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2022年08月26日15:43

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【バレエ】キエフ(キーウ)・クラシック・バレエ「白鳥の湖」(8月24日)

前回は2019年の夏だから3年ぶりの観覧。公演名に「キエフ」と併記されているのは、元々この公演は2020年に予定されていたもので(当時はまだ「キエフ」と表記)、リセットではなく延期だったから。一応バレエ団側の了承も得ているという。なお前回の舞台の様子はこんな感じ。
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ほぼ1週間外出を控えたこともあって体調は問題無し、二重マスクも慣れればどうということはない。アルコールを仕込んだアトマイザーも使い馴染んで久しい。新しいカーナビは性能の向上したVICSとのマッチングも申し分ないようで渋滞に出会うことも無く、事前に確認した通り駐車場はガラガラだった。

生のバレエ観覧は、7月のウクライナ国立(八王子)とフィールド・バレエ(清里)に続くものだが、上野に出向いてとなると、2年半前、奇しくもコロナ前最後に観た日本バレエ協会の「海賊」以来。変わらない箱内外の雰囲気を感慨深く眺めていたが、飲食のサービス・カウンターはまだオープンしておらず、観終えて外に出れば駅に向かう来館者の動線が南ではなく北に向かうのが新鮮だった。


舞台上の様子に限って言うならば、それまでの印象が大きく変わることはなかった。でもウクライナが置かれている現状を思うと、ダンサーたちが戦争前の力量を維持しているというのは凄いことではないだろうか。ロシアの侵略開始から半年。彼らはどこで何をしていて、日本へ来るまでにはどのような苦労があったのか。プログラムには、短いながらもそのことについて触れたソロヴィオワ・バレエ団総裁の文が掲載されていた。

日本ツアーの再始動が決まると、10以上の国に避難していたダンサーたちはネットや電話で情報を交換、来日が迫るとポーランドに集合してリハーサルを実施。本国で行わなかったのは、劇場の多くは被害を受けており、しかもロシア軍は人の集まる場所を意図的に攻撃してくるからだという。戦争前は空港まで1時間もかからなかったのに、出国や舞台装置の輸送はバスで2日もかかるポーランドを経由しなければならなかったそうだ。

またウクライナ国内の日本大使館は閉鎖されているから、ビザを得るにはワルシャワの在ポーランド大使館まで行かなければならず、日本へ渡るには3回目のコロナワクチン接種が必要だったが、国内の病院の多くがロシア軍のミサイルで破壊されていることから、それすら大変だったという。

なお、ツアー実施に際して陰には日本人関係者のさまざまな努力があり、そのことへの感謝も記されている。


ここの「白鳥」はコフトゥン版とのことだが、正しくは本国版の(時間・人数)縮小版だろう。時間は正味1時間50分しかなく、あちこちちまちまと省かれている。初めてここの舞台を観た人は群舞の少なさに驚き、戦禍の影響で集まれなかったのだろうかと心配したかもしれないが、人数が少ないのはコロナ前から(本国で撮ったと思われるプログラムの写真には、もう少し多く映っている)。でも知った名前の人がいないと、どうしても最悪の事態を想像して胸が痛くなる。

ちなみに湖畔の群舞は14人しかおらず、両翼に5名ずつ、+4羽の白鳥を配すると大白鳥が足りない。どうするのかと思ったら、両翼最奥がさりげなく姿を消し、改めて大白鳥として登場する。

オデット/オディールは、リュドミラ・ウランツェーワさん。手足と首の長いいかにもな美人で、力量は長澤さんの方が上だが、見栄えはする。またハードなツアー・スケジュールに配慮してか、オディールの32フェッテまではセーブした感じだったが、客席の熱狂的な拍手にスイッチが入ったようで、フェッテ後の方が動きに迫力があって良かった。(笑)

このほか印象に残ったのは、道化とナポリを担当した北口雅人くんと、名前不詳のジークママ。北口くんはコロナ渦中の2020年に入団した若手で、体形は王子タイプではないが、逞しい太ももから期待させるキレのある踊りは大きな拍手をもらっていた。

バレエの王妃様の例にもれず、ジークママはひときわ目を引く美人だが、印象的だったのはその演技。クロスボウを貰って子供のように喜ぶ王子を見ては満足そうに微笑み、王子が姫様たちにダメ出しするとキレて怒り出す。慣れ慣れしいロットバルトには不機嫌を隠さない、観ていて飽きない王妃様だった。

普段は親子連れが多い客席には高齢の男性客が目立ち、ウクライナの国旗を掲げた人にはちょっと引いたが、意図的か偶然か青や黄色の小物を身に着ける人もけっこういて、私も上着の胸ポケットに青と黄色のハンカチをねじ込んだ。休憩時間や帰り際に聞こえてくる感想からすると、バレエを観慣れていない人も相応にいたようだが、これを機会にバレエに興味を持ってくれると嬉しい。


mixiのウクライナ関連ニュースには何故か反ウクライナな連中が粘着しているが(他のニュース・サイトを見ている人の方がまとも)、とりあえず他人の意見にも等しく耳を傾けることにしているので、知り合いの専門家に「こんなことを言っているのがいるけど、どう思う?」と水を向けてみたら、鼻で笑っていた。(笑)

今回の主役を務めたウランツェーワさんはキーウ・オペラ劇場バレエ団の人ではなく、ロシアに尻尾を振るベラルーシのバレエ団からのゲスト・プリンシパルだった。国籍はベラルーシでも、両親のどちらかはウクライナの人なのだろうか。ウクライナの東部に住む人々の多くはロシア語をしゃべるから実質ロシア人、とドヤ顔する人もいるが、ウクライナ人の多くはその歴史的経緯からロシア語も話せるバイリンガルで、状況に合わせて日常的に使い分けているそうだ。

先日のシェフチェンコ公演では、「白鳥」「眠り」「くるみ」の上演は避けていた。チャイコフスキーと言えば、西欧に後れを取っていたロシアの音楽を世界レベルに引き上げた、いわばロシア音楽界の救世主で、ロシアを象徴する偉人のひとりだから仕方がないのだろう。

にもかかわらず今回インプレサリオ東京が「白鳥」を強行したのは、公演表記同様チャイコ3大でチケットを売っていたからだが、当然許諾も必要で、バレエ団側も上演を認めたことになる。改めて「白鳥」を聴くと、やはりチャイコフスキー、好きだなあ、としみじみ思っていたら、プログラムに載っていたボロヴィーク芸監の言葉がすとんと心の中に納まった。

「チャイコフスキーはどこかの国だけの存在ではありません。この世界が誇る、かけがいのない存在なのです」

余談だが、チャイコフスキーの曾祖父、ひいじいさんはコサックの出身で、苗字はウクライナに伝わる「チャイカ」だったが、爺さんの時に「チャイコフスキー」に改めたのだとか。


彼ら彼女らのツアーは、10月1日まで続く。
https://impres-tokyo.com/event/キエフ・クラシック・バレエ2022/


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