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2019年09月09日05:14

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半世紀以上に及ぶ取材映像がそれぞれの人生を紡ぐ、歴史的な労作だと思います。NHKドキュメンタリー「移住 50年目の乗船名簿 完全版」(全3回)を見て。

1968年(昭和43年)、あるぜんちな丸に乗り込んで南米に移住した人々を追って、NHKはドキュメンタリー「乗船名簿AR29」を放送しました。そして担当ディレクターは、その10年後、20年後、そして31年後と取材を続け、今回50年後の取材を合わせて90分の「完全版」3作品にまとめあげた、というテレビ映画史上まれに見る労作です。

よく“人に歴史あり”と言われます。永年にわたるある人の歴史をつぶさに追えば、それだけで作品として大きな力を持つ。そういう意味でも、世界を見渡してあまり類を見ないドキュメンタリー作品だと言えるでしょう。関係者の労を、まずねぎらいたいと思います。よくぞ作ってくださった。

もう皆さんはお気づきでしょうが、マイケル・アプテッド監督が「56UP」という作品を作っています。これは「世界の七歳」という1964年のテレビ番組からスピンアウトした作品で、当時7歳だった子供たちの7年後を追った「7 Plus Seven」など、7年ごとに発表されています。2019年には「63UP」が完成しているらしい。ということで、NHKも「世界の七歳」に協力していますから、その番組がヒントとなったのでしょう。

だからといって、この「移住」シリーズの価値が下がるわけではありません。若者が希望を胸に南米に渡り、それこそ艱難辛苦を越えて人生を積み上げてきたわけです。その姿には胸を打たれます。さらに第3回「理想郷のゆくえ」では、70歳近くなって南米への移住を決断した開拓詩人・伊藤勇雄とその一家のエピソードは、ある考えをもって人生を全うしようとする姿が見事にとらえられています。

こうなると作品そのものが“歴史”です。マイケル・アプテッドは取材対象者から、“7年に一度、1~2週間取材するだけで我々の何が分かる?”と疑問を呈されます。確かにそのとおりですが、それでも積み上げられた人生が垣間見える。それが作品の力です。この「移住」シリーズも、そういう意味が大きい。

もちろん個人的には、取材するディレクターの“タメ口”が不愉快に感じることがありました。あるいは、ナレーションひと言で済むことをインタビューで繰り返し質問している場面にはがっかりします。しかしそれを越えて、やはり何十年もの“つきあい”が感じられるわけで、見ている我々も“親しみ”を覚えるのでした。それが人と人のつきあいであり、人生なのだと実感できる。

こんなドキュメンタリーは、劇場公開というわけにはいきません。僕だって6月末に3夜連続放送したものを2か月かけて見終わったわけですから。となるとマイケル・アプテッドの「63UP」は3時間か、いつどこで見ることができるだろう。←僕は「35UP」をたまたまアメリカで見て、それからNHK教育テレビの短縮版を録画するなどして、「56UP」はアメリカ盤DVDを購入したのでした。また、そのパターンかも。

とにかく、半世紀に渡って取材対象を追い続けるという、それだけでも稀有な偉業だということを確認しておきたいと思います。でも皆さんは、その程度で捨ておかないでくださいね。
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