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2021年07月20日13:20

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「美女と野獣」オンライン鑑賞会(その1)


月末30日から、恒例の清里フィールドバレエが始まる。今年の演目は「眠れる森の美女」で、初日と月明け4日は小野さんと福岡くんが舞台に立つ。毎年参加しているところをみると、あの環境を気に入ったのだろう。高地トレーニングにもなるだろうし。

またバレエ芸人の松浦さんが赤ずきん役で出演するという。彼女の映像はネットで何本か見たことがあり、それなりに楽しめた。目くじらを立てている人は何が気に入らないのだろう。

一方、緊急事態宣言が出ている都道府県在住者に限り、チケットの払い戻しに応じるという。そういうところからは来るな、ということか。(笑)


陽性者も増えているので「美女と野獣」のオンライン鑑賞会を開くことにした。時間を合わせて配信をスタート、スマホをハンズフリーにして傍らに置けば、気になったところはすぐに質問できるし、お師匠さまの解説はとても勉強になる。

★プロローグ
オープニングの曲はネットで検索するとテンポの速い元気な演奏動画がたくさん出てくる。しかしそれだとベルのイメージには合わない。公式サイトを見ても指揮者とオケについての記載はないから既存の録音を音源としているようだが、それが仕事とはいえ、よくこれだけ場面にマッチした曲を集めたものだ。

「あらすじ」では特に強調されていないが、この作品では「薔薇」がキーワードになっているように思う。そのことはおいおい記すとして、舞踏会のドレスを除くと、ベルの服の色も淡いピンク色。薔薇の季節に神代植物園へ行くと、こういう色合いの愛らしい花をたくさん見かける。

★ベルの愛想笑い
本を運ぶお父さんは腰があまりよくないようだが、商売に出かけて大丈夫なのだろうか。ベルは両手で本を持ったまま踊るから下半身主体の踊りになるが、小野さんの足さばきについ見惚れてしまった。また彼女の演技は自然で、あざとくないのがいい。

「あらすじ」にベルは「もっと知らない世界を見たい」と思っているとあるが、読書を愛し、求婚者たちに言い寄られ困惑する様子から、最初はなんとなくインドア派の少女のイメージを持った(「あらすじ」のライターが作品を正しく理解していないことはままある)。けれどその後に描かれる気丈で芯の通った性格からすると、それもありかもしれない。

しかし文字量の限られた「あらすじ」に、それは必要な情報なのだろうかという気もする。野獣と薔薇の化身の関係性とか、ベルはなぜ薔薇をもらってあれほど喜んだのかとか、もっと観客に伝えた方が良い事柄はあったのではないだろうか。

3人の求婚者(以下三馬鹿)の踊りを観た時は、つい「カルミナの神父」を連想した。(笑) うっとうしい連中ではあるが重要な役回りを与えられており、コミカルな演技とリズミカルな曲を組み合わせることで憎み切れない悪役となった。また道化も兼ねることで終盤の狂気が生きてくる。

★父、迷子になる〜帰還
野獣とともに登場するのでなんとなく薔薇の化身は野獣の手下に思えてくるが、回想シーンでは仙女が置いて行ったとあるから、野獣の見張りも兼ねているのかもしれない。

「いろいろな人を操る影の支配者にも見えてくる」と、お師匠さま。

化身が手にするライトは果物でもあるようで、口にしたお父さんが美味しさに身震いする演技とフルートのトリルがぴったり合っている。八幡さんの演技が上手いからではあるが、ほかにも曲を映像に置き換えたような振付が随所にある。

それにしても、演出に無駄がない。お父さんが野獣にベルの存在を伝えたり、帰宅して出来事をベルに語る場面では、マイムでくだくだしく説明するのではなく、ベルや野獣の姿を象徴的に見せるだけだが、物語が頭に入っている観客にはそれで伝わり、あとは観客が勝手に想像してくれる。

★ベル、野獣と対面
ドアを乱暴に閉める効果音と曲だけで野獣の恐ろしい「イメージ」を表現するのも上手い。ただ、机を叩き食器を薙ぎ払う行為と、舞踏会での奥手なキャラが脳内で一致せず、最初は野獣の性格をつかみきれずにいた。

この作品は、ぼーっと眺めているだけで登場人物たちのセリフが「見えて」くるのだが、ぶどうがテーブルに置かれた後の野獣の心境だけがいまひとつわからなかった。ベルはぶどうには手を付けず、代わりに野獣をじっと見つめる。すると野獣は「そんな目で俺を見るな」とばかりに顔を背け、苦悩するような仕草をしたあと、突然怒り出してテーブルを叩き、最後は肩を落とすようにして去っていく。

