2018年7月末に来日し、日光に観光に訪れた、フランス人教諭のティフェンヌ・ヴェロンさんが失踪し、3年が経過した。栃木県警も懸命の捜索を試みるが、遺留品ひとつ見つからず、県警も頭を抱えている難事件のひとつだ。
その1で事件概要を、その２では蓋然性の追及の前準備として、彼女の旅行計画を御覧頂いた。旅行プランも慎重で効率的、危険な個所は殆どなく、仮にてんかんの持病で倒れたとしても、直ぐに人目につくところばかりだ。ということで、事故ではなく、第三者の関与による失踪の可能性が濃厚という結論に達した。
今回はいよいよ限られた情報からという縛りはあるが、失踪のシナリオをシミレーションしてみたい。
■シナリオ1:スポットで失踪した■
犯行推定時刻は7月29日(日)10時〜13時(注・拙稿では時間の表記を24時制で統一して行います)が最も可能性が高い。
というのも日曜日でこれ以上遅いと人目につきやすい。犯人としてもやりにくくなるからだ。彼女は出来るだけ限られた時間で多くの名所を回りたいことが旅行プランから読み取れたが、といって、性急な性格ではない。ゆとりを持って、徒歩で行きたい人なので、矢張り徒歩での移動だろう。また彼女の立場から見ても、遅くとも13時30分には何としてでも美術館、博物館には入りたいはずだ。犯人の立場とヴェロンさんの旅行プラン、スタイルからするとこの時間帯にならざるを得ないのである。
彼女が日光の旅行で絶対に外せないところは、
●小杉放菴記念日光美術館
●日光東照宮美術館
●日光東照宮宝物館
だろう。これらは本来であれば、28日に訪れたい場所であり、最優先スポットだった。しかし先述したように、彼女が東武日光駅に遅い時間に到着した事情は不明だが、なぜか14時過ぎだった(東武鉄道が公開した防犯カメラによる)。チェックインまで2、3時間程度しかない上、美術館、博物館は大抵遅くとも17時には閉館してしまう。タクシーを使って慌ただしく街中を駆け巡るスタイルではないので、これらは29日とチェンジしたはずだ。
栃木県警(以下、県警とします)はなかなか防犯カメラを公開しようとしないが、この時間帯の博物館に彼女は映っていなかったからというだけかもしれない。
逆に失踪日の２９日に観光する予定だった東照宮、大猷院、輪王寺、二荒山神社に設置された防犯カメラには、映っていた可能性は濃厚だ。となると、彼女が変更後に29日に訪れる予定コースは
ホテル出発→別所跡→影向石→東照宮美術館→東照宮宝物館→小杉放菴記念日光美術館→?→?→?
ということになる。「?」は28日に行きそびれた場所である。29日の午前中の2時間に別所跡、影向石(いずれも問題の瀧尾神社至近)周辺の防犯カメラの洗い出しを行なえば、かなりの確率でヴェロンさんが映っている可能性が高い。
仮に映っていなかったとすれば、憾満ヶ淵に行った可能性もある。
但し、ヴェロンさんがターゲットにしていたスポットからは憾満ヶ淵はだいぶ離れている。彼女は効率的に旅行プランを組んでいる。出来るだけ動線を少なくしてプランを立てている。この緻密な計画性は驚くばかりだが、持病のてんかんの発作がいつ起きるのか分からないので、こうならざるを得ないのだろう。憾満ヶ淵は時間の制約がないので、28日の土曜日の16時にチェックインだけ済ませ、荷物を置き、身軽にしてからの方が行きやすい。何しろ真夏の夕方の日光である。まだ陽は明るかっただろう。
ならば矢張り29日に憾満ヶ淵に行った可能性は高くはない。
瀧野神社付近でも映っていない、憾満ヶ淵にも行かず、別の場所で失踪したパターンはあるのか。
■シナリオ2:ホテルでのトラブル�、�
意外かもしれないが、ホテルまたはホテル至近ではないか。県警が公開している情報は少ないが、もし本当に防犯カメラに映っていないのであれば、疑えば疑えるシナリオのひとつだ。
ヴェロンさんはとても慎重な性格なのは読み取れるが、その一方で、手放しに日本人を信頼に置いているところもあるのが感じられる。実際、ホテルから550mも離れたコンビニに夜の夜中、真夏とはいえ、若い女性がひとり夜道で買い物に行っていることからも窺える。一泊一食のホテルであれば、自分の場合は宿泊前に用意するだろう。或いは16時のチェックインを済ませ、憾満ヶ淵に行ったにせよ、夏の夕方なのだから、17時はまだ明るい。その合間に帰りにコンビニ等で食料を調達したと思う。実際に深夜よりも夕方の方がコンビニも食べものを選べる。
日本人のひとりとして、信頼してくれていたのは誠に嬉しいが、どこの国も半分は悪い奴がいると思って大過ない。
これは残念だが事実だ。お前は皮肉れ過ぎていると批判されるが、今の世の中は
「渡る世間は鬼ばかり」
と決めつけて生きるぐらいがちょうど良い。
鬼ばかりと思っているから、実際に想定に反して親切なことをされたとき、感謝の気持ちも素直に出る。これが親切にしてくれて当たり前と思っていると、そうでなかったときに幻滅する。嫌なことをされるのが「普通」と思っているから、その場は業腹になっても、恨むことは無い。当たり前と思っていると、周囲から傲慢で鼻持ちならない奴と思われ、次第に無視されるようになる。
