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2021年02月23日19:23

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大雄山最乗寺と七福寺　其の五

実はそれにも理由があって……

黒の作務衣を着た頭を丸めた恰幅のいい男性が、唯ひとり後から同じ坂道を下りてきて、自分たちを抜かして、先にこのお堂で線香と灯明をあげていた。

作務衣と言えばだいたい青藍色と決まっているが、黒の作務衣はこれから何かの儀式にでも参加するような出立ちで、初めて見た。
そして、その男性がお堂を立ち去る前に般若心経をあげていたのだ。

しかし、鎌倉円覚寺で実際のご住職の般若心経を何度も聞いていた自分は、この人は僧侶とは違うと感じる。
何故なら、般若心経には独特の節回しがあり、それがこの男性にはない。
たぶん独学で字面で般若心経を学んだのではないだろうか。

そして、その後で自分もその男性に習って、慧春尼のご供養も兼ねて、般若心経を唱えたというわけなのだ。

しかし、黒の恰幅のいい男性は、今にして思えば、朝の黒の大きめのバンを連想してしまうのだが、もう少しじっくりと思い返して心の整理をしてみたい。

書きながら思い出したことがある。
黒のバンが登ってきた道が、実は下りの一方通行の道だったことだ。
後からこの最乗寺を下る時にわかった。

それはここ最乗寺は、一之鳥居から何本か通り抜け、最後の鳥居に来ると、神社の参道をはさんで向かって左が登り、右が下りの一方通行となり、鎌倉の鶴岡八幡宮のような感じになっているのだ。

何故、あの長い下り専用道路から逆走して登ってきたのか、こんな真夜中に。
もし下りの車がいたら、こんな暗闇では大きな事故になりかねない。
では、一方通行の標識を見落とすほど、土地に不慣れで、道を知らなかったからだろうか（自分もはじめてだが）
しかし、それならば何故わざわざ指定駐車場を通り抜け、細い道を躊躇なく上に登っていけたのだろうか、まるで何度もここを訪れているように。

そして、黒のバンは何処に行ったのだろう。

その答えを、いつかあの尼さんに聞いてみることが出来る日が来るだろうか。

結局、目の前に素晴らしいものがあっても、それを理解しないうちは見えないのと同じ、まさに猫に小判の状態が今の自分。

自分が私淑している「桜井識子」さんも、神様は自分が理解している以上のことは話してくれない、と書いてあった。
仮に何かを語ってもらっていても、わからないことは、理解出来ない、当たり前のことだ。

きっと全てをわかった時に、気づき、理解出来るようになるのだろう。

そんなわけで初めは、ワクワク楽しく、そのうち悩めかしく奥ゆかしい、そして激しく熱い、最後は静かに落ち着く。
考えから感じるへ、楽しさ激しさを経て穏やかな心へ。

六根、喜怒哀楽、全ての感情、身体的な反応をひと通り経験でき、まるで一回の参拝で、今までの人生の全てをぎゅっと凝縮して経験したようだ。

これならば、二度目、三度目に参拝するときは、自分の理解度と共に、また違うインスピレーションをいただけるだろう。
最乗寺はまた訪れたいお寺さんのひとつになった。

今回も、しっかり自分が望んでいるものや、不思議な課題をあたえてくれた神仏に感謝だ。

こんなに沢山の事を経験して、既に6時間近く最乗寺に滞在していても、只今の時間はまだお昼前。

この（早朝より参拝する）貪欲に一文の得をしょうとする欲深さの残る自分を、変える気は今後もない。
何故ならこれは自分なりの求道心から出ているものだからだ。

色っぽい意味でも使う「口説く」と言う言葉が、神仏の「功徳」を口で説く、から来ているように、時間に貪欲な今の自分の欲深さを遡る事により、本来の求道心を削り出してみたい。

般若心経の最後には、

「羯諦羯諦　波羅羯諦　波羅僧羯諦　菩提薩婆訶　般若心経」
（ぎゃていぎゃてい　はらぎゃてい　はらそうぎゃてい　ぼじそわか　はんにゃしんぎょう）とある。

これを訳すと、
「皆で行こう、皆で行こう‶仏の国〟に」
「皆で行こう、皆で行こう‶神の国〟に」
「皆で行こう、‶極楽浄土〟に」
となる。

これは、死んでから極楽に行くのではなく、生きながら極楽の世界に住まうことを意味している。

実際、釈迦尊は死んでからのことは何一つ言ってはいない。
弟子から死んでからのことを聞かれたときは、わからないとはっきり言っている、無いとも有るとも言ってはいない。

今の仏教を見ていると誤解しそうだが、釈迦尊は本来は生きている人が、今幸せになる知恵、方法を説いてたのだ。

本来の教えを感じれるように、自分の心を遡り、これからも参拝をとおして精進していきたい。

PS.
黒の作務衣の男性は、朝のお務めの時にいた僧侶だった、と家内は言う。
そうかもしれない。
それならそれで、この最乗寺とは、僧侶と間近に会える深いえにしで結ばれている、と言える。

もし、早朝の暗闇の黒のバンに、その黒の作務衣の男性僧侶が乗っていたとしたら、あの細い道を隅から隅まで知り尽くしているのだから、自分の知らない場所に駐車も出来るだろう。
それならひと通りの説明はつく、が、それでは自分はつまらない。
妻ならいい、けど。

…と、くだらないアナグラムも飛び出しそうな、次からはミーハーな七福寺巡りへと気持ちも新たに向う。