「(野獣は)頭ではわかっていても、美しいベルに真っ直ぐな目で正面から見られると、自分の醜い姿を見られたくない、みたいな気持ちが働いたのかな」と、お師匠さま。

「それまでの出会いのPDDでは、ベルは怖がったり嫌がったりしてまともに対峙していなかったはずだから、あんなに真っ直ぐ正面から野獣を見ていなかった。でも、威圧的とはいえ一応もてなされたから、ベルは野獣をヒトとして見つめてみたのかもしれない」

「そうしたバイアスなしに見つめられると、野獣は改めて自分の姿が恥ずかしく惨めになり、姿と同じ行動をとってしまい、ベルもそれに合わせて反発する。するとやっぱりという思いで野獣は怒りと哀しみで食器をなぎ倒し、ベルに恐怖を与えてしまう。でもそんな自分が嫌で、後悔の気持ちと共に肩を落として去っていく…という流れではないかな。素直になれない卑下する気持ちと、期待とかいろいろ複雑なんだろうな、と」

なるほど! では本心では仲良くしたいはずの野獣はなぜ、最初は感じ悪くしているのでしょう?

「世間で思われている野獣のイメージで現れたら、ベルはどのような態度をとる人なのか様子を見ている、というのもあるのかな。怯え泣き叫ぶとか、懇願するとか、いろいろ考えられるよね。ベルは怯えてはいるものの芯があるというか、野獣におもねることはしなかったから、逆に本質を見極める可能性があると判断して、理解してもらおうと思ったのかもしれない」

・・・師匠、一生ついていきます!

★ベルの悲しみ〜夢の中の出会い
野獣が去ったあとの悲しみと、夢の中の出会いで使われる弦主体の2曲(カウンタープランのアンダンテとガドフライのロマンス)は、ショスタコーヴィッチに抱く私のイメージを粉微塵にした、ともに抒情的で美しい曲。

野獣の仮面を取った福岡くんの一転優雅な踊りと、2人のパートナーシップの妙、小野さんの野獣を表現する可愛らしいマイムもこの場の見どころ。もっとも、“美青年”に「うわべに騙されてはいけない。目に相談してはいけないよ」と諭されても説得力ないんですけど。(笑)  単に「人は見かけによらず」では、おまえに言われたくねーよで終わってしまうから、この場面には後述のようなもっと深い意味がこめられているのかもしれない。

「夢の中での出会いは『白鳥』の出会いのPDDに似てるよね。ベルは逃げるけど気になる様子だし、手をとられた時は片脚を震わせる。あるいは『ロミジュリ』のバルコニーの穏やか版という感じもあるね。『タチヤーナ』の鏡のPDDよりも穏やかだし」

★おさる隊長、登場
悲鳴といいサルの仕草といい、ステレオタイプというかベタなギャグではあるけれど、使い方が上手いから、つい笑ってしまう。

子ザルは公演主体の佐々木三夏バレエ・アカデミーの生徒たちが務めるが、ただのお飾りではなく、ベルの警戒心を解くという役目がある。福田サル隊長の部下2人は、元Kの森田くんと、元NBAで現スタダンの飛永くん。隊長との息もぴったりで、こうした実力者が要所要所に配役されている。

★野獣の苦悩〜忍び込み
ベルを気に入ったサル隊長、うちの殿もあの子に好意を抱いているようだし、どうやってくっつけようか、と一思案。1分半にも満たない短い場面だが、お笑い芸人のコントのよう。

貧乏ゆすりしていらだつ野獣の脚を抑えようとすると一緒に震えだしたり、「あの美人さんに振り向いてほしいんでしょ」「どうしたらいいんだ」「まずは礼儀正しい挨拶からですね」野獣の両腕を大きく広げ獲物に襲い掛かるような挨拶に「それじゃダメです。もっとにこやかに」口を大きくあける野獣を見て、なんか違うなあ、こりゃダメだ、と肩をすくめるサル隊長。「まずは姿勢を良くするところからいきましょう」

続く場面も短いコント。変装して城への侵入を図る三馬鹿たちの仕草と曲が面白い。

★晩餐会、開宴〜悪だくみ
古典のディベルティスマンは踊りの羅列になりがちだが、この作品では踊りの合間だけでなく、踊りの「中」にまで物語が挿入されている。

先の日記に記したように群舞は20人に満たないが、ここにも腕達者たちが配されているので物足りなく感じることはない。宝満さんはNBAの久保さんと「海賊」を創ったりもしているからその時の縁だろうが、ローズフィンチ役のNBAの野久保さんが新国の注目株に比肩する実力者で、このたび要注意者リスト入りした。(笑)

