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2017年10月27日00:45

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古井由吉、又吉直樹 対談を読む



暗闇の中の手探り


古井由吉、又吉直樹 対談    2017年 1月27日

雑誌 「新潮」 2017年 6月号  P168−180

対談の区切りは次のようになっていた



・見えない読者・観客を相手に

・音律に触れられるかどうか

・この絶望も繰り返している

・過去に回帰しながら前に行く

・小説の面白さは破綻の面白さ

・知らないことを書くという矛盾

・うまい小説を書かなくてはいけないのか



注として、この対談は2017年2月26日放送のNHKスペシャル、「又吉直樹 第二作への苦闘」で一部放送された対談の完全版、とあった。

 

この対談を読もうと思ったきっかけは丁度今古井由吉の作品集「鐘の渡り」2014年、でその表題作を読んだところだったからだ。 古井の作品には70年代から眼を通している。 80年にオランダに越してくるときこれからもまだオランダでも読み続けて行こうと思っていた作家が三人いた。 中上健次、大西巨人と古井だった。 中上と大西は既に物故して古井だけがまだ健在で活動している。 力を入れて読んだのは90年頃までだっただろうか。『椋鳥』1980年 、『親』1980年、『山躁賦(さんそうふ)』1982年、『槿(あさがお)』1983年、『明けの赤馬』1985年、『眉雨(びう)』1986年、『夜はいま』1987年、『仮往生伝試文』1989年などが思い出される。 それ以後も読んだことは読んだのだがそれは文学雑誌に掲載された短編で古井の諸作品の例に漏れずそれがのちに作品集となって出ることから、作品集が出た時にはそれまでにどの作品に眼を通していてどれにはまだか分からなくなっており、自分が力を入れて読んだ80年代の諸作品の熱気も収まり自分も肩の力も抜けたような気にもなって、それにまた古井の世界に対峙するには自分の集中力も鈍りがちだったことから眼を通すこともまばらになっていたのだった。 最も力の入った野心的とも実験的とも日本語の可能性の極みをこころみたような文体の『山躁賦(さんそうふ)』に触れてからは古井の諸作品は本対談で語られるように作家として継続的に幾つものピークを維持していく営為に感じられるのだ。

又吉の作品は芥川賞受賞作を読んだだけだ。 そのときの感想を下のように記している。

https://blogs.yahoo.co.jp/vogelpoepjp/64912372.html

この対談時には又吉は第二作目を執筆中でその後文学雑誌に「劇場」として発表されているのをその目次に見た。 けれどまだ未読であり、当分の間読む予定はない。 本対談では多くを期待しなかった。 それはやっと歩き出した赤子を眺めそれを愛でる老人との接触というふうに感じていたせいでもあるだろうし実際、そういう部分が多いと感じたのは又吉の地味な性格がそういう風に大人(たいじん)にたいする態度に現れているようでもあり、どれほどこの大人から文章談義が引っ張っりだせるかというところに多少の期待もあったのだがそれはなかった。 長い作家生活をどのように過ごしてきたかそれを歩み出した青年が聴き訊ねるという体裁であるから自然とゆったりしたものに成らざるをえず、そこには鋭く研ぎ澄まされたものを期待すること自体が今の両人に期待しても無理というものだ。 70年代初め古井が作家活動を生活を賭けて始めた時の原稿料が100枚書けばそれで二か月暮らせて、というところに今から考えるとなんとゆったりとして恵まれていたものかということも語られる。 作家の世界も自分が商社で働いていた70年代後半とも比べて、特に今の若者の収入、その使い方の比較をみるとそれが納得できるようで、当時と比べると一層文学というものがそれだけで喰えないものになっていることを身につまされるようにも感じたものだ。 けれど一方、当時古井のエッセイか何かで読んだことでは、自分の作品を出版社の一室で校正している時、周りが毎週2百万部も印刷される漫画週刊誌の中でその物量に何ともいえないものを感じたというところに驚いたものだ。 自分の作品、6000部のためにする営為はこの圧倒される毎週200万部の中で些かの無力感を誘うものだと述べられていたことだ。 文学はその当時以上に周縁に追いやられている。 空疎な出版物で溢れている今の書店を眺めているとそれを実感する。

そんな中で二足の草鞋を履きつつ文学を志す又吉に暖かい眼差しを送る古井の好々爺ぶりの陰にまだ潜む気力を感じ、次のピークを期待しつつ書庫に入り「仮往生伝試文」を手に自室に下り、次に再読することに決めて本棚にそれを立てた。
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