台風と菊とNHKとギロチン

　数十年に一度の大型台風が去って夜が明けた。
　起きて庭を見ると、浅茅が宿もかくありなむ、というくらいに荒れ果てていた。
　少々、被害もあった。飛んできた枝が跳ね飛ばしたのか、玄関の登り口のタイルが一部剝がれていた。これは、セメントを買ってきて自分で補修できそう。
　黄金とうがらし50本は40本ほどが倒れ、根が露出しているのも多数あった。やむなく収獲することにする。本来なら今の時期も可憐な白い花が咲いていて、12月まで真黄色の実がなるのだが、今年はもうダメだろう。収獲目標の半分に届くか届かないか、微妙なところだ。
　住まいの周りも荒れ果てていた。家の周りも含めて掃除に追われた。

　昨日は午後3時あたりからたびたびNHKテレビで台風「特番」を見た。
　伊豆半島の海が出たと思ったら、房総沖の様子が映し出され、安倍川に映像が切り替わる。そして、先月の千葉災害とか、過去の台風被害の資料映像など、淀みなく映像が映し出されるのだが、私が知りたいと待ち望んでいる現在の台風の目の位置とか、2時間後4時間後の予想進路はまったく報じてくれない。画面の隅っこに、台風の勢力圏が図示されているのだが、あまりに小さくて、しかも日本地図に多い被さっているものだから、台風の目が伊豆・下田沖なのか、鎌倉に近づいているのか、読み取れない。
　次々にアナウンサーが出て来る。
「海や川には絶対近づかないでください」
「命を守る行動をしてください」
　2分に1度の割で、真面目な顔をして同じことを繰り返している。視聴者の対象を幼稚園の年長組あたりに置いているのだろうか？　端正な顔立ちで声のよく通る男性アナや、小学校から勉強が出来ただろうことが顔に表れている女性アナが、「命を守る行動をしてください」と、阿呆みたいなことを繰り返し言っている。台風がどこに上陸するのか、いつ上陸するのかを私は知りたいのだ。台風を見に海岸行こうか、という人間は、そもそもこんな番組を見ているわけがないだろう。
　30分くらい見続けてようやく、既に2時間前に行われた気象庁の記者会見と予報が出てきたのだが、とんだ時間つぶしになってしまった。
　私は昼イチから『菊とギロチン』を見始めた。関東大震災からほど近い時代、実在したアナキスト集団「ギロチン社」と、これも実際にあった女相撲一座を絡めて、世の中からいい意味で外れ、落ちこぼれた人間群像を諧謔的に描いた超大作だ。3時間ちょっとの長編である。
　これを1時間見ては、NHKの台風特番を見る、という繰り返しだったのだが、菊とギロチンは残酷なシーンが多くて閉口し、NHKは一流ホテルのフロントマンのようなアナが「命を守ってください」一点張りだからこれまた閉口し、陰々滅々な気分とはまさにこれ。どうせ映画を見るのなら、渋い中年男女が主人公のフランス映画でもチョイスするべきだった。
『菊とギロチン』を観たから言うわけではないが、大正から昭和にかけて「天皇陛下」を最も尊崇していたのは、特高警察より一般国民である。あいつは社会主義者だ、と目をつけるのは警察より一般国民で、意識高い系の正義感が警察なり政府なりに密告するのである。映画では自警団がアナキストたちに暴行し、朝鮮人の女相撲取りに乱暴するというシーンが繰り広げられ、集団リンチが嫌いな私は申し訳ないけど反吐が出そうなくらいに気分が悪かった。
　以前から繰り返しの持論だが、神戸の小学校教師イジメ事件などを見るにつけ、日本人は弱い者いじめをより好む傾向があって、それを見て見ぬふりをする意気地なしの輩が大半で、文化的には下等民族である。それは安倍・麻生政権に結実し、国民も我が意を得たりと日々、自警団よろしく「反日分子」を見つけ出しては叩く円熟期を迎えた。安倍を小型にした皇民、臣民が大活躍である。
　安倍と、安倍の信奉者って、生まれついてのヤンキーなんだろうな。
https://www.shogakukan.co.jp/news/136812

　昨日の朝日朝刊、あいちトリエンナーレ「不自由展」で天皇の肖像を焼くという作品を制作した映画監督・大浦信行さんのインタビューが1面全部を使って出ていた。
　天皇の顔写真を焼くだけの映像が芸術なのか？　と私はウヨクとは違う意味で解せなかったのだが、とんだ誤解だった。
記者　実際天皇の肖像を焼いたのですか？
大浦　「いえ、燃えているのは僕の作品です。80年代の作品『遠近を抱いて』のうちの4枚を燃やしました。天皇が入った版画です」
「遠近を抱いて」は古今東西の芸術作品、仏教図、人間の骨格、女性の裸体などのイメージと天皇を組み合わせたコラージュだそうだ。
　これで私はなんとなく納得した。
　不自由展に批判記事を書いたマスコミは、大浦さんの作品を観たのだろうか、大浦さんを取材したのだろうか？
　なんか最近、新聞も雑誌もネット頼みのまとめサイトみたいな記事が多く、素人と玄人の差がだんだんなくなってきた。私は知的水準の高い記事を好むので、正直なところ、非常に困っている。困ったもんだ。