naiveの新譜から、売り出し中のピアニスト=ギィと新進気鋭の指揮者=ジョルダンが鮮やかに切り込むベートーヴェンPコン。ジャケ写真に手が二つ写っているが、これはこの二人の手らしく、hand-in-hand、即ち手を携えて演奏した、という意味を込めているらしい。
http://www.hmv.co.jp/product/detail/2797877
Beethoven:
Piano Concerto No. 4 in G major, Op. 58
Quintet in E flat major, for piano and winds, Op.16
Francois-Frederic Guy (p)
Orchestre Philharmonique de Radio France, Phillipe Jordan
ベートーヴェン:
1. ピアノ協奏曲 第4番 Op.58 ト長調
2. 五重奏曲 変ホ長調 Op.16
フランソワ=フレデリク・ギィ(Pf)
フィリップ・ジョルダン(指揮)、ラジオ・フランス管弦楽団
2)エレーヌ・デュヴィユンヌ(Ob)、ジェローム・ヴォアザン(Cl)、
アントワーヌ・ドレイファス(Hr)、ジャン=フランソワ・デュケスノワ(Fg)
Pコン4番はベートーヴェンの友人であり教え子であり、そして後援者でもあったArchduke Rudolphに献呈されたとされる。初演はウィーンのアン・デア・ウィーン劇場(現在でもオペラハウスとして有名)で1808年12月22日、ベートーヴェン自らがピアノを弾き振りしたとされる。これは、当時ベートーヴェンが試みていたマラソン・コンサートの一部として演奏されたもので、他には合唱幻想曲、交響曲5番、6番の初演がそうであったのと同様だ。これを最後にベートーヴェンがソリストとしてステージに上がることはなかったとされる。初演の後にこの楽譜は何故か埋もれてしまい誰も見向きもしなくなったが、1836年にメンデルスゾーンがこれを発掘して良さを喧伝、それ以後はよく演奏されるようになったという。
ベートーヴェンの作品は幼少期から学生の頃までは良く聴いた。その後は忌避するようになったのだが、このギィのピアノ、そしてジョルダンのリードはもうちょっとベートーヴェンを聴いてみようかと思わせられる演奏だ。とかく重い短調作品、もしくは事大がかった大仰な長調作品という両極端な解釈と演奏に辟易していた自分にとっては新鮮だった。ピアノもオケも軽いフェザータッチ、しかも高速に駆け抜ける疾駆感がダルさの微塵も感じさせない、爽やかに吹き抜ける風のような演奏だ。この人のピアノは端正で巧い。即ちキーを押下する時の慣性質量を感じさせない俊敏性、揺らぎのない一定速度のスケール、破綻のない穏やかなデュナーミクが高度にバランスしているのだ。硬質で艶消しメタリックな風合いのギィのピアノの音色はグリモーのそれに似ている。しかし軽快さではギィが一枚うわ手だ。
ピアノと吹奏楽器のための五重奏曲Op.16変ホ長調は1796年に書かた。この作品はモーツァルトの五重奏曲K.452にいたく感銘を受けて書かれたとされ、ピアノ+管楽器という器楽構成も変ホ長調という調性も全く同じ。木管の伸び伸びとした質感に身を浸したい時には絶好の五重奏強だ。ギィのピアノはハープのように優しく弾かれる。
(録音評)
naive、V5148、通常CD。このCDは最初うまく鳴らず、音場展開が平坦で曇った音だった。経験則上こういうCDは要注意で、今までにないパターンの音が含まれていることが多い(いわゆる「初物」現象)。案の定、何度か鳴らしていたらぐんぐんと見通しが改善し、最初とは全然違う音を出すようになった。
通常のnaiveの中〜大規模器楽構成に見られる録音と同様、中庸位置に展開するオケとピアノが綺麗に録られていた。しかし、ただならぬ気配感とさざ波のように押し寄せる各パートのディテールが今までにない微細さで、ステージの空気を丸ごと切り取ってきたかの迫真の音だ。
ギィのピアノは透き通っていてとても美しいのだが、よく聴くと上部雑音がしっかりと入っていてその辺で生ピアノをリアルタイムで弾いている気配がむんむんする。オケの重層感も素晴らしく、ブラスのビームや弦の擦過音がきついくらいに押し迫ってくる。それでいてオンマイクかというと決してそうではない。
このCDもクレジットにdCSコンバータを使ったという表記はなく、Pyramix 32chとだけ書かれている。最近のnaiveは空気感や風合いがDSDっぽいと感じるのだが、これもまたそういった種類の録音だ。
ベートーヴェン・ファンにもオーディオ・ファンにも広くお勧めできる優秀録音である。
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