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2015年06月16日07:05

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【バレエ】Kバレエ「海賊」(14日)

後半戦のゲストは、ボリショイの名花、
ニーナ・アナニアシヴィリさん。
現ジョージア国立バレエの芸監である。
(トビリシ・バレエ学校の芸監も兼任)

指揮は井田さん。
今回もオケともども良い仕事をしてくれた。
目だったミスもなく、迫力も十分で、
音楽と、踊りと、舞台美術の三位一体を
具現化してくれた。

先週は、新国と東バの公演もあり、
我が師は東奔西走されていたが、
新国の「白鳥」初日、東フィルは、
テレビ・カメラが入っていたにもかかわらず、
やらかしてくれたそうな。

私の観た東バ「バヤ」の東京シティは、
肝心なところでミスった奏者もいたが、
総じてはまあまあの出来だった。

それにしても、
Kの踊り手たちは、平均値が高い。
新国、東バとも、ファースト・キャストの布陣であっても、
私の個人的尺度では、
プロ・ダンサーと言うにはレベルの低い人と、
上手い人が混在する、という印象がある。
セカンドともなれば、下手な人の混入率はさらに増す。
しかしKは、素人的な動きをする人は皆無で、
セカンドになっても印象はあまり変わらない。

先の日記では、ゲストの中村さんを、
Kのトップ・ダンサーと同等扱いしたが、
これは彼女が知名度ほど上手くはない、
ということではなく、Kのレベルが高い、という意味。

あとは、観る者を圧倒し、
舞台に引きずり込むオーラを備えた、
世界級のプリンシパルが誕生すれば、
熊さんも安心して監督業に専念できるだろう。

幕が上がると、
3つの驚きが観客を待ち構えていた。

ひとつは、ギュリナーラ役の小林美奈さん。
昨年8月に入団したばかりのアーティストで、
高校時代にワガノワへ留学し、
卒業後はロシアのローカル・バレエ団に1年在籍、
次いでポーランドの国立バレエ団に3年、
という経歴を持つ20代前半の若手。

K初舞台は「カルメン」(10月)のジプシー群舞で、
冬の「くるみ」配役表には名前はないが、
今年3月の「シンデレラ」では、
仙女とティーカップを務めている。
仙女は残念ながら観損ねたが、
ティーカップを観て、彼女の名前を正式に、
「お気に入り候補リスト」に載せた。(笑)

そして今回は、仙女に続く抜擢だったが、
拍手の大きさが舞台の出来を物語っていた。
いまどきのスタイルに愛らしいかんばせ、
しかもワガノワ仕込みの上体を大きく優雅に使う踊り。
遠目にもはっきりとわかる、
鋼のふくらはぎから予測したとおり、
ためらいも揺るぎもない精確なステップワーク。
もしかしたら、次世代ヒロインお披露目の日に、
私は居合わせたのかもしれない

二つ目の驚きは、ニーナさんのお腹。
1幕の女性陣の衣装は、
ハーレム・パンツと胸の間を半透明の布でつないだ、
見た目セパレートなので、
ウエストのラインが明瞭にわかるデザインなのだが、
腰回りの皺は、ぜったい中身も詰まっている。

欧米人に多い円筒形の胴体全体が、
「バレリーナとしては太い」ではなく、
一般人の中に入っても、
中年だから仕方ないよねえ、というボリューム。
(彼女は都さんのひとつ上の51歳。
・・・えっ!? 都さん、50歳???!)

ニーナさんの微笑みを呆然として眺めながら、
さまざまな考えがぐるぐる廻る。
芸監の仕事が忙しすぎて、調整を失敗した?
つまるところ客寄せパンダで、
彼女のファンをKに呼び込もうというのが本来の目的?
いやいや、ニーナさんのファンは納得しても、
彼女を知らない観客はどうなる?
普通のバレエ・ファンが少ないKの観客は、
「なにあの太目のおばさん?」
と、絶対思っているに違いない・・・。

そして3つ目の驚きは、
そんな体形にもかかわらず、
ニーナさんが「普通に」踊っていたこと。

いや、それでは彼女に失礼だな。
腕使いをはじめ、身のこなしは、
レベルの高いKの踊り手たちの中にあってなお、
いちばん美しい。

こうなると、
次に心配なのが跳躍、回転系と持続力だが、
プリセツカヤさんやコルパコワさんのように、
アラフィフティで全幕をこなす人もいれば、
豊橋の不思議ちゃんペアのように、
バレリーナらしからぬ体形にもかかわらず、
ふつう以上に踊ってみせる人もいる。
期待半分、不安半分でその時を待つと・・・。

