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2019年05月23日21:29

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Do you know Noh?

お能の公演は「寝てもいい」「ぼけっと観る」「拍手はいらない」!?

フォト




大阪のオフィス街・谷町4丁目にある 山本能楽堂 代表理事であり
現役の観世流シテ方である山本章弘さんのユーモアあふれるお話をききました。
(文教出版の『小学社会 6年』の表紙にちょっぴり素顔で登場されています)
以下、お話の流れのメモを。


【能とは】
名刺を交換させていただくと、
「能の役者さんですか。で、お仕事は?」とか
「どうやって食べてるんですか」ときかれます。


(山本家はもともと京都烏丸三条の有力な両替商でしたが知人の保証人となって全てを失い
大阪に移り住んで趣味だった能楽を生業としました。
山本能楽堂は現在国登録有形文化財です。)


そもそも能とは。
能楽には「能」と「狂言」があります。
このうち皆さんにポピュラーなのは狂言の方でしょうか。


狂言は喜劇のルーツともいえるもので、言葉劇です。
登場人物は太郎冠者とか大名とか一般名詞で出てきます。
「みどもはこのあたりに住む者なり」といった感じですね。
そして設定はいじめというか恥をかかす。
主人を使用人がからかうとか。


それに対して能は歌劇です。
時代に応じた特定の主役が死んでからの姿で登場したり。


狂言役者ではオリンピック開閉会式の役員もされている野村萬斎さんなど有名ですね。
私、能のシテとして野村萬斎さんと共演したことがあるんですよ。
主役は私、脇役が彼。しかし公演が終わってでていくとファンが集まるのはあちら。
まあ能は仮面劇ですからねえ。


【能の歴史】
・9世紀〜13世紀、中国から「散楽」が伝来。
 この形をいまも残しているのが雅楽や神楽。
 一方民間では「田楽」がありました。(映像)これは田植えをしている
 横で応援するように演じられている。
・それらの諸芸能が14世紀中期、室町時代中期に「猿楽」として統合されました。
 それが武家社会に流行していきます。
 神社仏閣の雑用をしながら演じ、移動する集団もあらわれます。
・観阿弥・世阿弥の出現でいっきに能は姿をかえます。
 世阿弥は将軍の稚児となり庇護をうけました。
 そこで教養を身に付け理論的にもたかまります。すり足もこのあたりからですね。
・信長の「人間五十年」という《淳盛》が有名ですがあれは幸若舞。
・それより能を発展させたのは豊臣秀吉です。秀吉は自分が演じる側になり
 そのため装束や面が豪華になりました。
 (画像)渡来人の前で《三番叟》が演じられていますね。
・17世紀、江戸時代には式楽となりました。
 (画像)それでもこの絵をみると観客は男ばかり。傘をさしているのは屋外だからですね。
・19世紀、明治時代になると庇護者は武家から商人にかわります。 
 みなさんの中にも親御さんがお謡いをされていたかたなどいらっしゃるでしょう。
 芝能楽堂といって、建物の中に能舞台が初めてつくられたのもこの頃です。
 (現在は靖国神社にあり)
・そして現在はユネスコの世界無形文化遺産になっている、というわけです。




【役】
・シテ方
 観世流・宝生流(以上上掛)、金春流・金剛流・喜多流(以上下掛)の5流派。
 主人公です。
 神、亡霊、女、天狗、鬼などさまざま。役により面をつけます。
・ワキ方
 下掛宝生流・高安流、福王流。
 このうち福王流は謡が巧く18曲の本を桐箱に入れたことが「おはこ」という
 言葉のおこりです。
 ワキは脇役、シテの思いを聞き出す役です。僧侶なども多い。
・狂言方
 和泉流・大藏流。
 滑稽劇を演じます。
・囃(はやし)方
 太鼓、大鼓、小鼓、笛、謡。
 (映像)これは地下鉄鶴見緑地線のコンコースで生の五人囃子をやっているところです。
 ええ、いろいろなことをしているんですよ。
 あ、来年のひな祭りの為に五人囃子の並べ方を覚えていただきたいんですが
 音がどこから出るかに注目します。
 向かって一番右の私・謡は口から音が出ますね。次の笛も口ですが、正確には下唇。
 次の小鼓は肩(に楽器を載せている)、次の大鼓は膝(にかまえる)、最後の太鼓は台に乗せる。
 つまり音の出る場所が高いところから低いところへ並んでいるのです。
 
