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2019年06月09日11:06

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クリムト

黄金様式のみならずクリムトの油彩を幅広く。ホイッスラーのようであったり、ゴッホのようであったり。

クリムト
ウィーンと日本1900
@東京都美術館

巡回する豊田市美術館で見ようと思っていたのですが
機会がありましたので行って来ました。

作品数は120点ですがキンキラでないせいかさらりとした印象でした。
みどころはフライヤーに尽くされています。

個人的に興味深かったものいくつか。

◆赤いスケッチブック
手のひらサイズ。
1898年4月～7月に素描帳として使われたもので
メインビジュアルの《ユディトⅠ》、それに《ヌーダ・ヴェリタス》までほぼ完成形で描かれています。
ショップでグッズ化されていたのには驚きました。

◆ウィーン大学壁画《医学》《哲学》《法学》
大学から依頼を受けて制作されましたが
下書段階から教授連の気に入らず、大きな問題に発展したためクリムトは前払金を返却しました。
その後完成作はナチスに没収され、インメンドルフ城でナチス撤退時に城ごと消失させられたとのこと。
今回は習作と白黒写真が展示されていました。
これはトートバッグになっていた《医学》ですが
確かに医学を賛美する印象ではないかも。。

1892年にクリムトは父と弟を亡くしていますのでその影響もあるのでしょうか。

そしてエミーリエ・フレーゲと舟遊びをする写真がほほえましかった。

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監修者の講演会を聴きました。

クリムトとウィーンの"聖なる春"
千足伸行(成城大学名誉教授・広島県立美術館館長)

以下お話の流れのメモを。

クリムトは去年が没後100年でした。エゴン・シーレも同じ年に亡くなっています。
当該年には本国で大規模展があったりしますので外国ではなかなか難しいですね。
ちなみに2019年はルノワールの没後100年、ダ・ヴィンチの没後500年。
2020年はラファエロの没後500年に当たります。
フランスやイタリアで大規模展があるのでしょうか。

【時代背景】

さてウィーンといえば13世紀からハプスブルグ家の君臨した首都です。正確にはプラハに首都が移ったことがありましたが。
ですから19世紀末ともなると栄光とともに埃といいますか過去の滓が積もってくる。一方次の20世紀に向けて羽ばたく意欲が生まれてくるわけです。
そして古代ローマの昔から、問題意識が生まれると反乱を起こすのではなく集団が出て行く。

"聖なる春"とはそのような反抗精神を表すものです。
具体的にはウィーン分離派の機関誌の名前ですね。
クリムトはその中心人物(初代会長)ですが、過去の美的遺産を取り入れながらモダンな作品を作ったのが特徴です。
そしてこの時期にはウィーン・ルネサンスとも言うべき各分野にたぐいまれな才能が出現しました。
音楽で言えば、マーラー、ブルックナー、シェーンベルク等。
精神分析のフロイト、音速を発見したエルンスト・マッハ…
これらは全てウィーン人でもオーストリア人でもありません。
つまり当時のウィーンは"人種のるつぼ"状態で、
その摩擦からエネルギーがうまれ、新しい文化が生まれていたのです。

フランツヨーゼフの時代に城壁が壊され環状道路が作られると12の公共の建物が作られました。
その一つが市庁舎。ネオゴシック様式です。
ネオというと新しいようですが、悪く言うと「二番煎じ」の「焼き直し」。

一方ウィーン分離派が建てたのが分離派会館。
並べると後者が幾何学的ですっきりとしていることがよくわかります。
正面に金色で高く掲げられた文言は
"その時代に相応しい芸術を"
"芸術にはその自由を"。

元々ウィーンには人生を楽しむというか享楽的な気質がありました。
・ウィーン王宮での宮廷舞踏会(ｳﾞｨﾙﾍﾙﾑ・ｶﾞｳｾﾞ)

社会全体にも大きな変化がありました。
上流のモダンな女性が自転車で街を走ったり。
・オペラ座付近のリングシュトラーゼ(ﾏｷｼﾐﾘｱﾝ・ﾚﾝﾂ)

・ヴェル・サクルム(聖なる春)4号表紙
先程述べた通り、ウィーン分離派の機関誌です。
髪を渦巻くようになびかせた女性がグラフィックに描かれています。

・第16回ウィーン分離派展ポスター
今でも通用するデザインですね。文字もデザイン化されていますが読める文字です。こうしたモダンなデザインはウィーンならでは。
六本木の国立新美術館の展覧会も是非ご覧になってください。

【クリムト】

ではクリムトの作品を見ていきましょう。

クリムトの絵は若いときのものもほぼ注文作品です。
誰もが喜ぶようなものですが個性がなかった。
彼の個性はまず肖像画から出現します。

◇ソニアクニップスの肖像
正方形の画面、顔はきちんと描いていますが首から下は柔らかいタッチでドレスは白一色、ホイッスラー的ですね。
右手に赤いスケッチブックを持たせています。これはクリムトが愛用していたもので今回の展覧会にも出ていますね。
背景の花のおきかたなどは日本の影響を思わせます。

◇アデーレ・ブロッホ=バウワーの肖像Ⅰ
黄金様式の有名な作品。肖像画とはいいながら、顔はどちらから光が当たっているのかもわからない。
首から下は人体として意識されないし。
全体が幾何学的な模様で、魚の目のような模様はエジプトからとったものでしょうか。

