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2022年01月31日09:20

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【バレエ】Kバレエ「クラリモンド」(楽日配信)

これだけ注意されているのに、ブラボーマン、くたばれ。(怒)

例によってハンズフリーにしたスマホを傍らに、お師匠さまとオンライン鑑賞会。劇場の臨場感と迫力は再現できないが、自由気ままに観られる配信にはまた違った良さがある。どちらか一方ではなく、今後も両方やって欲しい。

と言うと劇場にお客が来なくなることを懸念する人もいるが、それは配信をライブにこだわるから。好きな時に何度でも観られるのがアーカイブ配信の長所、劇場に足を運び、舞台に感動した人の多くは配信も観るだろう。まさに一粒(一公演)で二度美味しい(一舞台の収入が増える)。

公式サイトには公演の基本情報(あらすじや振付の特徴、特筆すべき踊り手)をきっちりまとめ、追加情報をSNSで流す、というのが王道だと思うが(K以外のバレエ団はみなそうしている)、チケット購入はサプライヤーのサイトからになるから、公演情報が欲しい人はSNSしか見ず、バレエ団の公式サイトを見る人は存外少ないのかもしれない。そう考えれば、やる気のないKの事務方の態度もわからないではない。でも本当にそうなのか?(笑)

★「Simple Symphony」

2013年に初演された熊さん振付の小品。今回は何回目だろう。長年Kバレエの作品を観続けている人はもう気付いていると思うが、熊さんの踊りの振付は良く言えばシンプル、悪く言えばワンパタなので、上手い踊り手を集めないと途中で飽きてくる。(笑) 範を取ったであろうバランシン作品の方が動きの種類は多彩だ。

今回はK最盛期のベストメンバーとまでは言わないが、腕達者たちを集めたのでそれなりに楽しめた。

★「Flow Route」

熊さんの片腕? 渡辺レイさんの作品で、初演は2018年、今回は2度目で、若干手の入った改訂版らしい。

冒頭、机を使った男性群舞はさしづめ酔っ払いのどんちゃん騒ぎ(笑)、でも音楽はクラシックというギャップが面白い。ムーブメントは苦手なコンテだが、振付が賑やかなので飽きさせない。

主役は飯島さんと山本くんで、周囲に上手い人を配しているから、飯島さんについてはまた残念感想になってしまうのだろうかと思ったら、意外と楽しめた。相方が体の柔らかい山本くんだから、彼と比べてしまうと背中の硬さが目立ってしまうが、実力不足を痛感して鍛錬したのだろう、筋肉が増量されていた。勢い重視のコンテ振付ということも幸いし、前回のようなあからさまな格下感はなかった。

欲を言えば、センターを踊る以上は他の人よりも目立ってほしいが(一斉に踊ると埋没してしまう)、今後に期待しよう。あとはポワントを履いた時にどうなるか。小林さんを上回る飯島さんの出番量は、現状では明らかにおかしい。

★「クラリモンド〜死霊の恋」全編

前の日記に記したように、初演は4年前で、わずか20分の小品。元となったゴーティエの短編の終盤のみを描いたもので、バレエ作品としては長編の見せ場を抜粋したガラ公演の演目のようだった。ちなみに私はゴーチェと覚えていたので最初は気付かなかったが、ゴーティエは「ジゼル」の台本に関わった3人のうちのひとり。

今回は初演作品に前日譚を40分付け足して、起承転結のはっきりしたひとつの作品に仕上げているが、初演時から熊さんの頭の中にはこのことがイメージされていたようだから、改訂版とは呼ばず「全編」版と称しているのだろう。

追加された部分は、新味のない凡庸な展開にちょっとがっかりはしたものの、熊さんの作品はわかりやすさを信条にしているから、物語が明確になってよかったかな、と思ったが、我が師はお気に召さなかったようだ。

「これなら(付け足し分は)いらない」

白が基調の衣装に結核、ショパン、娼婦ときては「椿姫」「マノン」の二番煎じ感が強すぎ、初演版のオリジナル感が消え失せてしまったからだそうだ。観る者が想像で物語を補う方が、原作のエッセンスを凝縮したような印象になるという。

しかし今回は、いつアルマンの父が出てくるだろう、墜ちていく神学生はまんま「マノン」ではないか、とちょっと白けてしまったそうだ。それに結核ならロミュオーもアウトだな。感染症なめんな。(笑)

お師匠さまの話を聞いているうちに、腑に落ちたことも。初演版ではあまり気にならなかったが、今回は後半の展開の不備が気になってしまった。

化けて出てきたクラリモンドは、最初血を吸う気まんまんだが(笑)、途中から一転、吸うことをためらうようになり、にもかかわらずその理由が明らかでない。ロミュオーの変わらぬ愛、真実の愛に目覚めて、彼女は血を吸うのをやめた、というようなことを書いている人もいたが、あの演出でそれを読み解けというのはちょっと無理があるし、もしそうだとしたら安直すぎる。