このホテルには当時は防犯カメラがなかったのではないかと指摘する当時の宿泊者も少なくない。
トラブルというと双方の諍いを想像するが、この場合は外国人女性が異様に好きな男性が偶然ヴェロンさんを見つけ、言葉巧みに誘い出したケース。彼女は慎重な性格なのが読み取れるが、日本人に対しては好い印象を持ち過ぎている。瀧尾神社では60代不審なガイドがいるとのことだから、ガイドに扮して、自分のクルマに乗せ、そのまま連れ去ったのかもしれない。
ヴェロンさんは28日の23時以降〜29日の0時30分ぐらいまでの間にコンビニ(7-11)に行っている。これは公開されている防犯カメラでも明らかだ。公開されているのは独りだが、果たしてそれだけだったのだろうか。県警が犯人しか知り得ない情報で公開出来ないのであれば致し方ないが、彼女が別の人物とコンビニで会話しているのであれば、この人物が誘い出し、「朝、君が行きたい観光スポットを案内するから、迎えに行くよ。」と言ったかもしれない。
後はご想像にお任せする。
実際、彼女のお手持ちのスマホはホテル周辺でGPSは途切れていると警察は述べていたことからも辻褄が合う。
蓋然性の追及という点で、もうひとつ考えられるシナリオがある。こちらはかなり荒っぽいシナリオだ。
■シナリオ3:ホテルでのトラブル�□�
実はヴェロンさんがいなくなった部屋にはおカネとスマホ以外、ほとんどのものは置き去りとなっていたという。
中でも個人的に注目しているのは、持病のてんかんに関するケアの仕方を書いたメモが残されたまま失踪してしまったという点である。
スーツケース、旅行かばんが残っていたこと自体違和感はない。
スマホとおカネは持参したことも違和感はない。
しかしながら、下手すれば命に関わる発症をする場合だって少なくない、てんかんのケアの仕方を日本語で書いたメモは(他のモノは忘れたとしても)自らの意思で外出したのであれば、絶対に持参するはずではないか。勿論本当に忘れてしまった可能性はゼロではないが、これまでの慎重な彼女の性格からすると、その可能性は低い。
県警は出来るだけ宿泊者に事情聴取は行ったと考えられるが、もし海外に既に出国してしまったのであれば、その中に犯人がいたかもしれない。
だから防犯カメラにも映っておらず、更にスマホのGPSもホテル周辺でしか反応しないのも合点がいく。
■クルマは有力な手がかりになる■
ヴェロンさんのお兄さんによれば、ヴェロンさんが失踪した日、件の怪しいブルーの色のクルマをインスタグラムで憾満ヶ淵至近で見つけたという情報もある。
このクルマが事件後にどうなったかは、仮に青いクルマに乗っているドライバーが犯人として、どう事件に対して思っているかで違ってくる。
犯人は白人の外国人の若い女性が好きな人物かもしれない。観光スポットの脇でじっと機会を窺うか、コンビニ付近でヴェロンさんを見つけた。しかし犯人は勿論彼女がてんかんの病気を抱えていることは知らない。衝動的に日本人に友好的な若い白人女性を拉致には成功したものの、てんかんの持病を発症したので、びっくりして放置してしまった。これが有り得るシナリオのように考えられる。
では、彼女はどこに?
県警が本当に防犯カメラを幾ら見ても彼女が映っていないと本当に言うのであれば、今まで捜していなかった箇所しかないだろう。
ヴェロンさんが件の青いクルマに乗せられて拉致され、犯人が慌てて放置して逃げたというのであれば、クルマが廃車も含め、処分されている可能性が高い。最近のDNA鑑定は優秀だ。彼女の毛髪などがあれば、識別出来てしまう。2018年8月以降、1年以内に
・廃車に出した
・下取りに出した
・車内クリーニングに出した
といった面から特に青色のクルマを中心に調べれば犯人に近づけるのではないだろうか。犯人が小心な人物であれば、他県でこれらの処理を行なっているかもしれない。
何とも思わず、残念ながら殺害し、平然と山林に遺棄した人物であれば、依然として臆面もなくこのクルマに乗っている可能性が高いが、今のところ犯人も気にしているのだろうか、その手の情報が事件後は調べているが、見当たらない。
ヴェロンさんのご家族は当初、捜索が進展しない状態に苛立ちと焦りから、フランス大統領府に「捜索に日本の警察が尽力していない。」と批判めいた申し出を行なったことが分かっている。但し県警に同行したフランス人は
「フランスで同様のことが起きれば、矢張りフランスの警察も同じことをするしかないだろう。」
と冷静に評価している。
この事件、日本、日本人、日本文化に興味を持った外国人女性がいなくなってしまったことで、地元日光の人達の間から、ヴェロンさんのご家族が捜索に滞在している際に、何も出来ないが、もっと滞在したいのであれば宿代をカンパします、と申し出た人もいたという。
ヴェロンさんが一日も早く発見ではなく、保護されることを心から期待してやまない。
(了)
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