楽器の説明をしましょうか。


・笛(能管)すす竹に漆を塗ったものです。それぞれ個性があり同じ音のものは2つとありません。
 舞台で使われるものはたいてい300〜400年前のものです。
・小鼓
 桜の胴に蒔絵がほどこされています。カワは子馬などの薄い皮。
 湿気を好みますので演奏者は息をふきかけたりします。
 糸をぐっとにぎると高い音、ゆるめると低い音がします。
・大鼓
 こちらは反対に乾燥を好みます。ですから演奏者は楽屋に2時間くらい前に来て
 炭火で乾燥させたりしています。それをキュウキュウに締めるとカーンと高い音が出る。
 大鼓の方が高い音なんです。このカワは10回もすると劣化してしまいます。
 1セット10万円くらいしますので1回1万円かかることになります。
 カワは馬の尻皮ですが競走馬の皮は使えない。針治療をしているので穴があいているから
 だそうです。
・太鼓
 唯一バチを使います。手に持たないで台にのせる。
「たいこもち」って言葉がありますが、台ができるまでは太鼓を持っているひとがいたからだそうです。
 カワは牛の皮。お祭りの太鼓と違って、まんなかの白いところ、ここは鹿皮が貼られているのですが
 ここしか叩けません。いいですか「ここシカうてない」。(駄洒落w)


【能鑑賞のポイント】
能を観ていると、いつはじまったのか・終わったのかわからないといわれます。
全体の流れをみてみましょう。
(映像で舞台の図と人物の動きをみせていきます)


能のはじまりにはブザーも鳴りません。
まず5色の幕のむこうから楽器の音がする。「おしらべ」です。
能では楽器のチューニングはしません。
「おしらべ」で初めてその日音を鳴らす。


・囃方の登場
松の絵の前をとおって、楽器のひとと謡のひとがでてきます。
能舞台の絵は作品と無関係で必ず松。春日大社の松ともいわれます。
神は常緑樹に宿る。鏡板といいます。
このあたりを一生懸命にみてはダメです。


・ワキの登場
脇役がでてきて(図のコマを動かしながら)ーこんなにさっさと動きませんよー
名乗り、脇座へいきます。


・シテの登場
ようやく主役の登場です。ここまで15分から25分経過している。
まあ私が(舞台から)みると、皆さんもう寝ていますね。
何故眠くなるのか?・・・非日常の音楽だからですよ。
眠くなったらどうするのか?・・・寝て下さい。
そうとう寝ても大して動きませんので見落としはありません。
ここでシテはワキと対話します。
これを聴いて理解するのはムリです。
「口伝(くでん)」で覚えましたのでやっている方もわかっていない。
感性で感じて欲しいですね。
このあたりをじーっと観ている方がいるんですけれどね、
動かないわけですよ。うたっているだけで。
これはおかしい。動かない庭の灯籠をじっと見るひとはいないでしょう?
もっとぼけっとしていてよいのです。
さて、そのうちにシテは本性を呈して退場する。


・中人、狂言方登場
・シテ、本性をあらわして(着替えて)再登場


・シテ、舞って退場
舞に意味はありません。
ここのあたりで客席からひそひそ声が聞こえます。
「終わり?」「拍手していいの?」
まだ終わっていません。囃方を含め全員が退場したときが終わりです。
ちなみに拍手は要りません。
拍手してもお辞儀もしませんし。
そもそも武士が演じるときは余計な動きは隙につながるということでNGだった。
まあ海外公演ではカーテンコールもしますが。