軽快な「鉄砲の踊り」に続き、
ハープが「洞窟のトロワ」の前奏部を奏で始める。
彼女の来歴を知らない者はまだ半信半疑で、
ニーナさんファンは手に汗握り、
祈るような思いで舞台を注視していたに違いない。

前半の美しいポージング、なめらかで優雅な動きに、
まずは胸をなでおろす。
パを省いたり、振付を簡略化してもいない。
足音も、静かなKのダンサーたち以上に静かだ。
余分な動きはいっさいなく、時間を余らせたりもしない。
これだけでも、若手たちには良い勉強になっただろう。

だが、初見の観客たちは、まだ納得していないはず。
お願いします、神様、ニーナ様・・・。

パック、くるみの王子、シンデレラの王子と、
順調に大任をこなしてきた井澤くんが、
大きな拍手をもらい、
いよいよ彼女の最初のヴァリエーション。

音符のドレスをまとったニーナさんの動きは軽快で、
足さばきにもキレがある。
笑顔を振りまきながらの回転も、
軸は微塵もぶれず、速度も速い。
流れるようなピケターンを平然と、美しく、
大胆にこなしたニーナさんは、
ピタリ! と気持ちよく制止すると、
下手手前でにっこりほほ笑んだ。

その瞬間、観客席が「爆発」した。
我に返ったとは、この時のような状況だろうか。
熊さんへの賞賛で慣れているはずの、
周囲のKのダンサーたちも驚く大きな拍手と歓声に、
ニーナさんも満足気な笑顔。
井田さんも、しばし指揮棒を止めるが、
拍手は止みそうもないので、次のフレーズを始めた。

コンラッドのヴァリは
「ぶんちゃっちゃ」の三拍子だが、
登場した遅沢さんは、
怪我? なんの話かな? と言わんばかりの、
舞台を大きく使ったダイナミックな踊り。
「ぶんちゃっちゃ」の「ぶん」に烈迫の気合いがこもり、
観客も拍手でこたえる。

ファンファーレ風のイントロに続き、
井澤くんが勢いよく、高々とジャンプして登場。
最初のパートより、明らかに勢いが増している。
2人ともニーナさんへの拍手に当てられたのか、
それとも彼女の踊りに共鳴したのか、
舞踏家の本能に火が点いてしまったようだ。

ニーナさんの踊りを観ているうちに、
なぜかうるうるしてしまったのだが、
続く2人の気迫の踊りにも、またまたうるうるしてしまった。

井澤くんの大回転に続くニーナさんのフェッテは、
シングルで通したものの入りは3回転。
ポワントの上げ下げもリズミカルで滑らか、
安定感も十分で、余裕すら感じられる。

仕上げの井澤くんとニーナさんの回転合戦、
遅沢さんも合流しての〆のポージングに、
再び井田さんも休憩タイムを余儀なくされる。(笑)

割れんばかりの拍手と声援は、
カーテンコールでも繰り返され、
客電が明るくなっても鳴りやまず、
「もうオシマイ!」のアナウンスが入るまで続いた。

力配分のわからない若手は、
全幕の終盤は汗だくになり、息も上がり、
あきらかに力を使い果たしてしまうが、
この日のニーナさんは最後まで変わりなく、
(若干疲れた感もなくはなかったが、顕著ではない)
息も上がっていなければ、大汗もかいていなかった。

視覚情報も重要なバレエにおいて、
あのウエストは減点以外のなにものでもないし、
過去を知る者としては、衰えもたしかに感じたが、
熱狂的な拍手や歓声の発生範囲が、
時を経るごとに拡大していったことから推して、
あの場にいたのは、
彼女のコアなファンだけではなかったはず。

しかし終わってみれば、観客の大部分が、
彼女のオーラに魅了され、虜となっていた。
これが超一流と言われる踊り手の真の力であり、
熊さんが若い踊り手とバレエ観覧の初心者たちに
伝えたかったものだろう。

ぜひまた日本に来てください、バレエの女神さま。

・・・でも、その時はもう少し、
ウエストを絞ってくれると嬉しいです。(笑)
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