COOレーベルの新譜で、グレゴリア聖歌の研究家、指揮者として名高いゴデハルト・ヨッピヒが率いるカペラ・グレゴリアーナ東京が歌う二つのミサ。
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グレゴリア聖歌
待降節第一主日
入祭唱
キリエ�升岫�
昇階唱
アレルヤ唱
奉納唱
サンクトゥス�升岫�
アニュス・デイ�升岫�
拝領唱
年間第九主日
入祭唱
キリエ��
グローリア��
昇階唱
アレルヤ唱
奉納唱
サントゥス��
アニュス・デイ��
拝領唱
ゴデハルト・ヨッピヒ指揮 カペラ・グレゴリアーナ・ファヴォリート
歌っているのはカペラ・グレゴリアーナ東京の精鋭部隊=ファヴォリートだが、正式には聖グレゴリオの家(いえ)宗教音楽研究所といい1979年に祈りをテーマとした宗教音楽の研究・教育機関として設立された団体だ。
グレゴリア聖歌の成立は8世紀末とされているが出自と詳細はあまり判然としていない。聖書のテキストを強弱を付けて朗読したり韻を踏んで御言葉を唱えたりという一種の宗教行為がその原点なのであろう。つまり、言葉の持つ自然な抑揚そのものが純朴で原始的な音楽として捉えられていた可能性が高い。
この頃には五線譜による記譜法は存在せず、勿論、その頃の世俗的な音楽がどういうものであったのかは知る由もない。では、どうしてグレゴリア聖歌が今日に伝承されていったのかというと、それは、身振りと手振りで表現される音程と強弱、言葉(音符)の長さを正確に伝承してきていたからだ。その身振りをネウマといい、今で言うところの手旗信号を更に複雑化したようなものだった。指揮者に当たる統率者が演ずるネウマを見聞きしつつ、テキストを完全に暗唱したうえで演奏されるのが当時のグレゴリア歌唱だったと思われる。
その数百年後に五線譜が発明され、音程と音階、音符が精密に記述可能となってグレゴリア聖歌は更に正確に今日に伝えられている。ところが、この五線譜によらないグレゴリア聖歌が存在する。そう、前述のネウマを絵に表して記録し楽譜として伝承に用いた「ネウマ譜」というものの存在が明らかになってきた。手旗信号を送る様な姿をした人物の絵に幾つかの文字が添えられて音階やテキストの歌唱表現方法を記述したものであり、同じ長さの曲でも五線譜に比べて驚くほどの分量となるのは情報密度の観点からして明らかだ。だが、五線譜表記による合理性を排除してまでもネウマ譜による演奏に拘る理由がそこにあるという。
このアルバムにはネウマ譜で伝承されたネウマを用いることによって歌唱されたグレゴリア聖歌が収められている。五線譜を基本8ビット+補助8ビットのデジタル信号とするならネウマ譜は完全アナログ信号のようなもので、得も言われぬ滑らかで曖昧な幽玄さを表現するのだ。聴いてみると一種独特の懐かしさが漂っており仄かに温く心地良い。どうやら通常の平均律ではない旋法、そのなかでも恐らくは純正律(=自然倍音の順序で並べた音階)に近い旋法を用いている様で、この辺は現代音楽のリゲッティなどの一部の作品に通ずるものがありそう。
純粋で妙なるテキストが紡ぐグレゴリア聖歌の世界とはいったい何なのであろうか? そしてこの曲が平生から歌われていた中世の世相・風景、人々の心象とはいったいどういうものだったのだろうか? ついつい詮ない空想に浸るのであった。
(録音評)
COO RECORDSレーベル(マーキュリー)、COO-030、通常CD。2009年1月14-15日、ドイツ・ザンクト・オッティリエン大修道院でのワンポイント・デジタル録音。トーンマイスターはBernhard Alblechtとクレジットがある。音質はナチュラル&スムーズで刺激的な音は一切入っていない。音場展開は思ったほど広くはないものの、豊かな残響は過度な輪郭強調を伴うことなくこれまたナチュラルに捉えられている。特に減衰する残響の消え入り端が美しい。霊妙でデリケートな曲の内容を邪魔しない黒子に徹した音調は高バランスである。
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