ぼけっと観ていても、感性が豊かなひとは楽しいのです。


【能楽師】
さて全国に能楽師はどのくらいいるのか。
1185人。
多いと思われますか?少ないと思われますか?
絶滅危惧種のベンガルタイガーが2226匹ですので、その半分です。
このうち大阪には151人がいます。
シテ103人、ワキ7人、囃14人、謡27人。


【現在の能楽】
・能は日常的な芸能ではありません。
興業性がないのです。たとえば歌舞伎の玉三郎さんが1万円のチケット代で
2000人はいる劇場で10日公演を行うと2億円。
そんなことは能ではできません。


・能は五感で感じる芸能です。
わかろうとしないでください。(五感って味覚も?筆者ひとりごと)


・能は観客に対応しません。
拍手しても無視しますし。視覚的・聴覚的な補助はありません。
まあ最近はイヤホンガイドなどはありますが
舞台装置もないので状況がわかりにくい。


・能は特殊な価値観の拠り所です。
マイクや機械は使いません。冷房やライトこそありますが、舞台については
すべて人間力でやっています。幕も人が引く。編集もない。


【山本能楽堂へようこそ】
折角ですので山本能楽堂のパンフレットも配らせていただきました。
まあ寝付けないときなどに読んでいただければ(たちどころに寝られます)。
昭和2年に祖父が創立しました。戦争で焼けて昭和25年に再建。
(映像)今はこのようにLED照明です。
「どうしてオフィス街の真ん中にあるんですか」と訊かれるんですが
オフィス街があとから出来たんですよ。
ときどき野菜を売りに来られます。料理屋に見えるんですね。
ここは楽屋。自由に使っていただいてワイン試飲会をしたり
ロータリークラブの例会をしていただいたり。
外国のかたにハラール料理をだして、そのあとちょっぴり能鑑賞をしていただいたこともあります。


・上方伝統芸能
うちの家内は京都の人間で、京都人は関西、と大阪と一括りにされるのを
いやがりますね。上から目線で。
いちど私は、「京都には神社仏閣はあるかもしれないが、大阪には古くからの芸能があって
演者が今も住んでるんだ!」と言い返したことがあります。
京都がそうならもう「上方」は大阪オンリーでいいんじゃないか。
京都に南座があっても歌舞伎役者がすんでいるわけではありませんからね。
それに対して大阪には文楽や能、講談、落語等々古くからの芸能が続いている。
折角なのでデパ地下試食会のようなことを企画しました。
しかし文楽協会はトップダウンでなかなか時間がかかる。
そこで演者を一本釣りにしていきました。
実際にやっていただいたときは大変だったと思います。
文楽を足まるみえで演じていただいた。
「足」のかたなど、下駄をはいていないからものすごく低い姿勢でやっていただいたり。


・子供向けワークショップ
・海外公演
・外国観光客のワークショップ
海外ではブルガリアやルーマニアで現地の役者さんに体験していただきました。
能はじっとしていないといけないので、何でも出来る方々には新鮮だったようです。


・能楽アプリ
フォト



全て無料です。
トランジットの待ち時間などにいいですよ〜(人が集まってきそう・心の声)
『スーパーうたい』は私の声です。


*****


お話のあとはおきまりの『高砂』の謡体験、
そしてお使いになっている面を幾つかみせて下さいました。
軽い。桐ですからね。
演者からみると、博物館にはいってしまう面は動かないので残念だそうな。
そして保存上飾っておくことはできないが、かといって
銀行の貸金庫に入れたら密封されるのがよくなかったとも。

『葵の上』の『六条御息所』は美しいけれど眼もはぐきも妖しの金色。
フォト





http://noh-theater.com/

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