mixiユーザー(id:6327611)

2022年07月05日05:11

55 view

2時間39分は長いけど、この電気紙芝居によるタイムマシンは楽しめました。バス・ラーマン監督「エルヴィス」(2022)。

僕はバス・ラーマンという監督さんが嫌いなので、この映画を見なくてもいいと考えていましたが、たまたま株主招待券が通じる映画館で上映したもので、それならばと出かけました。連続猛暑日もストップした(と言っても32度C)し、渋谷まで往復すれば1万歩近く稼げるし(実際は9700歩=笑)。

物語は、“史上最も成功したソロ・アーティスト”のデビューから亡くなるまでを、キー・パーソンだったトム・パーカー大佐(トム・ハンクス)との関係を中心に描きます。晩年のラスベガスのホテルにおける豪華ディナーショーから、サン・レコードでデビューした時代へと遡るという展開でした。

僕にとってエルヴィスは、熱心に聴いたことのないアーティストです。CDもベスト物をいくつか持っている程度(出演映画のDVDはほとんど持ってますけどね)。とはいえ、「エルヴィス・オン・ステージ」が1971に日本公開されたとき、大阪のOSシネラマ劇場で見ています。さらに1973年1月14日(翌日の15日は成人の日で祭日)にハワイから衛生中継されたステージのもようが、放送からわずか1か月後に実況録音盤LPとなって店頭に並び、当時レコード会社にいた僕たちは度肝を抜かれたものです。

そんな自身の記憶と、この映画はなかなか見事にリンクしました。バス・ラーマンのチョコマカしたうるさい編集も、僕自身はエルヴィスのファンではないから気にならない。←そもそも使用される歌は本当にエルヴィスの歌声だったのか?と思っています。僕は映画用に収録したものとばかり思っていましたが、エンドクレジットを見ていたら“Performed by Elvis Presley”との表記がずらりと並んでいたもので。

僕は当時の情景と映画内の情景が違うなどとグーフを並べ立ててとやかく言うつもりはありません。ラスベガスでエルヴィスが定期的にディナーショーを行っていた時期に、ホテル・ベラージオは出来てないけれど(1998年完成かな)、グレイスランドの自宅にメッサーシュミットの小型車が置いてあるだけで堪忍してあげます(笑)。

何よりも懐かしかったのが、ディナーショー開幕のテーマ曲として“2001年のテーマ”(命名はラジオ関西の御大末広光夫さん)が流れるところ。バンド演奏だからキューブリックの映画とは比べ物にならない“厚み”なのですが、そのバンド演奏ならではのチャチな音質が、“あ〜、これこれ”と感じさせてくれました。ヒューマントラスト渋谷のスクリーン1で見たのですが、初めてオデッサという音響システムに納得しました(笑)。

つまりデビューステージの時に、ハウリングやノイズが乗るあたり、とてもアクチュアルだったのです。一方で、ブラック・ミュージックが圧倒的な歌声で鳴り響くし、その演奏が極めてタイトで心地よい。僕は当時、あのタイトな感覚が窮屈だったのだと思い出しました。←ややあって、テンプテーションズらによるディスコ調楽曲に大いに傾倒しましたけど。

てなわけで、たった42歳でこの世を去ったエルヴィスの物語にはさほど惹かれません。ましてトム・パーカー大佐がどれだけエルヴィスを搾取していたかについても興味がない。コテコテのメイクやCG処理で、そっくりさんショーを見せてほしいわけでもないのです。そういう意味で、今回の電気紙芝居による慌ただしい展開は、僕にとってよかったと思います。

ここからはネタバレになりますから、未見の方は読まないでください。とはいえ、伝記映画なんだから、エルヴィスを知る人にはネタバレでもなんでもないかな。つまりラストに、エルヴィス最後のステージの映像が映し出され、ぽっちゃりと太ったエルヴィスがステージを務めているわけです。その映像と歌声については、まさにこれぞホンモノ、という印象でした。

かくて2時間半の大作はエンドクレジットを迎え、エルヴィスの楽曲をコラージュした音楽が流れる中ロールアップします。そのきらびやかな色彩感覚は、まさに当時のラスベガスそのものという印象でした。←21世紀初頭のラスベガスしか知らんけどね。

僕が夏休みを利用して出かけたラスベガスでは、マライア・キャリーのショーがあるはずでしたが、たまたま僕が行った前後に彼女は夏休みを取っていました! それに比べるとエルヴィスのファンサービスぶりには頭が下がります。というか、文字通り身を粉にして(命を削って)ファンのためにステージを続けていたのでしょう。

そんなエルヴィスの生涯を見せられたら、“あの足クネクネのセクシーダンスは、フォレスト・ガンプが教えたものなんだだぜ”なんてウンチクを口にするのも恥ずかしい。そのフォレスト・ガンプ役者がエルヴィスを搾取してたのだから世話ないか。ただ、女性観客たちがヒステリー症状を引き起こす場面は、あまりにも即物的でつまらなかった。あんな説明はパスして当時の騒乱を体感させてくれ、と思います。

ということで、エルヴィスの音楽に関しては「マン・イン・ザ・ムーン/あこがれの人」(1991)の“ラビング・ユー”さえあればいい僕でも、愛しのドロレス・ハートと再会するために「闇に響く声」(1958)でも見直そうかなと考えています。やはり映画は、タイムマシンなのでした。
3 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2022年07月>
     12
3456789
10111213141516
17181920212223
24252627282930
31