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2024年03月20日15:37

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【バレエ】スターダンサーズ・バレエ「オール・ビントレー」(16日)

珍しいもの観たさに初台まで散歩をしてきた。左右の見切れが大きい欠点を除けば、客席の傾斜が強い中劇場はどの席からでも観やすいのでオペラ劇場より好きだし。それにしても、表題のような公演をうつとしたら新国だと思っていた。ビントレーさんとスタダンは、いつからどのような関わりがあるのだろう。

公演の概要発表後も演目が変わったり配役も変えたりと若干の紆余曲折があって、最終的には次の3演目になった。また指揮は田中さんだが、演奏はテアトロ・オケではなく東京シティ・フィル。ただし弾き慣れていない曲だったのか、破綻はしていないもののちょっと微妙な演奏だった。

★Flowers of the Forest

1985年にバーミンガム・ロイヤルで初演された時は12分程度の小品だったが、その後後半パートが追加されて現在の形になったという。前半は男女3ペア、後半は群舞も加わり、ともにスコットランドにちなんだ曲が使われ、スコットランドの歴史の一部をイメージしているとのこと。前半6人の衣装はキルトの模様をモチーフにしているそうな。

スタダンでの初演は2017年とのことで、その後何回上演されたのか、経験者は何人なのかは不明だが、踊り出しは皆緊張していたらしく萎縮した動きだった。けれど次第にこなれて踊りものびやかに。2日目はどうだったのだろう。

★The Dance House

中世の「死の舞踏」から発案し、タイトルも中世の詩から得ている、とビントレーさん。音楽はショスタコーヴィチのピアノ協奏曲1番。サンフランシスコ・バレエのために振り付けられたもので、初演は1995年。今回はスタダンはもちろん、本邦初演でもある。

衣装のデザインは現代のドガことロバート・ハインデルさんが手がけているが、彼はビントレーさんの長年の友人だったそうだ。なお3月18〜30日、渋谷でハインデル展が開催される。
https://www.art-obsession.co.jp/exhibitions/

この作品も30分ほどの小品だが、ダンサーたちは休む間もなく踊り続けるハードな内容。各演目の合間に20分の休憩があるのは、観客のためというよりもダンサーたち自身のためなんだな。(笑)

★雪女

ビントレーさんがスタダンのために創作した作品で、今回が世界初演。音楽にはストラヴィンスキーの「妖精の接吻」が用いられている。物語はもちろん小泉八雲の有名なお話。最初は日本人なら誰でも知っている、と書きかけたが、Z世代たちも知っているのだろうか、と不安になったのでやめた。(笑)

感想をまとめていると、ふと気になったのが新制作した理由。プログラムや公式サイトを見なおしたが、「世界初演」は強調していても、いまなぜこれを創ったのかについての言及はなかった。どうしてそれが気になるのかと言うと、ここは毎年のように新作を発表するKのような体力のあるバレエ団ではないから、何かのアニバーサリー的な意味合いがあるのでは、と思ったからだ。

仕方がないのでウィキったところ、一応創設は1965年とあるが、続く解説や注記を読むと、声を大にして「この年に生まれました!」とは言いづらい理由もあることがわかった。(笑) そしてバレエ団の歴史的には1964年に上演された「スター・ダンサーの競演によるバレエ特別公演」がひとつの道しるべで、そこから数えると今年はちょうど60周年となる。

ビントレーさんと言えば、新国ファンたちは「ちょっと詰めは甘いけれど、面白い物語作品を創る人」というイメージを持っているようだが、お師匠さまによれば、「Flowers of the Forest」「The Dance House」のように、ラストに向けて怒涛のように盛り上げていく踊り主体の作品にこそ彼の真価があるという。実際今回の「雪女」は、なるほどと思う演出もあったけれど、ビントレーさんらしくいろいろツッコミを禁じ得ない作品でもあった。(笑)

1時間強、1幕複数場の作品で、物語は主人公・巳之吉と、その師・茂作が吹雪の山中をさまようところから始まる。このままでは遭難してしまうと山小屋に避難したものの、茂作は操られるかのように再び外へ出て、そのまま果ててしまう。

一方寝ていた巳之吉は、何者かの気配に目を覚ますと、そこには白装束の美女が。まだ若い彼を殺すのを哀れと思った雪女は、私の事を生涯他人に話さないと約束すれば、今は見逃してやる、とささやいて去って行く。吹雪を群舞で表現したり、山小屋の境界を示す柵を移動させるだけで小屋の中と外を切り替える演出は上手い。

場面は数年後、畑仕事をしていた巳之吉は、道に迷ったという色白の美女・お雪と出会い、互いに惹かれ合った2人は夫婦となる。この場面の冒頭、上から大きな梅の飾りが降りてきて季節を表現するが、巳之吉母子とともに登場する村人の女性群舞の衣装は、どこの海女かと問いたくなる和装ミニ姿。梅の咲く季節にそんな恰好をしていたら風邪じゃすまないぞ、と心の中で突っ込んでいると、お雪に不穏な気配を感じたという長老も登場するが、長い杖を手にしたローブ姿の彼は魔法使いか紅海を渡るモーゼにしか見えない。(笑)

美術は新国の「アラジン」や都版「ジゼル」、熊川版「バヤ」も担当したディック・バードさん、衣装デザインも外国人デザイナーだから仕方がないけれど、お雪が旅装束の長羽織を脱ぐと下は梅の花をあしらったワンピースで、その後も梅が彼女のイメージ・フラワーだったり、巳之吉の子供が手にするお気に入りのおもちゃが終始鯉のぼりと、季節感や衣装デザイン、もう少しなんとかならなかったのだろうか。

日本をイメージした出来合いの作品を持ってきたのなら、インドの人たちも同じような気持ちで「バヤ」を眺めているのだろうな、と生暖かく見守るが、今回の作品はスタダンのために新たに制作したものなのだから、小山芸監をはじめとする日本人関係者は何をしていたのだろう。ビントレーさんがテレビ局の脚本家のような傲慢な人だったとは思いたくないのだが。

群舞の見せ場としてお祭りシーンを挿入したり、お雪が正体を明かす場面では吹雪ではなく障子に雪女メイクの顔を徐々に大写しにしていく、彼女は子供を巳之吉に託すのではなく連れて去って行くなど、原作とは違う演出もあって、それはそれで良いと思うし、それ以外の展開は奇をてらうことなく直球だったから初見でもすんなり物語世界に入ることはできる。しかし観終えたあとの印象は、巳之吉視点の物語をただなぞっただけの感が強く、感動は薄かった。

思うに、雪女/お雪の心の動きが積極的に表現されていなかったからだろう。雪女は巳之吉に一目ぼれしたから命は取らず、彼を忘れられずに村まで追ってきて、夫婦になるほどの想いを巳之吉に抱いていた。巳之吉は巳之吉で、初めて雪女と出会った時は恐怖よりも彼女の美貌に見惚れ、お雪と添い遂げたのは彼女に雪女の面影を認めたからで、子をなしてなお、雪女との想い出を大切にしていた。

「雪女」は著名な古典バレエにも負けない恋愛要素満載の良質素材なのだから、2人の感情の交錯をもっとドラマティックに描いていれば、より印象的な作品になったことだろう。
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