ロミュオーの首にかぶりつくのは彼女が吸血鬼だということを明瞭にさせるための演出だというのはわかるが、そのためラストとの矛盾が生じてしまった。いろいろ省かれていた初演時は細部を曖昧にすることで誤魔化せたものの、全編版として輪郭をはっきりさせた結果、不具合も浮かび上がってしまった。

そもそも彼女がロミュオーの元へやってきたのは、彼への未練、死してなお会いたかったからで、吸血が目的ならそのへんを歩いている奴を襲うはず。 自分は人の血を吸わなければ生きていけないもののけになってしまったが、ロミュオーの血だけは吸いたくない、というのが彼女の矜持であり、変わり果てた自分に対しても変わらぬ想いを抱いてくれると知ってからは、なおさら彼の血だけは吸ってはいけない、とクラリモンドは思っていたからこそ、ロミュオーが自分の血を飲め、と言ってくれたにもかかわらず、かたくなに拒むシーンが切なくなる。

もっとも観る前は、ロミュオーが血を吸われることでクラリモンドの眷属となり、闇落ちする話かと思ったが、それではカルメンか。(笑)

ちなみに原作では、愛する人の血を飲むわけにはいかないからと、最初から血を吸おうとはしない。むしろ避けていたが、腹が減らないわけではないから次第に元気がなくなり、ロミュオーが怪我をして血を滴らせると、思わずすすってしまう。でもその後は自制するから、ラストのロミュオーとのやりとりが生きてくる。もし再演するのであれば、このあたりの演出は一考を望みたい。

熊版ではロミュオーとセラピオンの関係にBL要素が盛り込まれているが(笑)、原作ではセラピオンは老師でBLの関係でもないから、杉野くんの「気の良い友人」という解釈もありになる。ただし石橋くんの表情は色っぽいから、彼にはBL路線の方が似合う、とお師匠さま。

浅川さんの配役は朗報だったが、原作では年老いた家政婦さんだし、娼館の女主人と知っても踊らない役だろうと思い込んでいたから、驚くと同時に嬉しくてちょっとうるうるした。これだけ踊れるようになったのならカルメンにも納得だ。配信してくれないだろうか。

浅川さん、一時休養ではなく一線から身を引く体裁を取ったということは、復帰できる確率はかなり低かったのだろう。でも最後まであきらめず、リハビリを続けた結果が今回の舞台につながった。不屈のバレリーナに心からの敬意を捧げ、これからも応援し続けようと思う。

堀内くんは初演でロミュオーを演じ、今回もすべて彼が演じたが、彼一択という配役にはうなづける。踊りの技術的にはこなせる人はほかにもいるが、嫌味のない幼さ、翻弄される演技は彼をおいて思いつかない。

敬虔なクリスチャンというよりは、何か抱えていそうな雰囲気を醸し出せる石橋くんも適任だと思うが、一途でまっすぐな印象の杉野くんも観てみたかった。カルミナの時もそうだったが、石橋くんの神父や修道士姿は似合っていたが、ランシエくんの修道院長ははまりすぎ。(笑) 踊りも上手くなったのではないだろうか。

日高さん、フィルターさえかけなければ、普通に上手い人だと思う。でも、わが国最上位レベルのバレエ団であるKのプリンシパル、というフィルターをかけると、やはり物足りない。

贔屓にしたくなる人は、最初の数ステップを観るだけで目を離せなくなるが、彼女にはそれがない。前にも書いたように、ロシアやウクライナにはごろごろいるレベル。やはり菅井さん級の初見インパクトが欲しい。熊さんの褒め方も微妙で、主催者として悪く言えないのはわかるが、明らかに浅川さんの褒め方とは違う。(笑)

さらに彼女は老けて見えるから、役を選ぶタイプの踊り手になる。似合いの役なら問題ないが、イメージから大きく外れる役の時は、シェスタコワさんやフィリピエワさん級の演技力が必要となるが、それは至難の業だろう。今回も浅川さんと並ぶと、どちらが主人だかわからない。バーバラはそれなりに踊り、目立つ役なのだから、浅川さんとチェンジすべきだったが、女主人なら山田さんも捨てがたい。

一目ぼれは若者の特権、躍り手には初々しさが欲しいところだが、残念ながら彼女にそういう雰囲気はないし、かといってマハリナさんやコレスニコワさんのような妖艶なお姉さん娼婦の色気もないから、前半は違和感がありすぎた。後半のホラー演技はまあまあだったが、前述のように演出そのものに問題があるから良しとは言えない。演技や表情はそれなりにこなしているだけに、適役があればと惜しく思う。むしろこの役は成田さんの方が気になった。それこそ矢内さんだったら、どう演じていただろう。

ラスト、呆然とした堀内くんがクラリモンドの衣装を力なく落とす場面、右手が衣装にひっかかってしまい、手首をひねって誤魔化していたが、ここは「落とす演技をする場面」なんだと思ったら、ちょっと冷めてしまった。無理に落とさずとも、そのまま引っかかったままにしていた方が自然で、ロミュオーの心情には合っていた。手首を半ひねりしただけなのに印象が変わるバレエ、怖いな。
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