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2022年03月21日10:11

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【バレエ】Kバレエ「ロミオとジュリエット」(19日ソワレ配信)


今回は腕の立つ金管奏者を揃えられなかったようだ。残念。シアターオケに波のある理由はわかったけれど、同時に専属のバレエ団やオーケストラなどが揃った「本当の劇場」は、まだ我が国には無いのだなと実感する。中抜き目的に税金をばら撒くくらいなら、その金でウクライナからシェフチェンコの関係者を家族もろとも全員引き抜き、新時代の日本の劇場の礎になってもらいたい。

井田さんはコロナに感染したという話を耳にしたけれど、お元気そうでよかった。でも自宅待機で太ってしまったのかな?

「ロミジュリ」は4年振り5回目。今回はコロナの影響がKの上演スケジュールにどこまで影響を与えたのかわからないし、8年も上演されなかった「コッペリア」よりはましとは言え、技術の継承という観点からすると間が空きすぎるのではないだろうか。

19日ソワレは、人殺しと自殺者たちの殺伐とした物語だった。

ティボルトはマキューシオを、ロミオはティボルトとパリスを、激高していたとはいえ明らかに己の意思で相手を殺しにかかっていた。盗賊に殺されたジョンもいるし。ただでさえ救いのない物語なのだから、せめてティボルトは酔ったうえでのうっかり、ロミオも対ティボルトは仕方がないとはいえ、対パリスはもみ合っているうちに半ば事故で、というパターンにしてほしかった。

主役以外にもプリンシパルが何人も配役されている舞台は、本来は見応えがあるはずだが、今回はセカンド・キャストの舞台を観ているような気がした。プリンシパル4人(当時)のうち3人も登場しているのに、山本くんしか目立たなかったからだ。

彼の躍動感に満ちつつも上品な手足の使い方はまさに眼福、ランベルセの美しさはシムキンくん級。(笑) 演技も自然で飯島さんとのマッチングも悪くない。ティボルトを殺る時の目には狂気が宿っていたし。最近はプリンシパルになったことで落ち着いてしまった感もなくはないが、彼にはまだ伸びしろがあるはず。現状で満足せず、さらなる高見を目指してほしい。

飯島さんは初日に続く2回目ということもあって、初役の緊張からは多少解放されたとはいえ、最後まで力尽きることなく踊り切っていた。劇場に観に行っていたらカテコは無視して席を立つ出来のキトリが嘘のようだ。実力差を実感し、鍛錬を続けているのだろう。

前の日記で予想したように、彼女の長所が生きた舞台だった。演技は自然で見た目も違和感がなく、気性の激しい情熱的なお転婆ジュリエットだった。乳母の扱いが乱暴だったり、父親を思い切り突き飛ばすなど、総じて気品に欠けるのは、貴族の娘という役柄を考えると疑問符が付かなくもないが、そういう娘もいないわけではないだろうから、役作り解釈のひとつということにした。(笑)

踊りについても引き続き改善はされており、ジュリエット同様? 負けず嫌いな性格のようだから今後も良くなっていくとは思うが、前日WOWOWで再放送されていた浅川さんを引き合いに出すまでもなく、周囲には彼女より上手い人はたくさんいるから前途は多難だ。テンポが速くなると手足の動きが直線的になり、ゆっくりになればなったで時折ぎこちない動きが混ざり、流れが一瞬途絶えて音楽に乗り切れないことがある。

山本くんと演技や雰囲気の相性は問題なく思えたが、踊りの技術差は歴然としすぎているからパートナーシップ云々を言える段階ではなく、振付も彼女のために簡略化されていた。熊版のバルコニーの場は本来もっとダイナミックであることは、浅川さんと宮尾くんの舞台を観れば一目瞭然だ。

自然な演技は上手いが、まだ踊りのテクが追いつかない彼女と、踊りの技術はKバレエ女性陣随一ではあるが、演技力は発展途上の小林さんを足して2で割ると、ある意味理想的なバレエ・ダンサーと言える。

吉田くんはマキューシオを熱演。マクミラン版をはじめ、往生際の悪い演出はもっと短くてもいいのにと常々思っていたが、今回は彼の演技が良かったのか、内出血でじわじわと弱っていくんだな、となんとなく納得してしまった。

奥田くんも頑張ってはいたけれど、ここのベンボーリオには益子くんのイメージがあるので、彼のスピーディかつ流れるような動きと比べると、奥田くんの踊りはまだ力任せで武骨さが目立つ。

