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2024年05月14日02:23

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こんな映画を見ると、娯楽映画を作るにはしっかりした倫理観が必要だと痛切に感じます。ダグ・ライマン監督「ザ・ウォール」(2017)。

イラク戦争が終盤にさしかかった2007年を背景にした、狙撃兵同士の戦いを描いた戦争アクションです。今回は、砂漠地帯にあるパイプライン建設現場からの連絡が途絶えたため、狙撃チームの2名が派遣されたというところから始まります。狙撃手のマシューズ(ジョン・シナ)と観測手のアイザック(アーロン・テイラー・ジョンソン)の2名です。

この冒頭、目的地を安全な場所から観察して20時間になろうとしている場面から始まり、死体しかいないと判断してマシューズが動き出します。しかし敵の狙撃兵がそれを待ち構えていて、マシューズが撃たれ、助けに駆けつけたアイザックも脚を撃ち抜かれます。それでいて敵の居場所が特定できない、というサスペンス劇でした。

つまり真っ向から狙撃兵同士の戦いが展開する映画で、この2人以外登場しないという興味深い設定の作品でした。そして狙撃されたアイザックは、当然のように緊急無線で基地に救助を申請するのですが、途中から会話に入ってきた声に対し“?”を感じます。声の主は、アイザックがどのような人間なのか、しつこく細かく聞き出そうとするのでした。

こう書くと、なかなか良くできた戦争サスペンスだと感じる方も多いでしょう。僕もそれを期待して見続けました。ところがぎっちょん、そう簡単に“戦争サスペンスの傑作”は生まれません。たとえば2人の米兵のうち、当然主人公だと思われるマシューズが、簡単に撃ち倒されるわけです。そして正体不明の(というか間違いなく敵です)相手と無線交信を続ける。

でもって、アイザックが独りでは危険だとなると、撃ち倒されていたマシューズがむっくりと息を吹き返します。こういう安易な作劇をする映画は信用しないほうがいいですね。おまけにアイザックのトラウマみたいなものを、中盤以降に吐露させたりする。舞台劇ならともかく、狙撃そのものを売りにした戦争映画でこれはイケマセンのイケマセンです。

ということで何が一番いけないのかと言うと、見終わってカタルシスがないことです。もちろん戦争映画で、それもアメリカがブッシュ政権関係企業の利益のために起こした勝手な戦争ですから、アメリカ軍側にカタルシスがなくてもいいけれど、さりとて戦争そのものを否定するほどの主張も感動もないのです。要するに、ショボイ映画でした。

もちろん狙撃兵の活躍をカッコよく描けなどとは言いません。しかし映画として、ドラマとしての結末の快感・満足感は必要だと思う。映画監督全員にキンバリー・ピアースみたいに戦争と向き合えとは言いませんが、軽い気持ちで戦争を描かれたくない。←すでにクリント・イーストウッドが「アメリカン・スナイパー」で過ちを犯してますがな。

何よりも僕には、アメリカ軍の通信装置をちょうだいしたイラク軍の狙撃兵が、いくらアメリカで訓練を受けたと設定しても、途中で訛りに気づくくらいなら、初めから気づくんじゃないのか?ということなんです。もしかして反米思想に入れ込んだアメリカ兵がいたのかもしれんけどね。

ということで、せっかく良い設定で滑り出しながら、そして90分に満たない適度な長さでありながら、いささか切れ味の乏しい戦争サスペンスでした。それでも、そこそこ面白いから、こういう映画が一部で受けることを僕は知っています。いずれ“知る人ぞ知るカルト作品”として祭り上げられるかも。

しかし、良い子は手を出さないようにね。こういう映画に入れ込んでいたら、たとえ103歳まで生きたとしても“無駄な人生”だったことになってしまうよ。←そうなりたくない本人が言ってるから間違いありません。サイナラ、サイナラ、サイナラ…。
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