最大振幅で突いて響盤を大音量で共振させる。アゴーギクのみに頼ることはせず強弱方面(=デュナーミク)の出し入れも軽快にして高速、胸のすく気持ちよさだ。
トリはまたまた英雄ポロネーズで、キーシンとしては自身もお気に入りの選曲らしく1999年の録音に引き続きこれもまた素晴らしい出来映え。表現の良否を不問とするならばエキセントリックでパッションが滾る演奏だ。Disc 4のラストよりかは前半の進行が5〜6秒遅く、その超過時間は休符やフェルマータによる「ため」に充てられていることが分かる。
キーシンのショパンの神髄は、その明晰な色彩感と大鉈でバッサリと切り取った様な大胆な構図が特徴となるヴィルトゥオージティにある。どんな曲でもキーシンの仕掛けるマジックにより聴かされてしまうといった方が表現は正確であろうか。とにかく分かり易く格好いいショパンを聴くならキーシンは選択肢の最右翼の一つに入るであろう。
(録音評)
RCA Red Seal(ソニーBMG)、88697625302、通常CD5枚組。録音時期:2004年7月24日、録音場所:スイス、ヴェルビエ、サル・メドラン(2004年ヴェルビエ音楽祭)とある。音質は優秀な方だが会場ノイズは派手に入っており、また、キーシンの暴れがちなピアノもそのままほぼ加工無しで捉えられている。録り流しに近い臨場感は賛否あるであろうが、これはこれで生々しくて「あり」だ。
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