サル隊長の合図で舞踏会が始まる。ブルーのドレスに着替えたベルの入場シーンでは鳥群舞がフォーメーションを整え、あたかもオーロラの登場場面のよう。子ザルの出迎えに続いて野獣も教わった通りに挨拶をするが、ベルは挨拶を返すどころか笑顔を引っ込め、ツンと上を向いて無視。野獣は「話が違うじゃないか!?」と隊長に詰め寄るも、まあまあ落ち着いて、とりあえずお席に、とはぐらかされる。

「今更ですが、ドレスは野獣が用意したのでしょうね」

「野獣も上着を着ているし」

「サルたちも少しだけおめかししてますよね」

「ベルは髪型も変えてるし」

「えっ!?」

「えっ!?」

「・・・ほんとだ」

サルや鳥たちが踊っている間、ベルと野獣は舞台袖の白い箱に互いに背を向けて座っているが、野獣はベルが気になって仕方がない。思わず隣に座ろうとすると、ベルは座る位置をずらして離れてしまい、首を垂れる野獣。

野獣とベルの破天荒なPDDでも、背後で鳥たちが「うちの殿様、何やってんのよ」「そこは手を取るとこでしょ」「あぶない!」とはらはらしながら眺めている。おそらく画面の外では他にも演技をしている人がいるのだろう。今回は元を取るどころの話ではないほど配信を堪能し、観るたびに新しい発見もあったが、メインではないが気になるところを見られないのは配信の短所だろう。

鳥とサルの踊りが終わると、中家さんたち三馬鹿が乱入。3人は他の人よりも体が大きいから「ゴリラ」という設定らしいが、仕草はサル隊長を模している。ヤンキー座りをして凄んでみせたり、ベルにちょっかいを出そうとして野獣に睨まれると逆に威嚇したりとやりたい放題。演技はコミカルだが踊りだすとダイナミックで見応えがある。最後は野獣を怒らせて逃げ散っていく。

ベルを助けるためとはいえ、思わず抱き上げてしまった野獣は慌てて彼女を下ろす。ベルも突然のことに戸惑い気味。野獣はサル隊長に促されて踊りに誘おうとするが、ベルは逃げるように舞台の反対側へと離れて行ってしまうため、がっくり肩を落とす。そのあとどうなったのかはフレームアウトしてわからないが、ベルは鳥たちに促されて踊り始める。

流れるような小野さんの踊りはまさに目と心の栄養というのは置いといて、踊っていると箱にしょんぼり腰掛ける野獣の姿が目に入る。それを見たベルは自ら野獣の手を取りに行くが、その前に一瞬、意を決する表情を入れるのが小野さんクオリティ。直前にブタをお父さんと間違えた時も、踊りに戻る前、泣きそうな顔をする。凄いな。

いざ野獣が立ち上がると、やはり怖くて思わず距離を取ってしまうベル。野獣は期待させられただけにさらにダメージを受けて箱に突っ伏してしまう。しかしサルたちはこの機会を逃したらもうあとはないとばかりにけしかける。「うるさい! もういいんだ!」と頭を抱える野獣。一歩を踏み出せない野獣を見かねたサルたちは総出でその手足に取り付き、ベルの方へと無理矢理歩かせる。

一方ベルも鳥たちに促されて踊りを再開、舞台中央で鉢合わせする2人。心配そうに取り囲み見守るサルや鳥。どうしようと振り返る野獣に、うなずいて最後の一押しをするサル隊長。意を決した野獣は上着の内側から薔薇を一輪取り出し、ベルにプレゼント。ベルは受け取るも、しばらく呆然と花を見つめる。その様子を固唾をのんで見守る野獣、サル、鳥。

うつむいたと思ったら「嬉し〜」と笑顔で薔薇を抱き踊り始めるベル。やったー! よかったー! と喜び合うサルと鳥たち。ベルの踊りは次第にエスカレートして、最後は野獣に向けてダイブ。

薔薇一輪になぜそこまで喜ぶのだろうと最初は不思議に思ったが、お父さんが出張先のお土産に薔薇をと思うくらいだから、もともと薔薇が大好きな子なのだろう、と思うことにした。

このあとがワルツ2番をBGMとした野獣のソロと変則PDD。ベルをそっと下ろした野獣は人形のようにぎこちない動きで舞台の奥へと行ってしまう。それを不思議そうに見送るベル、ちょっとちょっとお嬢さんを置いてどこへ行くんです? と慌てるサル、鳥たちもあっちあっちと野獣の背後を指さす。

それも束の間、宝くじが大当たりしたにもかかわらず最初は実感がなく、じわじわと喜びがわきあがってくるかのように野獣に生気が戻り、踊りのステップも力強さを増してくる。