◇アデーレ・ブロッホ=バウワーの肖像Ⅱ
先程のものとは180度違います。
黄金は姿を潜め色彩をたくさん使っている。
背景にはアジア的な騎馬モチーフ。
アデーレはクリムトが身内・モデル以外で唯一２回描いた人物です。
彼女は右手の中指が変形していたこともあって手ははっきり描いていない。
二人の関係は不明です。

◇接吻
黄金様式。近代絵画のアイコンとも言える作品ですね。モナリザ並みに有名で。
しかし空間的には不可解です。
二人がいるのは崖っぷちでしょうか。宇宙空間でしょうか。女性は裸足で落ちかけているようにも見えます。
人物の特定もできません。クリムトと恋人でしょうか。
この作品の工芸的な美しさは若い頃金属加工を学んだせいかもしれません。

◇エミーリエ・フレーゲの肖像
彼女はクリムトの生涯のパートナーでした。
頭の上の模様は帽子ではなく装飾的なモチーフです。
直立不動でなく若干傾いている。
腰に手を当てたポーズや見下ろすような視線のせいで偉そうに見えると思ったのでしょうか。本人は気に入らずしまいこんでいたものを戦後美術館が買いました。
20代のころからの付き合いですのでクリムトからの沢山の手紙が残っています。
彼女の手紙はクリムトの死後処分されたようですね。
二人の関係ははっきりしません。クリムトが彼女に与えた特権は死のときに立ち会うことだけだった、といわれています。

ちなみにクリムトは生涯結婚しませんでしたが、14人の子供がいました。

◆ユディトⅠ
今回の目玉作品です。黄金様式のファム・ファタル。
ユディトは旧約聖書に登場するユダヤ人女性で、
国のために敵陣に行き色仕掛けで敵将ホロフェルネスの首をとった英雄的な女性です。
多くの画家が描いていますがクリムトの作品ではあまりに性的な余韻を残しています。
アシンメトリーな半眼、濡れた唇。
ギュスターヴ・モローの《サロメ》などこれに比べれば可愛いものです。頽廃的でまさに世紀末ウィーンの雰囲気を伝えています。
豪華なチョーカーがアデーレの肖像と同じですから彼女と見ることもできますがそれでは人妻ですから問題が起きますね。

◆ヌーダ・ヴェリタス
クリムトの個性は
・真実(ｼﾞｭｰﾙ・ﾙﾌｪｰﾌﾞﾙ)
と比較するとよくわかります。
ルフェーブルはサロン系の巨匠で
同じように手鏡を掲げる女性を自然主義的に描いています。
対してクリムトは情念を込めたロングヘアーのファム・ファタルですね。

ファムファタルといえば
・吸血鬼Ⅱ(ﾑﾝｸ)

一方クリムトのファム・ファタルは
◆ベートーヴェン・フリーズ第二の壁
淫欲・不摂生と並んで描かれている"不貞"の挑むような眼差しがまさにそのものですね。

この時代には女性解放が叫ばれ、自由な女性も出現してきました。
しかし作家のジョルジュ・サンドや女優のサラ・ベルナールなど一部のものに過ぎませんでした。

◇希望Ⅰ
一方、それと対局に母性を表すものとして妊婦も多く描いています。
これは横から見た妊婦。しかし髪は装飾的ですし、周囲に骸骨や狂気の顔が並んでいる。
この絵を買ったパトロンは飾らずに隠していたそうです。

◆女の三世代
《ユディトⅠ》は３回目の来日ですが、本作品は初来日です。
額縁に収まる作品としては最大のものです。
子供と若い母と老婆で人生のサイクルを描いています。生は死の始まりというわけですね。
若い女性は首を90度に傾けて恍惚とした表情です。
この直角に傾けるのはクリムト特有のポーズですね。
このような寓意的な作品は印象派が絶対に描かないものです。
対してクリムトは伝統的なモチーフの作品も描きました。

◇ベートーヴェン像(ﾏｯｸｽｸﾘﾝｶﾞｰ)
◆ベートーヴェンフリーズ
目を閉じ裸の女たちが幸せを目指して空を飛んで行く
黄金の騎士にひざまずく人々
ゴルゴンなど敵対する勢力
詩の女神
楽園と歓喜の歌
こうしたイメージをクリムトはどこから得たのでしょうか。

あくまで想像ですが
・ワグナーのメモ
・海のオペラ(ﾏｰﾛﾚｯﾄﾏｸﾄﾞﾅﾙﾄﾞ)
にイメージが近いと思います。

また、最後の楽園で抱き合う男女は顔が見えない。
どこの誰というのではなく人類全体を示すのでしょう。
頭の上の湯気のような線は火花、両側の二つの円は月と太陽です。
作品としての大団円で、エロスよりも人類愛の象徴です。
今回は再現展示ですが、現地ではもっと高いところにあって見にくいですからどうぞこの機会によくご覧ください。

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展覧会7月10日まで。
そのあと7月23日から豊田市美術館に巡回します。
https://klimt2019.jp/

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展覧会に合わせて映画も公開されていますね。

関西では大阪が7/19、京都が7/27、兵庫が8/23より。
http://klimt.ayapro.ne.jp/

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