杉野くん、絶命した時に思い切り剣の鍔に頬をぶつけていたけれど怪我はしなかっただろうか。結構な勢いで頭もバウンドしていたから首も心配だ。

彼のティボルトは、以前観た泥酔? パターンの方が説得力があった。今回も酒瓶は手にしていたが、途中から酔いが醒めてしまったかのようで、そうなるとマキューシオには後れは取らないだろうし、酔った勢いでの殺人という解釈も使えなくなる。途中から酔いの状態を変えるのであれば、ロイヤルのドリューさんのように、剣を振り回しているうちに血流が良くなり、次第に酔いが回っていく方が首肯できる。役作りについては試行錯誤の最中なのだろう。

日高さんのロザラインは案外似合っていた。ただし、本来はロミオたちをも魅了する魔性の女性なのだから、もう少し色気は欲しい。元気な時の吸血鬼の演技からすると、彼女にはミルタやカラボスのような役の方が合う気がする。

時々動きが直線的になったり、流れが止まって音楽と踊りが乖離するのは飯島さんと共通の短所。よそのバレエ団なら気にならないレベルだが、Kには基本のしっかりしている人が大勢いるから、どうしても目立ってしまう。

「クラリモンド」のロミュオーとは一転、影が薄かったのが堀内さんのパリス。ただしこれは彼の責任というよりも、熊版に問題があるように思う。

原作や他版では、パリスは最初からジュリエットに好意を抱いているし、ジュリエットも年齢的に結婚はまだ早いと思っているだけで、パリスに嫌悪感はないから、もしロミオがいなければ、2人には幸せな未来が待っていたかもしれないと読者や観客に思わせ、カタコンベで見せたロミオへの怒りも納得できる。

しかし熊版は、わかりやすさを重視する方針が裏目に出てしまい、パリスは政略結婚のアイコンになってしまった。出会った早々からジュリエットはパリスに対して不快感を隠さないし、パリスが彼女をどう思っているかを観客に伝える場面も十分とは言えないから、ロミオに八つ当たりしてまで襲い掛かる動機が見えにくい。

後述のベローナ・ガールズもそうだが、なんだかんだ言って熊さんはアシュトンさんやライトさんの影響下にあり、本作もマクミランさんに引っ張られている。ストーリーをシンプルにしたいのであれば、ノイマイヤーさんのようにパリスもキャピレット夫妻と一緒に退場させるべきだった。

ランシエくんはやはり配役されたかとちょっと嬉しく思ったが、舞台を観ているうちに課題も見えてきた。本番に向けてキャシディさんの動画を参考にしたようだが、キャシディさんと比べるとまだ線が細く演技も薄味。彼の幻影が被れば被るほど差が明確になってしまう。しかし若手はそうやって前任者を乗り越えていくのだから、これからもがんばれ。

総じてKのダンサーたちは上手いが、今回印象に残ったのは毛利さんを筆頭とするベローナ・ガールズで、配役表を見て納得。(笑) ただし彼女たちは、初演の時から思っていたのだが、キャピュレット家と拮抗する貴族の娘たちにしては身なりや仕草が下品。マクミラン版の娼婦たちにしか見えない。両家をわかりやすく対比させたいという演出上の意図はわかるが、あれではマクミラン演出の安直な流用にしか見えない。視覚的に識別できればいいのだから、そこにひと手間かけるのが改訂版の妙味なのだが。


劇場一辺倒だったバレエ公演、一からシステムを構築して配信しようとすると、乗り越えなければならない壁はいろいろあると思うが、民間のKが続けているということは、軌道に乗ってしまえばうまみはあるということなのだろう。

逆に不思議なのは、視聴料1000円程度でも儲けがだせるだけの潜在的な観客がいることを証明してみせた新国の配信が途絶えてしまったこと。コロナ禍で収益が減ってしまうと民間は死活問題だから、なんにでも必死にならざるを得ない。しかし新国の経営陣には、そこまでの切迫感がないのだろう。だから大事な舞台装置(オペラ)をダメにしても反省しない。NBSと五輪のコロナ対応の差、意識の差が、こういうところにも表れている。

新国といえば、全配役の配信という、もうひとつ貴重な実験もしてくれた。あれを観て、開けてはいけない箱の蓋を開けてしまった人もいることだろう。Kも配信の次のステップとして、複数配役の配信にチャレンジしてくれないだろうか。Kにも魅力的な踊り手はたくさんいるのだから。

とりあえずは、次の「カルメン」では浅川さんの主役復帰を記念して、ぜひ彼女の舞台を配信してほしい。
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