野獣は勢いに任せてベルを踊りに引き込んだものの、ただ振り回すだけで作法も何もないから、ベルは最初合わせるだけで精一杯。鳥たちもおろおろしたりダメ出ししていることは先に書いた通りだが、次第にベルはその破天荒な踊りが楽しくなり、リフトされると「空を飛んでるみたい!」と大喜び。くるくる変化する彼女の表情を見ているだけでも楽しくなってくる。

逆さまに抱えあげられた時はさすがにサルが「殿、落ち着いて!」と介入する。しかしめまいをおこしてへたり込むベルを見ても、浮かれて踊り続ける野獣。途中手を取り忘れたり、最後はベルの前に立ちはだかってしまう野獣だが、ベルがタイミングを合わせたり、自ら手を取りに行ったりしているうちに、2人の踊りは次第に息が合っていく。

再びサルと鳥の踊りが始まり、一息ついたベルと野獣も混ざって、まさに舞踏会のフィナーレ。差し伸べられた野獣の手を取りにいくベルにためらいはない。華やかな曲と踊り、進展していく2人の関係性に、目と耳と心が幸せで満たされていく。

「野獣の喜びに溢れたコミカルなPDDのリフト、何度見てもすごいね。何であの体勢からこのポジションに? とか、ここで体の向きを変える? とか。野獣のソロは躍動感はあるけど、王子の時みたいなノーブルさはないんだよね。でも大雑把とかではない。そのさじ加減が見事」

レベランスするベルの後ろ姿を愛おしそうに眺めていた野獣は、ふと我に返り、うなだれながら舞台の奥へと去っていく。こんなに美しく輝いている子が、醜い自分と釣り合うわけがない、とでも思っているのだろう。寂しげなホルンの曲が野獣の気持ちを代弁しているかのよう。

ベルに挨拶をして引き上げる群舞。これ幸いとベルに近づこうとした三馬鹿は気付いたサル隊長に追い払われるというギャグを挟み、ベルは元気のない野獣に心配そうに歩み寄る。彼は大丈夫と虚勢を張るも、どこかおかしいのはばればれ。元気づけようと笑顔で踊りに誘うベル。曲相も明るいものに変わる。優しげなフルートの調べがベルを表しているのだろう。

元気が少し戻る野獣のもとに、突然馬が連れて来られる。三馬鹿たちが乗ってきた馬で、放置されていたのをサル隊長が見つけたようだ。野獣はくつわを外すと優しく解放してやるが、最初はこのエピソードの意味がわからなかった。別になくともよいのではとすら思ったが、何度か見ているうちに意図がわかった(たぶん)。

最初ベルは不思議そうに馬を眺め、野獣の行為を見ているうちに笑顔になるのだが、その笑顔が向けられる先は馬ではなく野獣。見た目は獣だけど優しい人間の心を持っている、と彼女が確信した場面ではないだろうか。

続く食事のシーンでもベルの変化が描かれる。獣の手と顔ではスプーンだと食べにくいからなのか、それとも愛が足らず獣化しつつあるのかは不明だが、シチュー皿に顔を突っ込み器を舐める野獣の様子を、ベルは最初「えーっ?」という顔で見るが、次いで意を決し自分も器に顔を突っ込む。

野獣はチャップリンのひげのようにシチューが付いたベルの顔を見て驚き、あわててナプキンでいささか雑に顔をふく。仕草は荒っぽいけれど他人を気遣う心はある、ということなのだろう。残った分は指で取ろうとする野獣から、恥ずかしそうに顔をそらすベル。でも浮かぶのは笑顔。

手を振り寝室に戻るベルを寂しそうに、名残惜しそうに見送る野獣。しかし彼女の姿が見えなくなると、両手を握りしめ、よっしゃあ、やったぜのポーズ。(笑) 背後にはいつの間にか笑顔のサルや鳥たちが集まり、鳥は喜びを隠しきれずぴょんぴょん跳ねている。臣下に慕われている野獣、根は悪い人ではないということがわかる。

はっと気づき、何を見ている、さっさと寝ろ! と照れ隠しに吠える野獣。犯人はお前だな〜? とサル隊長を追っかけて退場。

代わりに闇の中から現れたのは三馬鹿。ちくしょうやってられるかとサルの仮面をたたきつけるリーダー。そうだ、良い手があるぞ、と背後から引っ張り出したのはお父さんだった。

この作品には、古典の美しい群舞やバルコニーの逢瀬、美女のキャットファイトのような印象に残る場面はないと先の日記に記したが、それは撤回。楽しく心暖まる舞踏会シーンは、2人の心情の変化や臣下たちの思い遣りを描いた演出、軽快な曲や振付も含めて、観終わるとほっこりする素敵な場面だ。

(続く)
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