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2024年05月11日01:58

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久しぶりに登場人物たちの気持ちに乗れた日本映画でした。塩田明彦監督「春画先生」(2023)。

あんまり見る気のなかった作品ですが、たまたま新作としてレンタルする映画が見当たらず、キネカ大森で2本立て上映したときに“見ようかな”と思っていた「春画先生」を下位にリストアップしていたら、ほかの作品がすべて人気作品のためパスとなり、「春画先生」が送られてきました。もっと先に見たい映画があるのに(笑)。

まずお断りしておきますが、この映画では“春画”を扱います。そしてその共通テーマである“男と女の人間関係(つまり性愛)”について物語が展開しますので、この日記が未成年の方の目に触れた場合はきちんとご説明をお願いします。映倫ではR15+という指定になっていますが、日記の内容としては全体に公開として、表現に注意したいと考えます。

物語は、春画を研究していて“変人”とされている芳賀一郎(内野聖陽)が、なじみのコーヒー店でいつもどおり春画を見ていたところ、ウェイトレスの春野弓子(北香那)がその春画を見てしまうという場面から始まります。このとき携帯の緊急地震速報の音楽が流れ、地震が起こるという映像なのですが、僕はこれを弓子の心の中の“驚天動地”の心理描写だと決めつけてしまいました。

そして、以後の展開にいくつか弓子の夢想シーンがインサートされ、弓子が男女の関係にのめり込んでいくのでした。我が国で地震による災害が多い中、男女の性愛に関して地震を持ち出すとは何事だとお怒りがあるかもしれません。それに対しては“平に、平に”と島田勘兵衛のように謝るしかありません。

しかし僕はこの場面を見て、まさに“驚天動地”という言葉を映像化してくれたと感じたわけです。約1年前、伊藤智生監督の「しゅら-縄の姉妹‐」という作品を見たときに観客の一人として感想を述べた僕は、この弓子同様の体験を、奈良の小さな書店のナンパモノの棚で立ち読みする若い男の雑誌から感じていたのです。

まさにそれは驚天動地であり、脳天から真っ二つに叩き切られたような衝撃でした。って、実際に切られていないから想像ですけどね。そして弓子は、自分の中で大人の愛へ夢を膨らませます。満面の笑みを浮かべてベッドで転がる姿が、欲望の対象としてではなく“仲間”意識で愛おしい。こんな風に映画の中に乗り込めた日本映画は、それこそ稀有です。

とはいうものの実は僕、ほんの1年前に体感していたのですけどね。あの「しゅら-縄の姉妹‐」ほどのインパクトはなかったけれど、僕にはとても心地よい映画鑑賞感覚でした。春画に対する細かな説明も、単なる説明というだけではなくいろいろ納得させられたし。例えば浮世絵師たちが肌の白さを表現するために、紙の地の色を見せていたというあたり凄い。

残念なのは、その白さが“説明されて初めて分かる白さ”だったことですけど、そもそも映画という投射する光(そしてスクリーンが反射した光を観客が見る)では紙の地の色は表現できないのではないか? それこそ「しゅら-縄の姉妹‐」のように巨大なLEDスクリーンに8Kで映し出せば、もっと効果的だったのでは?と思ってしまいました。

もっと言えば、出版社の編集員という若造が、へらへらしたセリフで弓子に近づくあたりもツマラナイ。あの編集者がもっと重厚に弓子に迫っていたら、僕はこの映画を「しゅら-縄の姉妹‐」に近い線まで評価したことでしょう。しかしこの映画はさらに90分を過ぎてから、僕が期待していない方向へと進んでしまいます。

せっかく“男女が1週間ホテルに籠もる”という、ジャン・シャルル・タケラ監督の「さよならの微笑」のメイン・ストーリーを借用するのなら、その二人の営みを堂々と描けよ、と僕は思うのです。どうせ「しゅら-縄の姉妹‐」ほどの踏み込みはできない(一般映画では不可能だし、あの世界はプライベートなままでいいと僕は考えます)のだから。

「さよならの微笑」は1975年のアカデミー外国語映画賞にノミネートされた作品です。マルト(マリ。クリスティーヌ・バロー)に出し抜かれたカリーヌ(マリー・フランス・ピジェ)が唇を噛むシーンに近い感動を、なぜ再現しなかったのか。最後の25分にチャチなSM噺なんか持ち込むんじゃないよ、と僕は大いに怒りたいのです。

もしも僕の希望どおりの映画にしてくれていたら、昨年に続いて僕は映画を見て驚天動地の感動を得たはずでした。実際の地震は絶対に体感したくないけれど、映画を見て自分の人生そのものを揺さぶられる快感は、何度でも体験したい。

ということで僕は、この映画を評価します。残念ながら「しゅら-縄の姉妹‐」ほどには評価できませんが、僕が述べたように描いていてくれたら、それこそ僕は映画鑑賞歴の中で“堂々たるアレンパ”を成し遂げられたのにと残念至極です。とはいえ、日本映画もなかなか捨てたものではないのですね。映画を見る楽しみが、またひとつ増えました。

写真3は、春画先生こと芳賀一郎宅に永年勤めている家政婦さんを演じた白川和子です。こういうのは“名誉出演”と言うのかな。単なるカメオ出演で終わらせたくない。
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